第百四十三話 魔道船に起きた異変とは!?
「おかしい…速度が落ちてる!?」
ロバートがいなくなった後、操舵室に戻ったルウミラは異変を察知した。
魔道船は自動操縦切り替え機能がある。しかし速度までは低下しないはずだった。
「触媒はちゃんと埋め込んだはずなのに。一体どうなってるの?」
出力の低下の原因がわからない。ルウミラは考え込んだが、心当たりは一つしかない。
「……原動機しかないか」
ガコォオオオン!!
再びさっきと同じような音が響いて船が揺れた。ロバートが出て数分経過したけど、また同じようなことが起きて、さすがのルウミラもいてもたってもいられなくなった。
「ロバート、一体何やってるの?」
ルウミラは操舵室を出て、甲板に向かった。甲板には誰もいない。
そして赤い液体が嫌でも目に入った。
「……血が!?」
甲板の至る所に赤い血が付着していた。しかもかなりの量だ。ルウミラは嫌な予感がした。
ザバァアアアアアン!!
大きな水しぶきがあがり、甲板に降り立ったのはロバートだった。巨大なモンスターの首を抱えている。
「やぁ、ルウミラじゃないか」
「もう脅かさないでよね」
「ごめんごめん。こいつが音の正体さ、でも倒したからもう大丈夫だよ」
*
ルウミラの目の前に、ジャイアントプレシオスの首を置いた。さすがのルウミラも、あまりの大きさのためか唖然としているな。
「はは。いやぁ、思わぬ超大物がとれたよ。肉もおいしいって評判だから、こいつで腹ごしらえでもしようか?」
「…………」
ルウミラは黙ったままジャイアントプレシオスの首を眺めている。一体何が気になるんだ。
「……あぁ、もしかして、あんまり好みじゃない?」
「あり得ない。なんでこいつが?」
「あり得ないって、どういうことだ?」
「ジャイアントプレシオスは私も知ってるわ。この海域に出ることも、私は知っている。でもこいつが船に衝突するなんて……」
「まぁ、襲われる船も多いって噂も多いじゃないか。腹が減ってたんじゃないかな?」
「そういう意味じゃない! 魔道船なら、こいつに襲われることはないわ!」
「それはどういう意味だ?」
ルウミラが言おうとしていることがよくわからなかった。
「あのね、この船は最高速度500メガまで出るの」
「え? 500メガ?」
メガ、久しぶりに聞く言葉だ。メガは〈ロード・オブ・フロンティア〉における物体の動く速度の単位だ。
だいたい500メガは、前世の知識を頼りにすると時速500キロメートルくらいだ。間違いなくこの世界で最速の乗り物と言ってもいい。
「ジャイアントプレシオスの移動速度は、せいぜい速度100メガまでが限界よ」
「100メガまで……って、それじゃあ……」
追いつけるはずがない。これは明らかにおかしいな。
「見たところ、このジャイアントプレシオスに特に強化された点は見当たらない。野生種とほぼ同じよ」
「じゃあ、魔道船が……」
「さっき操舵室で計測したら、速度が落ちてたわ」
「なんだって!? それじゃあ……」
「とにかく動力室に行きましょう。何か異変が起きている」
俺は頷いて、ルウミラと一緒に動力室に向かった。
*
動力室に着いた。中に入っても特におかしい点は見当たらない。月光石の触媒もちゃんとある。
さっき見た時とほぼ同じだ。でもルウミラはそわそわしている。
「なぁ、特に異常は見当たらないけど……」
「そんなわけないわ。触媒は埋め込んだ。考えられるとしたら、原動機にあるはずよ」
「老朽化じゃないのか? 原動機の調子が悪いのかも」
「それは考えにくいわ。アメリアの性格は知っている。彼女はこの魔道船の整備を欠かさず行っていた。老朽化ならとっくに取り替えているわ……」
「もしかして、これも罠かも。触媒を抜くだけじゃなく、原動機もわざと交換しなかったとか……」
「それは……」
ルウミラは何も言い返さなかった。確かに可能性としてはなくはない。あいつは用意周到で頭も切れるからな。
「いや、やっぱりあり得ない。というか、単なる老朽化ならもっと速度が出るはず」
「そういえば聞いてなかったけど、どのくらい速度が落ちてたんだ?」
「70メガまで落ちていたわ」
「な、70メガ!? 落ちすぎじゃないか?」
「そうね。明らかに異常よ。これだけ速度が落ちるということは……」
ルウミラがそこまで言いかけた時だ。彼女が目を見開いて、突然俺を突き飛ばした。
「危ない! ぐっ……!」
「うわ、いきなりなにすんだ!? って、それは!?」
俺を突き飛ばしたルウミラの右手の甲に矢が刺さっていた。なにがどうなっているんだ。
「俺からのプレゼントさ、ロバート」
第百四十三話ご覧いただきありがとうございます。
この作品が気に入ってくださった方は高評価、ブックマークお願いします。コメントや感想もお待ちしております。またツイッターも開設しています。
https://twitter.com/rodosflyman