第百三十四話 月までひとっ飛び!
もう一度ルウミラが舵に魔力を注入した。やっぱりさっきと同じ結果になった。
「……故障じゃないか? 動力室に行けば何かわかるかも」
ルウミラも頷いて、俺達はそのまま船の下部にある動力室に向かった。梯子で船の最深部にある動力室に入った。
動力室に入ると、さらに近代的な機械仕掛けの作りになっている。前世でも見た潜水艇の動力室のようだ。
そして動力室の中央部にそれはあった。巨大な魔石が中に組み込まれた原動機、真っ赤に光るその魔石は、この世の魔道士達が争いを起こしそうなほどの価値がありそうだ。
「これが原動機か。でかいな」
「そうだけど……おかしい。足りない!」
「足りないって、何が?」
ルウミラが原動機に近づいて上部を指差した。巨大な管が原動機の中心部から繋がっている。
恐らくこの管を伝って、舵から魔力が供給されるのだろう。その管と原動機の付け根の周囲に、黄褐色に光る長方形状の結晶がいくつか挟まれている。
「この結晶は触媒だ」
「触媒? えぇっと、それって……」
「この触媒がないと、中心部に魔力が注入されない」
「ってことは、今のこの状態だと……」
改めて上部を見ると、確かに黄褐色の結晶が入っていない窪みもあった。まるで意図的に抜かれたかのようだ。
「これでは触媒がうまく作用しない。つまり原動機も作動しない。迂闊だった。アメリアはやはり抜け目がない」
「してやられたな。じゃあ、どうすればいいんだ?」
ルウミラはしばらく項垂れて言葉を返す気力もないようだ。もしかして本当にお手上げか。
勘弁してくれ。魔道船が運転できないと、この島から出られない。
でも俺は重要なことに気付いた。
「待てよ。俺達って確か転移魔法でこの島に来たよな? じゃあ……」
ルウミラは首を横に振った。
「無駄よ。さっき試した、でもすでに転移封じが掛けられていた」
「転移封じだって?」
「転移魔法を封じる魔法。転移魔法は、転移魔法陣からしか発動できない。アメリアが向こう側で、転移魔法陣を封印する結界を敷いているの」
なんてことだ。用意周到にもほどがある。これじゃ本当に手詰まりか。
でも諦めたくはない。何か方法があるはずだ。俺はもう一度原動機の上にある触媒を睨んだ。
「……触媒があれば、この船は動くんだよな?」
「そのはずだけど、簡単に言ってくれるな。この触媒は希少な素材からしかできない」
「その素材、隕石の欠片が必要じゃないか?」
ルウミラが目を丸くした。
「なぜそれを? いや……あなたが知っていてもおかしくはないわね。その通りよ」
「そして隕石の欠片に月の光を当てれば、月光石ができあがる。それがこの触媒の正体、だろ?」
前世の知識を捻りだした。ルウミラは頷いた。
「……そこまで知っているなら言わなくてもわかるはず。問題となる素材は隕石の欠片だ、こればかりはどこに行っても……」
確かにルウミラの言う通り、隕石の欠片は普通では手に入らない。
希少な素材で入手できる場所も限られる。少なくともこの星では。
「たくさん採取できる場所、知ってるんだ」
「なんですって? まさかそんな……」
「とりあえずここにいても仕方ないから、一旦外に出ようか」
俺はそのまま魔道船を降りて、要塞の外へ出た。ルウミラも後をついてきた。
「教えて。一体隕石の欠片はどこで手に入るの?」
ルウミラも興味津々だ。彼女も知らないことだ。まぁ俺も本当にできるかどうかは不安だけど。
「月は……あるな。ちゃんと」
「なぜ空を見てる?」
俺は空を見上げた。時刻はちょうど夕方に差し迫った頃だ、この時間帯になれば空に月が出る。
そして予想は的中した。うっすらとだが、空に満月が浮かんでいる。絶好の機会だ。
「あとは、跳躍だな。足りるか……」
「一体さっきから何をしてるの?」
「ルウミラ、ごめん。しばらく話しかけないでくれるか?」
「なに……あぁ、わかった」
自分のステータスを確認した。すると驚愕の数字を目の当たりにした。
「うわ、割り振り値が!?」
なんと割り振り値が10億を突破していた。どうしてこんな巨大な数値になっているんだ?
一瞬混乱したけど、すぐに答えはわかった。俺のレベルがいつの間にか30に上がっていた。
思えば今日の戦闘でシールドシザーズ、ルウミラ、そしてここでバッシュと戦闘を繰り広げた。これだけ強敵と連戦していたら、そりゃ30まで上がるのも当然だ。
でもこれは好都合だ。これなら不可能を可能にできる。
「確か……月までの距離は39万キロメートル。つまり3億9000万メートル、よし足りるぞ!」
俺の莫大なステータス補正がここにきて生きる。でもこれだけじゃ足りない。
「ルウミラ、潜水の魔法使えるか?」
「使えるけど……それがどうしたの? まさか海底にあるのか?」
「海底にはないよ。空の上にあるんだ、そのためには……しばらく呼吸ができなくなるから」
「どういうこと? 言っている意味がさっぱりわからないんだけど!?」
「説明しても信じてもらえないだろうけど……まぁ簡単に言えば……」
俺はルウミラに説明した。ルウミラは答えを聞いて、口を開けたまましばらく黙っていた。
「……信じられない。そんなことできるわけ」
「でも多分そこまで行かないと、隕石の欠片は手に入らない。俺を信じてくれ、絶対取りに戻ってくるから」
呆気にとられていたけど、しばらくして彼女も杖を構えた。
「わかった。ロバートを信じるわ、絶対戻ってきて」
「ありがとう。ルウミラがいてよかった」
「〈ハイパーロングブレシング〉!」
ルウミラが潜水の魔法を唱えた。これで長時間息を止められるぞ。
あとは跳躍に割り振り値3億9000万を注ぎ込む。準備は万端だ。
「じゃあ、行ってくる。〈ハイジャンプ〉!」
俺は力いっぱいジャンプした。3億9000万以上の跳躍による〈ハイジャンプ〉、予定通りならこれで月まで行けるはずだ。
実は俺も前世で一回ほど試したことある。誰もが聞いたらそんな馬鹿な事と笑ったな。でも本当にできてしまった。ならばこの世界でもできるはず。
しばらくすると俺の真上は一面真っ暗になった。なんといつの間にか大気圏を突破していた。
眼下には青い星、俺は宇宙空間に出た。
「すげぇ、やっぱり出来た! しかもちゃんと呼吸もできる!」
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