第百三十七話 ジョニーは敵か味方か?
ロバートという一番頼れる仲間が不在の最中、エイダとパメラの危機を救ってくれたのは意外な人物だった。
「さすがは元英雄のランクS剣士というだけあって、強いわね」
「英雄扱いは昔の話だ。今じゃただのギルドマスター。だが島がこんな状況になっては、さすがにじっとしているわけにはいかんしな。君達ばかりに負担をかけさせてすまなかった」
ギルドマスターのジョニーは笑いながら答えた。
「とんでもないことです。あのアースガーディアンも倒せてしまうだなんて、さすがとしか言いようがありません」
「君達の援護もあったおかげさ。私一人じゃ骨が折れる」
三人は歩きながら話を続けた。その時近くの茂みの中から、物音が聞こえた。
「今のは!?」
「モンスター?」
三人とも警戒する。茂みから小さな黒い影が飛び出すのを見た。
「……ただのネズミだな」
「もう、おどかさないでよ……ん?」
エイダとパメラはほっと胸を撫でおろす。だがエイダは鼻をつまんだ。
「今の臭い……」
「どうしたの、エイダ?」
「……いえ、なんでもないわ」
「それはそうと、ミーナが〈スタンピード〉を巻き起こした張本人で、間違いないんだな?」
ジョニーは鞘から手をはなし、背中に背負った少女の顔を見た。
「はい。彼女がモンスターを召喚しているところをこの目で見ました」
「未だに信じられんな。失踪したタイミング的に、すぐに疑うべきだった」
「これでもうモンスターの大量発生は起きないですね」
「そうだな。あとはコルネ村で、ゆっくりと事情聴取でもするか」
「はい。ジョニーさんが味方になってくれれば、こんなに心強いことはありません」
「それはありがとう。だが、もう一人の強大な味方のことも忘れないでくれよ」
エイダはその言葉を聞いて、顔をしかめる。
「ジョニーさん。そのことで大事な話があるんですが……」
「ん? ロバートについての話か?」
「実は彼、恐らく捕まったのではないかと思います」
エイダの言葉を聞いて、ジョニーも足を止めざるを得なかった。
「捕まった? あのロバートが?」
「そうです。そう思う根拠なんですが……」
パメラが突然エイダの口を手で抑えた。
「駄目よ!」
「うぐぐ……ちょっと、パメラ!?」
「おいおい、急にどうしたというんだ?」
「ごめんなさい、ジョニーさん。二人だけで少し話させてもらえませんか?」
「あぁ、わかった」
パメラはそう言うと、エイダを連れてジョニーから距離を取った。
「一体何なのよ? 突然私の口を塞いだりして!?」
「しぃー! 聞こえないように小声で話して」
「はぁ? 一体どういうことなの?」
「いいから、私の言う通りにして」
パメラが後ろを振り返りジョニーの様子を見た。エイダはわけがわからなかったが、彼女の真剣な表情を見て従うことにした。
「……わかったわ。それじゃ改めて聞くわ。あなたは一体何を考えてるの?」
「エイダ、落ち着いて聞いて。あなたの言う通り、ロバートがさらわれた。しかもピアスまで奪われたというなら、これはかなり深刻なことよ」
「深刻なことは私だってわかってるわ。だからジョニーさんと相談しようとしてるんじゃない」
パメラは首を必死に横に振った。
「それがそもそもの間違いよ。いい? あのロバートがなんでピアスを奪われたと思う?」
「それは……きっと罠にはめられたから」
「いいえ。ロバートはそんな男じゃない。というか、仮に罠にかかっても、彼の強さならどんな罠だって平気なはずよ」
「それは……確かにそうね。それじゃどうして?」
パメラはまた振り向いてジョニーの方を見た。
「ロバートと一緒に三日月岬に行ったのは、昨日加わったばかりのスージーよね」
「そうね……って、まさか!?」
エイダもようやく重大なことに気付いた。
「そうよ。恐らくスージーがロバートを罠にはめた。それ以外に考えられない」
「確かにあいつ、デレデレだったわ。でも……仮にそうだとしても、ジョニーさんは無関係じゃ?」
「駄目よ! ジョニーさんも信じちゃ駄目、もしかしたらジョニーさんも彼女の仲間かもしれないでしょ?」
「まだ話は終わらないのか?」
話が長引いてしまい、ジョニーがたまらず声を掛けた。
「ジョニーさん。ごめんなさい、その……」
「私でよければなんでも相談に乗るぞ。ロバートの身に何があったのか知らんが、とことんまで協力してやる」
ジョニーが胸を叩いて不安を和らげようとした。
「……ジョニーさんが敵だというなら、さっきアースガーディアンを倒したのはどうしてなのよ?」
「それは……わからないわ」
「わからない? 結局あなたの推測じゃないの」
「確かに……証拠なんてないわ。でも、今頃になって私達に協力してくれるのもおかしいと思わない?」
エイダも疑心暗鬼になってしまった。本当にジョニーを信じていいのだろうか。
「……わかったわ。それじゃピアスのことは伏せておく、それでいいわね?」
エイダの結論にパメラは無言で頷いた。
「やっと話が終わったか?」
「はい。ごめんなさい、ジョニーさん。さっきの話は忘れてください」
「なに? ロバートが捕まったとなっては、ただ事ではないと思うが?」
「いいえ、きっと私が心配し過ぎただけです。彼は強すぎますから、きっと自力で戻って来れますよ」
エイダの言葉を聞いても、ジョニーは腑に落ちなかった。
「それならいいんだが……まぁ、確かに彼の強さなら心配は無用か」
「あの……それより別のことで気になることがあって、聞きたいんですけど」
「別のことだと?」
「ロバートと一緒に向かったスージーのことです。彼女魔道士なんですけど、昨日加わったばかりであまり詳しい素性を知らないんです。ジョニーさんは何か詳しく知ってますか?」
エイダの質問を聞いて、ジョニーはハッと気が付いた。
「そうだ。いい質問だ、それで大事なことを思い出したよ!」
「大事なこと?」
ジョニーはおんぶしているミーナの顔をチラッと見た。
「ミーナには、姉がいるんだ」
「姉……あ、まさか!?」
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