第百四十五話 竜の毒を治すには!?
バッシュの怒鳴り声が聞こえた。今にも攻撃しそうな気配だ。すぐに攻撃してこないことから、恐らく自分の勝利を確信しているんだな。
「バッシュ、こいつで引導を渡してやる。さぁ、来い!」
俺はルウミラからもらった杖を持って、身構えた。
「はぁ!? おいおい、いっちょ前に杖とか! てめぇ魔法が使えないんじゃなかったのか?」
「いいや、安心してくれ。今ルウミラからとびきりの魔法を教わったんだ」
「ほう、魔法をねぇ。そいつはすげぇ、でも関係ないな。なぜなら俺には……」
余裕を隠せないバッシュはポケットに右手を入れて、見覚えのある小瓶を取り出した。
「〈覇王の魂〉があるんだよ! てめぇがどんな魔法を使おうが関係ないぜ」
「懲りないな、お前は。今度怪物化したら、もとに戻れなくなるぞ」
「てめぇを殺せるんならそれでいいさ。さぁ、今度こそ引導を渡してやるぜ」
「それを飲む前に、この杖をよぉーく見たらどうだ?」
俺は杖を伸ばして、バッシュによく見せつけた。
「ははは! その杖がどうしたって? 〈ファイアボール〉でも飛び出すのか?」
「いいから、黙ってよく見てろよ」
バッシュはじっと見つめ続ける。すると次第に顔がうつろげになってきた。
「な、なんだ……その杖は?」
「ほーら、よーく見ていろ……」
バッシュの顔がゆらゆら揺れ動き出した。そして手に力が入らなくなったのか、ディバインクロスもそのまま地面に落下した。
バッシュはそのまま何も言わず、目が半開きのまま直立不動となった。
「おい、ルウミラ! これって……」
「うまくいったわ。バッシュ、爆弾を外しなさい!」
「……了解しました」
ルウミラが指示を出すと、バッシュは動き出した。そしてそのまま原動機の裏側に入り込み、ガコッという音を立てて爆弾を取り外した。
「そのまま甲板に出て、その爆弾を海に投げ捨てなさい」
「……了解しました」
そしてバッシュは言われるがまま、動力室を出て行った。
「ふぅー、一時はどうなるかと思ったけど、うまくいったみたいだな」
「まだよ。彼が投げ捨てるのを見たい、甲板へ……」
「あぁ、そうだな。でもルウミラ、立てるのか?」
「大丈夫、毒への耐性はそれなりにあるから……」
ルウミラは自力で立ち上がった。けど足がふらついている。俺が肩を担いだ。
「ありがとう、ロバート」
「気にするな。それよりバッシュを追うぞ」
動力室を出て、俺達も甲板へ出た。
「さすがのバッシュも、〈幻朧の杖〉までは想定外だったようね」
今のバッシュはマリオネット状態だ。これでルウミラの命令に嫌でも従う人形だ。バッシュが殺せない以上、これが一番いい作戦だな。
そしてバッシュも甲板にいた。俺達の目の前で、取り外した爆弾を海に投げ捨てた。
「はぁー、本当にこれで一件落着だね」
「バッシュ、あなたは倉庫に行きなさい。そしてそこから一歩も外に出ないこと、いい?」
「……了解しました」
バッシュはまた船内に戻って行った。
「はは、こいつは滑稽だな。あのバッシュが操り人形だ」
「そうね……うぅ!」
突然ルウミラが苦しみだした。
「おい、ルウミラ!?」
「……ごめん。まだ毒が……」
「そういえば解毒していなかった。くそ、毒治療薬は持ってないんだ。どうすれば……」
「さっき使ったわ」
「え? そうなのか、それを早く言ってくれよ」
ルウミラの言葉を聞いてほっと安心したのも束の間、すぐに異変に気付いた。
「ちょっと待った! 治療したのに、まだ苦しいってのか?」
「多分、普通の毒じゃないわ。これは……竜の毒よ」
「り、竜の……毒?」
思い出した。〈ロード・オブ・フロンティア〉では、ステータス異常の毒にもいろいろな種類がある。
単なる毒については、毒治療薬で治療できる。でもモンスターの強さによって、かかる毒にも強さがある。
今ルウミラが侵されているのは竜の毒、文字通りドラゴン系のモンスターの攻撃でかかる毒で、毒の部類の中で最も強力なんだ。
毒治療薬では竜の毒の解毒はできない、せいぜい症状を和らげるくらいだ。バッシュめ、よりによってこんなヤバい毒を持ち込んでくるとはな。
「竜の毒を……完全に解毒するには、竜のエキスが必要なのよ」
「竜のエキス」
ルウミラの言う通りだ。でも竜のエキスはそうそう手に入らない。
待てよ。竜ならさっき倒したじゃないか。俺は甲板に置いていたジャイアントプレシオスの首に近づいた。
「駄目、その竜じゃ意味がない」
「あぁ、そうだっけ」
ジャイアントプレシオスもドラゴン系の一種だけど、残念ながら竜のエキスは手に入らない。くそ、それじゃどうすればいいんだ。
「毒治療薬なら大量に持っている。目的地に着くまで、こいつで凌ぐわ」
「いや、それじゃ駄目だ。さっきも見ただろ、船の速度は下がっているんだ。今からかなり時間がかかる、君の体力的に無理があるぞ」
「ロバート……」
「安心してくれ、何かいい案を見つけるから」
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