第十四話 まさかのお説教タイム!
パメラが仏頂面で俺を見つめて返した。
「取り敢えず、助けてもらったことはお礼を言うわ。ありがとう」
「どういたしまして、俺としては当然のことをしたまでで……」
「でもあなた、自分がやったことわかってる?」
パメラが怖い顔をして俺を見つめる。まさかこれは。
「私は忠告したはずよ、逃げなさいって。相手はアリゲーターベア、レベル20の戦士でも勝てるかどうかわからない相手よ。自分の実力も弁えないで戦いを挑もうとするだなんて、命知らずにもほどがあるわ!」
やはりお説教タイムか。せっかくこの世界に来て初めて強敵を自分の力で打ち破ったのに、なんでこうなるんだ。
「まぁまぁいいじゃないか、パメラさん。結果的に倒せたから大目に見てあげましょうよ」
「よくない! そもそもあろうことかクリティカルヒットに頼るだなんて、どうかしてるわ! 一撃でも喰らっていたらお陀仏だったわよ」
「いや、今の俺はこの武器のおかげで……」
俺はなんとか説明しようと試みるが、パメラは聞く耳持たずのようだ。
「私はあなたのために言ってるのよ。見たところ駆け出しの戦士のようだから、二度とあんな危険な真似はしない! いいわね!」
「はは、だいぶ怒られたな、小僧。あ、失礼! ロバート様でございましたね」
「……ロバートでいいよ」
「ほう、呼び捨てで構わないと? こいつは驚きました。ヒューリック家の長男なんでしょう? いや、ちょっと私の抱いていた印象と違いましたな。たださすがに呼び捨てはまずいので、“さん”はつけさせてもらいますね。あっと、私も自己紹介が遅れました。名前はディエゴ、見ての通り商人でございます。以後お見知りおきを」
「よろしく、ディエゴ」
商人が改めて自己紹介をしたが、俺はここで改めて思い出す。そういえばソーニャの町に最初に訪れる途中の街道で、商人の馬車が襲われるイベントがあったんだっけ。その商人の名前はディエゴだった。
だが襲う予定のモンスターはコボルトだったはずだ。まさか、さっき俺が倒していたあのコボルトか。
しまった。倒し過ぎたから、登場するモンスターが変わったんだろうな、きっと。
「それはそうと、あなたまさか一人旅なの?」
「あぁ一人さ。それが何か?」
「嘘でしょ? あなた何の防具も身に着けてないじゃない。よくそんな状態で」
「そういえばロバートさんは森の方から来たみたいですけど、まさかずっと一人で森の中に?」
「あぁ、そうだけど……」
「森の中を一人で!? 冗談じゃないわ、森の中はコボルトの棲み処があって、とても危険なのよ。もう本当に命知らずなんだから!」
「それは知ってるよ。でも安心してくれ、そいつらはあらかた俺が退治したから」
俺の言葉を聞いて二人とも目が点になって固まった。一体どうしたんだ。
「コボルトを一人で退治したの?」
「そう……だけど」
「一体何匹?」
「んー、ざっと十匹かな。おかげでレベルもだいぶ上がったし」
「はは、それはさすがにないでしょ。アリゲーターベアほどじゃないにしろ、コボルトだって見習い戦士にとっては十分強敵ですよ。そいつを十匹以上も一人で倒せるもんですか」
「あなたランクは?」
パメラも俺のランクが気になった。
「ランクはDだけど」
「Dですって!? 冗談も休み休み言って、AやSならともかくランクDでどうやってコボルトを十匹も倒せるというの?」
「うーん、そんなこと言われても」
これ以上言っても信用してもらえないだろうな。よし、ならば証拠を見せてやろう。
「わかったよ。ちょっと待ってて、みんな!」
俺はアイテムボックスを開いた。アイテムボックスの中に手を伸ばし、コボルトを大量に倒して手に入れた戦利品をあらかた出すことにした。その動作を二人とも不思議そうに見ていた。
「い、今……何してるの?」
「ロバートさん、あなたの手が空中で消えているんですが?」
「はは、気にしないでくれよ」
なるほど、やはり二人にもアイテムボックスが見えてないのか。だがこんなこと説明したって、現地の人達にはわからないだろうな。
「お待たせ! これでどうだ?」
アイテムボックスからありったけのコボルトの棍棒と皮、爪などを取り出した。その数全部で二十くらいか。
これだけあれば十分だろう。二人の反応はどうだろうか。
「嘘でしょ? こんなに?」
「これは間違いございません、コボルトの棍棒、それに毛皮と爪。凄い! 何でこんなに大量にあるんですか?」
「いやだから、さっき俺が倒したって……」
それ以外にどう説明しろと言うんだ。さすがにこれだけの証拠があれば信じてもらえると思うんだが、まだ駄目だろうか。
「……どんな方法を使ったか知らないけれど、相当レベルを上げていたようね。わかったわ、これ全部あなたの戦利品ね」
「はは、ありがとう」
何とか納得してもらえたか。だがどんな方法もくそも、俺は普通にホーンリザードやコボルトを倒して経験値を貯めてレベルを上げただけだ。まぁ装備していた武器が、超特別なものだったんだけどね。
「ロバートさん、これも忘れちゃだめですよ」
「え? なにが?」
ディエゴがそっと大きな爪と牙を右手に持って差し出した。
「なにがって、アリゲーターベアの戦利品ですよ。あなたが倒したんじゃないですか! めちゃめちゃ貴重なんですよ」
「あぁ、そうだった。いや、でも……」
俺はパメラを見た。だがパメラは不満な表情を見せなかった。
「それは全部あなたのもの、遠慮なく受け取って……」
「本当にいいの? パメラ……さん」
「いいって言ってるでしょ! 私の気が変わらない内に早く」
「ロバートさん、こういう時は遠慮なんかしちゃ駄目ですよ。あとは鱗も剥ぎ取りましょう、防具の材料として最適ですからね」
俺は後ろめたさを感じながら、アリゲーターベアの戦利品をアイテムボックス内に入れた。パメラもある程度アリゲーターベアに攻撃していたから、正直申し訳なく思う。
「あとは、一番大事な物を……」
俺はここでアリゲーターベアの心臓部を剣で突き刺した。すると何やら金属のように硬い物質が当たる手ごたえを感じた。
剣を引っこ抜くと、剣先に小さい拳大の球体が刺さっていた。
「ほう、アリゲーターベアのコアですな。初めて見ましたが、なんと大きい……」
「そんなに大きいのか?」
「通常のモンスターのコアなんか石ころみたいなサイズですよ。やはりそんじょそこらのモンスターとは桁が違いますな」
ディエゴは凄く興味津々な顔で説明した。確かに言われてみれば大きいかもしれない。
「いやぁ、素晴らしい! これだけの素材があればギルドも大喜びでしょうな、ではさっそくソーニャの町へ行きましょう。馬も無事でよかった。助けてもらったお礼に、馬車で連れて行ってあげますよ!」
「ありがとう、ディエゴ」
ディエゴが馬車に乗せてもらえるとは有り難い。なんだかんだで今日は一日いろいろあったから、凄く疲れた。異世界転生二日目だが、我ながら凄く充実している。
だが馬車に乗った直後で、俺は大事なことに気づいた。
「そうだ、ステータス!」
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