第百二十七話 アメリアが仕掛けた罠
ルウミラは倒れこんだ。これで決着か、思ったより呆気なかったな。
ルウミラは〈不動結界〉がある。逆に言えば、生身の彼女はそこまでの耐久力がない。結界を破った余波でも倒してしまったのか。
血を流したまま倒れている姿を見ていると、哀れみが出る。かろうじて生きてはいるな。まだルウミラには聞かないといけないことがある。
「スージーはどこへ行ったんだ? あとミーナの居場所は?」
「……教えると思うか」
やっぱり素直に喋るつもりはなさそうだ。だけどこのまま殺すのも気が引ける。
「ロバート・ヒューリック、お前の強さは私の想像以上だ。お前ならば、あのお方の野望も……」
「あのお方? 誰のことを言ってるんだ?」
「わたくしのことですわよ、ロバート・ヒューリック」
突然背後から別の女性の声が聞こえた。どことなく気品あふれる声だ。まさかと思い振り返った。
「お前は……」
俺の予想通りだった。ドアのところに立っていたのは、ディエゴの店で見た帽子を目深に被った貴婦人とうり二つだった。
「お見事ですわ、ロバートさん。巨雷鳥ケツァルコアトルだけでなく、帝国最強の魔道士ルウミラをも退けるだなんて。わたくしの想像以上の強さです」
貴婦人は拍手をしながら近づいてきた。
「あんた、アメリア・フォン・ローザンヌだっけ?」
「おやおや、やはり私の名前も存じ上げていらっしゃるのですね。さすがですわ」
「あんたがディエゴとつるんでいるってことは知ってるよ。一体あんたの狙いは何なんだ?」
アメリアは左手に扇子を取り出し、閉じたまま顎に当てた
「私の狙い、究極の強化薬〈覇王の魂〉の生成でしたわ」
「やっぱり、狙いはそれか。でも。“でしたわ”ってどういうことだ?」
「ふふ、もちろんそれもあったらいいんですけど、もう一つ飛び切り凄いアクセサリーの存在を知りましたの」
「アクセサリー……そういうことか」
〈シェアリングピアス〉を奪うというのも、アメリアの指示だったのか。そしてその考えで言うと、ルウミラだけでなくスージーもアメリアの手先、ということになるのか。
「ルウミラだけでなくスージーもよく仕事をしてくれましたわ。あなたもやはり女性には弱かったのですね」
「大きなお世話だ。だけど一個だけ奪ったって、意味ないぞ」
でもアメリアはそんな俺の言葉を予想していたのか、動揺せず微笑んだ。
「存じています。二つは最低必要でしょう、そしてもう一つはあなたのお仲間がお持ちのようで……」
まずい。どうやらエイダのことも知っているようだ、これはのんびりしていられないな。
「知っていたか。なら話は早い、そこをどいてくれないか? でないと……」
俺はコスモソードの剣先をアメリアに向けた。するとアメリアは手を前に出した。
「ちょっと待ってください、ロバートさん。私はあなたと戦うつもりはございません」
「戦うつもりはない? この期に及んで何を言い出す?」
「さっきも言いましたが、あなたの強さは私の想像以上です。多分あなたと戦っても勝ち目はないでしょう」
なんてことだ。アメリアが早々に負けを認めるようなことを言うなんて。
「おいおい、俺を褒めちぎったって何もあげないぜ」
「いいえ、事実です。あなたの強さは想像以上、あなたは間違いなく神話に出てきた勇者の再来、恐らくあなたは……」
アメリアは左手に炎を灯した。その炎は青い色を呈していた。
「青い炎を授けられたのでしょう」
「ど、どうしてそれを!?」
思わず動揺してしまった。だけどアメリアはもはや予想していたみたいだ。
「青い炎を授けられた伝説の勇者の神話は私もご存じですわ。その勇者は今のあなたと同じように桁違いの強さを誇っていました。巨大なドラゴンだけでなく、島一つほどの大きさを誇る大亀をも一人で倒したとか……」
今アメリアが言っていることは、俺の前世の知識にもあった。
巨大なドラゴンはともかく、大亀とは多分アクーパーラのことか。最強レイドボスとして謳われた亀のモンスター、実装当時は誰も倒せないと言われたんだけど、俺は確かにソロで倒したんだっけ。
「それが事実なら、大したものだね。でも俺にそんな力なんかないよ」
「今さら謙遜したって遅いですわ。すでにルウミラなんか敵ではないでしょうし、もちろん私でも勝てません」
アメリアが俺を褒め称えている。そして自分より強いことをあっさり認めている。でもなぜだろうか、アメリアは余裕の気配を見せている。
「一体どういうつもりだ? 戦うつもりもないなら、どうしてこんなことをする?」
「ふふ、私には秘策があるのですよ」
「秘策だって!?」
「あなたを消すのに別に戦う必要なんてありませんわ」
俺が立っていた床一面が光り出した。ある模様を浮かび上がらせる。見覚えのある五芒星だ。
「まさか!?」
「すでに【転移魔法陣】は発動しました。あなたには……退場してもらいます!」
「させるかぁー!!」
だけど遅かった。走り出そうとした瞬間、俺の体は軽くなり、異次元の空間へ飛ばされた。
飛ばされる寸前、アメリアの甲高い笑い声がかすかに聞こえた。アメリアの策に見事に引っかかってしまった。
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