第百二十四話 抜け道を通って脱出だ!
ミーナの発した言葉が一瞬理解できず、聞き逃すところだった。
「はい。この地下室、ドア以外にも地上へ通じる抜け道があるんです」
「おいおい、それがあるんなら早く言ってくれ! どこなんだ?」
「今から案内します、ついて来てください」
ミーナの言葉に従い、俺も階段を降りた。ミーナが向かったのは中央の穴だった。
「この穴のどこかに抜け道があります。底の部分をよく見てください」
「底? 特に変わったところは……あれ?」
その時だった。なんと底の部分にどこからともなく水が流れ出した。
「あれは……水?」
「はい、今ちょうど満潮に差し掛かった時だと思います」
そうか。この部分は海水が溜まってプールが出来上がる。満潮に差し掛かれば、海水が流れ出すが、その流れ出てくる穴が存在するはずなんだ。
ちょっと考えればわかることじゃないか。俺としたことが、気づくのが遅すぎたな。
「ロバートさん、あの……」
「わかってる。俺がまたおんぶしてやるよ」
「本当に大丈夫ですか? 今度はジャンプというか、落下ですよ?」
「心配するなよ。防御力も人並み以上だからな」
人並みどころか、一万以上ある俺には、この程度の高さから落ちても問題ない。
だけどミーナはそれでも不安な顔だ。それどころか、突然腰に下げていたポーチに手を入れた。
「ちょっと待ってください。私、実はロープを持ってるんですよ」
「え? それは凄いな」
なんて用意周到な女の子だ。しかも相当長い、確かに穴の底までこのロープで行けそうだ。
「わかった。といっても、ロープの端を引っかける杭がないと」
「あ! そういえば……」
見たところ、ロープを引っかけられそうな手頃な突起物がないのが困った。だけど俺に考えが浮かんだ。
「よし、俺がロープを持っているから、まずミーナが降りてくれ」
「え? それじゃ、ロバートさんが」
「大丈夫、俺ならこの高さから飛び降りても平気だ。気にせず降りてくれ」
「わ、わかりました。ロバートさんを信じますね」
ミーナは半信半疑のまま、ロープを伝って下へ降りて行った。まだあまり交流がないから、俺のステータスの高さが信じられないんだな。
「ロバートさん、降りました!」
「よーし、次は俺だな。飛び降りるから、少しだけ離れてくれ!」
俺は下にいるミーナに呼びかけた。ミーナがある程度離れたのを見計らって、真下へ飛び降りた。
着地の瞬間はやはり足に全体重がかかるから、若干の痛みが走るな。だけど大したことはない。
「ろ、ロバートさん……大丈夫ですか!?」
「はは、少し痛みはあるけど平気さ」
「信じられません、この高さから飛び降りて平気だなんて」
「ミーナ、それより穴を見つけないと、俺達沈んじゃう」
「あ、すみません。こっちです」
気づけば水かさが増してきていた。ミーナが向かう方向に俺も歩いた。
なんと人一人分は入れそうな大きな穴があり、そこから水が流れ出している。
この中を辿るのか、思った以上にしんどそうだ。ミーナは平気なんだろうか。
「よし、俺が先導する。ミーナもしっかりついて来てくれ」
「はい」
俺が先に穴の中に入った。気のせいか水流の勢いが徐々に増してきた。満潮に差し掛かっているとはいえ、これ以上水流が増すとけっこうまずいかも。
「うぅ……冷えるな。ミーナ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……です」
大丈夫とは言っても、けっこう辛そうだ。早く地上に出ればいいんだけど、一体どこまで続くんだこの道は。
「それよりさっきのドア、えらい頑丈だったな。俺の一撃でも壊れなかったなんて」
「多分、物理攻撃を無効化するバリアが張られていたんだと思います」
「なんだって!? でもそうか……そうとしか考えられないな」
「その通りです、恐らく強力な魔道士が仕掛けたのでしょう」
「……となると、あいつしかいないか」
「え? 誰か心当たりでも?」
「いや、なんでもないよ。それより先に進むぞ」
ルウミラだな。あの時倒していなかったが、もうここに戻ってきたのか。恐らくミーナを誘拐したのも彼女の仕業だ。
それにしても、よりにもよって〈スタンピード〉が発生している時を狙うだなんてな。
「……いや、待てよ」
俺は引っかかった。〈スタンピード〉は誰かが意図的に魔物を大量に召喚していることで起こる現象だ。
そういえばルウミラは昨日言っていた。「帝国には召喚魔法のエキスパートもいる」って。
つまりこの〈スタンピード〉の犯人は、その召喚魔法のエキスパートの可能性が高い。ということは、ルウミラとその召喚魔法のエキスパートは間違いなく仲間だろう。
でも、ここで引っかかる。何でミーナを誘拐する必要があるんだ。
そして、ミーナの誘拐と〈スタンピード〉がほぼ同一のタイミングで起きているのは、偶然なのか。
そういえば、昨日のジョニーは「ミーナは失踪した」と言っただけで、誘拐されたなんて一言も言っていない。誘拐されたなら、誘拐した奴らが目撃されてもおかしくないんだが。
「……まさか? いやそんなことは」
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