第百四十話 黒幕は誰だ?
そしてウィスベリーとミーナが揃ってコルネ村の方向へ行ったという情報をもとに、ジョニーも行動を開始した。
「つまり最初から知っていたんですね」
「黙っていて悪かった。だが用心深い男でな。恐らく近くにウィスベリーが監視していると睨んでいたが、案の定ネズミが一匹現れた」
「そのネズミがウィスベリーだと、いつ気づいたんですか?」
「気づくさ。臭いでね」
「臭い?」
「そう……ネズミが現れたときの臭いよ。どこかで嗅いだことあると思ったら、以前行ってた魔法道具屋の臭い。そうでしょ?」
エイダが聞くと、ジョニーも頷いた。
「ふはは! これは一本取られたぜ、俺としたことが不覚だったな」
ウィスベリーは笑い出した。
「ウィスベリーよ、笑っていられるのも今の内だ。いい加減、全て白状したらどうだ?」
「白状? さぁ、一体なんのことやら……」
ウィスベリーの目と鼻の先に、ジョニーは剣先を向けた。
「お前がミーナと手を組んで、〈スタンピード〉を巻き起こしたのは知っている。どうしてそんなことをした?」
ウィスベリーはまだ黙ったままだ。そしてエイダの顔を見た。
「ふふ、まだ欲しい物は取ってないんでね」
「なに? 何を言っているんだ?」
「〈ディープスリープ〉!」
突然エイダが魔法を唱えた。するとウィスベリーは目を閉じ、眠りに落ちた。
「おい、エイダ! 何をしている!?」
「ごめんなさい、ジョニーさん。事情聴取、ここじゃなくてコルネ村でやりませんか?」
「なに……まぁいいだろう。俺も気が焦っていたな」
ジョニーは剣を鞘におさめ、ウィスベリーを抱えた。パメラがエイダのそばまで近寄る。
「もしかして、ピアスのこと?」
「そうよ。危うくウィスベリーが喋るところだった」
「でも、ジョニーさんは敵じゃなかったし、別に話してもいい気がするけど」
「それはわかってるわ。でもこのピアスの効果は本当に特別なの。誰にも明かさない方がいい気がして……」
パメラはその言葉に顔をしかめる。
「さっきの様子からして、ウィスベリーは知ってるわよ」
「おい、パメラ。すまないが、ミーナを抱えてくれないか」
ジョニーが倒れていたミーナを指差して言った。
「あ、ごめんなさい」
「よし……それじゃ今度こそコルネ村に行くぞ。そこでじっくり事情聴取だ」
三人は眠りに落ちたウィスベリーとミーナを連れてコルネ村へ歩き出した。
歩いている最中、パメラはエイダとさっきの会話の続きを、小声でやり始めた。
「まず今わかっていることから整理しましょう。ロバートのピアスが奪われた。そして次は私のピアスを狙っている。今のところ、この作戦を指揮しているのはウィスベリーのように見えるわ」
「そうね。ウィスベリーがミーナとスージーの二人に指示を出して、自分もこっそりネズミに化けて尾行して、私達を監視していた。別におかしいように思えないけど」
「それじゃ問題よ。ウィスベリーは、いつどうやって〈シェアリングピアス〉のことを知ったの?」
パメラがその言葉にきょとんとした。
「えぇっと、それってつまり……」
「ウィスベリーが自分で調べて私達のピアスの秘密を知った。それなら私も何も文句は言わないわ、だけどよく考えて。私はともかく、一度も会ったことがないロバートのピアスを、どうしてウィスベリーが知りえるわけ?」
「それは確かにそうね。でもウィスベリーってロバートと本当に面識ないの?」
「それは断じてない。私が知ってるわ」
「どうして、そんなことが言えるわけよ?」
エイダの言葉にパメラは異を唱える。
「実はね……私ロバートの記憶、覗いたことあるの」
「はぁ? 突然何言い出すの?」
「しぃ! 声が大きい!」
パメラは思わず手で口をおさえる。
「記憶を覗いたって、そんなこと本当にできるの?」
「この際だから言っておくけど、〈コネクティングロープ〉って魔法があるのよ」
「なに? コネクティング……ロープ?」
「この魔法を使えばね、眠っている人間の脳の中に侵入出来て、その人間のこれまでの記憶が覗けちゃうわけ。ほら」
そう言うと、エイダは右手に光るロープを握ってパメラに見せた。
「そのロープが?」
「まぁ私が少しだけ改良したんだけどね。今もロバートと繋がっているわ。どれだけ距離が離れても、ロバートの記憶が覗ける。彼が寝ている間だけどね」
「それで……本当にロバートの記憶を覗いたって言うの?」
エイダは黙って頷いた。
「黙っててごめんなさい。いずれ話そうと思ったけど……」
「いいわよ。それで、その記憶の中でウィスベリーに会ったことがないっていうわけ?」
「そうよ。少なくとも、彼のこれまでの記憶ではそう……」
「なるほど。でもそれじゃウィスベリーは、どうやってピアスの存在を知ったのよ?」
エイダはここで考え込んだ。
「ウィスベリーも、結局指示されて動いただけかもしれないわ」
「は? それって……」
パメラはジョニーを見た。
「まさか、まだジョニーさんのこと疑ってるの?」
「違うわ。さすがにジョニーさんとは思えない。でも、まだ……誰か別の黒幕がいる気がしてならないの」
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