第百五十三話 戻って来た二人
「見えてきた。やっと……戻って来たぞ!」
地平線の彼方に、見覚えのある建物の一部が見えてきた。ルウミラと初めて戦った東の大灯台だ。
最果ての島を離れ、ほぼ一日はかかった。途中でいろいろトラブルもあったけど、なんとか戻ってこれたな。
「ルウミラ、君のおかげだよ。本当にありがとう」
「ロバート。まだ礼を言うのは早いわよ、あそこの島で起きているトラブルを解決しないと」
「あぁ、そうだったね」
ルウミラの言う通りだ。もう二日くらい離れていた計算になるけど、そもそもあそこの島では魔物が大量に発生する〈スタンピード〉が起きていたんだっけ。
そんな騒動の最中に俺は転移されてしまったんだ。
しかも俺の〈シェアリングピアス〉が奪われたから、エイダの力も下がったはず。かなりの被害が起きていてもおかしくない。
今、島はどんな状況なんだ。島までもう少しだけど、ルウミラに無理を承知で頼もう。
「あともう少しだけど、飛ばせるかい?」
「それはいいけど、島に着いたらまず何をするべきか、わかってるわよね?」
「あぁ、さっき話した通りにするつもりさ」
一時間ほど前、ルウミラからあの島で起きている〈スタンピード〉の詳細な背景について聞かされた。
耳を疑うような内容も多かったけど、半分は俺も予想していた通りだ。
まず魔物の大量発生を引き起こしているのは、ディエゴの店で働いていたミーナだ。
ミーナがスージーと共謀し、魔物を大量に召喚させることで、俺とエイダとパメラを分断させることにした。
狙い通り俺が二人と別れ、スージーが俺と一緒に大灯台までついてきた。そしてルウミラはミーナの姿に化け、俺を待ち伏せし、油断させてピアスを奪った。
ここまで話したところで、ルウミラはかなり恥ずかしがっていた。まぁピアスを奪う作戦のためとはいえ、口づけはかなり強引だった。俺もすっかり心を奪われたもんな。
そしてここから先の内容が驚愕だった。俺を最果ての島まで飛ばし、ピアスを奪ってその後に企んでいたのはそのピアスの複製だ。
その複製魔法を使えるのは、魔法道具屋のウィスベリーだという。確かにウィスベリーはそんな魔法が使えてたっけ。
「でも、ウィスベリーも指示されて動いていたにすぎないわ。彼も彼女に利用されているの」
「アメリアだな。あの女、一体何が目的でこんなことを……」
「彼女は私も知らない謎が多いわ。でも、目的のためには手段を選ばない女」
ルウミラだって操られていた時はそうだった。あのアメリア、本当に人を物のように扱いやがる。
俺の島で起きている騒動の元締めだ。最初に会った時から不穏な感じがしていたけど、これ以上好き勝手させるわけにはいかない。
「ピアスを複製されたらヤバいな。でもアメリアは、そのピアスを誰に装着させるつもりなんだろう?」
〈シェアリングピアス〉は装備している者同士で、ステータスが共有される。
俺のようにステータスがぶっ飛んで高い人間に装着させれば、そのぶっ飛んだステータスが共有できるから、これほど有効なアクセサリーはほかにない。
まぁ、俺はそれより凄いアクセサリーをすでに持っているんだけどね。
「……あの子供かも……」
「え? ルウミラ、どうしたんだ?」
「いや。なんでもないわ、気にしないで」
ルウミラがぼそっと呟いた。子供って言ったか、なんだろう。
もしかして心当たりがあるかも。ここは敢えて聞いてみようか。
「そ、それより……さっき見えた島だけど」
ルウミラが話題を変えてきた。
「島……そういえば小島があったな」
ちょうど二時間前か、俺が目を覚ました直後に甲板に出て、水平線の彼方に小さな島が見えた。
一瞬もう着いたのかと思ったけど、よく見たら小さすぎた。多分無人島かな。
「あの無人島がそんなに気になるのか?」
「いえ、なんというか……あんな場所に無人島があったかしら?」
「うーん、そう言われてもな。俺もこの周辺の海域の地理には詳しくないし」
確かに俺が持っている世界地図にもあんな島は影も形もない。でも小さすぎる無人島なんかは、そもそも世界地図にすら表示されないものだ。
「……胸騒ぎがする」
「おい、ルウミラ!」
ルウミラが突然船の後部に行った。さっき見た無人島がそんなに気になるのだろうか。
俺も彼女に続いた。
「さすがにもう見えなくなってるよ」
水平線の彼方にもう島は見えなくなってる。俺の島から北に100km以上は離れているだろうか。
「……もしあの島に誰かいたら?」
「え? 何言い出すんだよ、誰もいないだろ?」
「いえ、杞憂だと思うけど。念のため、確かめるわ」
「確かめるってどうやって?」
ルウミラが杖を高々と掲げた。杖の先端はさっき見えた小島に向けている。
「さすがに……届かないだろ?」
「いえ、届くわ。〈リモート・スカウター〉!」
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