第百五十話 ウィスベリーの体を触るのはどっち!?
「……ということよ。私が知っているのは、これだけ」
「なるほど。だが、結局アメリアが黒幕かはわからずじまいか」
「ごめんなさい。私も本人に会ったことはないからわからない。全ては、この男が……」
ミーナはウィスベリーに視線を移した。彼はまだ目を閉じたままだ。
「もう! いつまで寝てんのよ、この男は?」
「大丈夫よ。彼に事情を話す必要はないわ」
「それってどういう意味?」
エイダが右手に光るロープを握った。そのロープが、ウィスベリーの耳の穴へとつながっている。
「〈コネクティングロープ〉! あなたいつの間に!?」
「眠っている間に、ウィスベリーの脳内に侵入しておいたわ。彼の記憶を辿ったら、案の定アメリアと密談してた」
「そうか。だがまだ俺の方から聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいことですか?」
ジョニーがウィスベリーを見下ろした。
「アメリアの真の動機だ。なぜこんなことを企てたのか? そしてどうしてピアスを奪ったりしたのか?」
「それについても私の〈コネクティングロープ〉でわかっちゃいました」
ジョニーがきょとんとした顔でエイダを見つめた。
「……全く私の出る幕がないじゃないか」
「ごめんなさい。アメリアと密談してただけじゃなく、彼女とどんな会話を交わしたかもわかるわ」
「それで……どんな内容?」
「簡単にまとめると……」
エイダが密談の内容を簡単に述べた。
「……信じられない。この島を支配するですって!?」
「でも間違いなく言ってたわ。さすがになんで支配したいのかまでは、言わなかったけど」
「……まさかアレが?」
ジョニーが何かに気付いたのか、突然声をあげた。
「ジョニーさん、何か知っているんですか?」
「え? あぁ……すまん、気にしないでくれ。多分、気のせいだ」
「……そうですか」
「それよりさ、複製って本当にできちゃうわけ!?」
今度はパメラが聞いてきた。
「……できなくはないわ。そういう特殊魔法があることだけは知っている。私は無理だけど」
「仮にも一流の魔法道具屋の店主だからな。俺も一度見たことがある」
「え? 本当ですか?」
ジョニーは黙って頷いた。
「高度に作られた魔法道具の模造品、昔キシア帝国の市場でいくらか出回っていた。本物と比べると性能は下がるが、一見しただけでは気づかない」
「そんな……本当にこの男が!?」
「ふふふ……そんなこともあったっけなぁ。懐かしい」
突然ウィスベリーが笑い出した。
「あなた、起きていたの!?」
ウィスベリーはゆっくりと顔を上げた。薄ら笑みを浮かべている。
「本物は……もう手に入れてあるんだ」
「なんですって!?」
「本物……まさか!?」
「そうさ。実は昨日こいつの姉が届けてくれてね。そして今度はエイダ、お前のを狙おうと思っていたところだ」
「なんてこと……じゃあ、わざわざ二つ目を狙っていたわけね」
「いけないか? 本当はすぐに逃げればよかったんだが、俺も欲が出てしまってね」
「それは誤算だったな。だが素直に自分から喋ってくれるとはありがたい」
ジョニーが剣を鞘から抜いて、剣先をウィスベリーに向けた。
「〈シェアリングピアス〉を出してもらおうか。もちろん出さなかったら、どうなるかわかるな?」
「命令に従いたくても、縛られたんじゃ何もできないぜ?」
「どこに隠したかだけ言え。そしたらあとは俺が取り出すまでだ」
「おいおい、お前に俺の体触られるのか!? 冗談じゃないぜ、だったらそっちの二人にしろ!」
ジョニーはエイダとパメラを見た。二人とも即座に首を横に振る。
「……無理かな?」
「嫌よ、絶対に!」
「じゃあ喋らねぇよ、意地でもな」
ジョニーはため息をついた。
「だそうだ。二人とも、我慢してくれないか? ロバートのためだろ?」
「……くぅ、この男!」
パメラが弓を構える。
「やめなさい。じゃあ、これで決めましょう」
エイダが一枚の金貨を取り出して、ジョニーに渡した。
「あぁ、なるほどな……わかった」
「何する気よ?」
「金貨の表が出たら私、裏が出たらあなたね。それでいいでしょ?」
パメラも渋々ながら決心した。
「わかった。一度きりよ」
「ジョニーさん、お願いします」
「じゃあ、やるぞ!」
「ふふふ、さぁどっちが出るかな!?」
ウィスベリーが笑う中、ジョニーは金貨を親指で弾こうとした。しかし即座にパメラが手を上げた。
「ちょっと待って! どっちが表でどっちが裏か決めた!?」
「あ、そうだったわね」
「この金貨は片側に竜の模様、もう片側に剣と盾の模様があるな」
「じゃあ竜の模様がある方を表、剣と盾の模様がある方を裏ね」
パメラもエイダの提案に頷いた。
「決まったか? ったく前置きが長すぎるぜ」
「悪かったな。それじゃ……行くぞ」
ジョニーが金貨を親指で弾いた。
落ちてきた金貨を左手の甲の上に乗せ、即座に右手で覆った。
その様子をエイダとパメラが一時も目を離さず見ていた。動きに不正がないのを確認し、二人とも固唾を飲んで、ジョニーが右手を上げるのを見守る。
「……パメラ、お前だ」
金貨の剣と盾の模様を見て、パメラははぁっとため息をついた。
「不正はなかったでしょ?」
「……わかったわよ。やるわ」
パメラは不満を隠せない顔を見せながら、ウィスベリーに近づいた。
「いいね。結構スタイルいいじゃないか、お前」
「ふざけないで! それよりさっさとピアスをどこに隠したか言いなさい!」
「あぁ、そうだな。あれは……どこに隠したっけな?」
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