第百三十三話 魔道船で脱出だ!
俺はさっきまでいた要塞の一階に辿り着いた。外から見たときに思ったのは、とにかく高い建物だということ。
最果ての島の中央部に聳え立つ地上200メートル近くある巨大な要塞、外見は全体的に灰褐色で、壁の所々に砲台が顔を出している。
まさに軍事要塞というべきか。前世の知識だと、確かに大灯台の地下の隠し通路の先の転移魔法陣で、この島に移動できるということは知っていた。
でも世界地図上で完全に孤立した島で、ストーリー上訪れる機会がない。隠しアイテムの入手や、レイドボスのイベントの際に訪れるくらいだ。
そしてこの島から脱出できる方法は二つ、転移魔法陣を使うか魔道船を使うかのどっちかだ。
ルウミラは要塞の地下へ行けと言った。確かに前世の知識でも、この要塞の地下には魔道船があることは知っている。
地下に降りる階段を発見した俺は、ひたすら地下へ降りた。そして降りた先は、地下の停泊所だ。
その一角に船が停まっていた。かなり小型のようだけど、全体的に独特な赤紫色の色合い。船首は槍のように尖っている。
色合い、そして形状からして魔道船に違いない。この船で移動できれば、この島から脱出できる。
でも問題が一つだけある。魔道船は魔力をエネルギー源で動くから、魔力を持った人間しか運転できない。俺は魔法が使えない。
つまり魔法が使える人間を連れてこないと意味がない。それができる人間は、一人しかいないけど。
「待たせたな」
「ルウミラ!? いつの間に」
俺がルウミラを探そうと思った矢先、彼女もここに降りてきた。
恐らくバッシュは問題なく倒したのだろうが、俺は別の心配をしてしまった。
「その傷は……大丈夫なのか?」
ルウミラの服は腹部が破れている。俺が大灯台の地下でつけた傷だ。かなり深い傷のようにみえる。
「自己治癒をしたから心配いらない」
「そうか。それならいいんだが……別の質問をしていいか?」
「なぜあなたの味方をするか、でしょ?」
ルウミラは俺の質問を予測していた。
「そうだ。一体お前の目的はなんだ?」
「大したことではない。あなたを助ければ、私にもメリットがあるからな」
「メリット? でもお前はアメリアの手下なんだろう?」
「以前まではな。だけど今は……違う!」
そう言うとルウミラは、右手を前に出す。その手には丸い琥珀色の宝石を持っていた。
「なんだそれ? 宝石か?」
「これは〈ガイアの魂〉だ」
「〈ガイアの魂〉だって!?」
〈ガイアの魂〉、超レアなアクセサリーと知られている。
思い出した。この宝石を体に埋め込まれたら、神秘的な能力が得られる。
「〈不動結果〉もこの宝石のおかげなんだな」
「やはりあなたは何でも知っているのね。その通りよ、そしてやっと取り戻すことができた」
「え? じゃあ、バッシュが〈不動結界〉を使えていたのも」
「アメリアから情報を得ていたに違いない。ふてぶてしい男だ、この私に恥をかかせた」
「ルウミラ……」
ルウミラから意外な言葉が出てきた。アメリアの忠実な部下だったなのに呼び捨てにした。
「この宝石のおかげで、私は〈不動結果〉を得られる。でも一つだけアメリアが細工を施した。能力を得られる代わりに、自分に対して絶対の忠誠を持つようにな」
「なるほど。ということは、お前はもう自由の身なんだな」
「そうよ。もうこんなものはいらない」
そう言うと、ルウミラは〈ガイアの魂〉を放り投げた。そして杖から魔法を放ち、〈ガイアの魂〉を粉々にした。
「……いいのか? 売ったらけっこう金が手に入ると思ったのに」
「金などに興味はない。それより急ぐわよ、あなたもここから脱出するんでしょ?」
「あぁ、そうだな。でも……」
俺は魔道船を見た。
「心配するな。運転は私がする」
「信頼して……いいんだよな?」
俺は念のため聞いてみた。
「少しでも疑う行動をしたら、遠慮なく後ろから刺せばいい」
「おいおい、そんな簡単に言ってくれるなよ」
「ロバートは優しすぎるのね。そんなことだから、私に簡単に騙されたんでしょ?」
「その話はやめてくれよ」
さっきの大灯台の地下での話は聞きたくない。確かに一瞬だけいい思いはしたけど、まさか変身していたなんてな。
「魔道船に乗れば、恐らく二時間でさっきの島に辿り着けるはずだ」
「二時間か。エイダとパメラ、無事でいてくれよ」
俺は不安がよぎった。思えば大灯台の地下で〈シェアリングピアス〉を奪われた。
ピアスがない以上、エイダには俺のステータスが共有されない。もし信じられないほどの強敵が出てきたら、エイダ達では対処できない。
「……ここが扉だ。入るぞ」
魔道船の扉を開けた。中は動力が入っていないせいか、完全に真っ暗だった。
ルウミラが〈ライトボール〉で室内を照らした。中は驚くほど近代的な作りになっている。この世界に来て、初めて機械を見たかもしれない。
「何度も見るが、この空間は慣れないな。さて操舵室は」
中に入って船首方向に進むと、再び小さい部屋に入った。船を動かす舵があり、前方には巨大な窓がある。
「ここが操舵室だな。随分狭いな」
「今のところ特に異常はない。このまま動けるはずだ」
「燃料とかは……どうなってるんだ?」
「この船の下部にある動力室に原動機がある。巨大な魔石で作られていて、この舵で魔力を注入すれば、船が移動するようになっている」
「うぅーん、なるほど。まぁよくわからないけど動くならいいや。よし、ルウミラに任せた」
「では……出発!」
ルウミラが舵を握った。静かに集中して魔力を注入しているようだ。
舵が光り出した。それと同時に暗かった船内も明るくなった。本当に魔力を船のエネルギーに変換しているみたいだ。
そして下の方から鈍い音が聞こえた。多分動力室からだろう、原動機とやらが動いているのか。
と思ったら、突然音が止んだ。それと同時にまた船内が暗くなった。
「おい、どうしたんだ? ルウミラ?」
ルウミラを見た。一瞬ルウミラの体に異変が起きたのかと思ったが、そうではなさそうだ。彼女も戸惑っている。
「おかしい。これで動くはずなのに……」
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