第百二十話 緊迫の事態!?
ウィスベリーはそれ以上聞かなかった。自分の考えは恐らく当たっていた。アメリアは事前にまず自分の店から手回しをしていた、戦士達を困らせるために。
「そこまで用意周到とはな。だが俺も商売だ。これ以上赤字が続けば……」
「心配しないで。補填はしてあげる、でもその代わり……」
アメリアは再びテーブルの上の紙に手を置いた。すると今度は、小さなピアスが映し出された。
「なんだ、そのピアスは?」
「やっぱりあなたも初めて見る?」
「魔法道具には見えないな。実物があればハッキリするんだが……」
「そう……わかった、質問を変えるわ。この世界に、自分のステータスが飛躍的に向上できるようなアクセサリーがあるのを知らない?」
アメリアの質問にウィスベリーは再び考え込んだ。
「……そんなアクセサリーは山のようにある。例えば〈ドラゴンの首輪〉とか〈ルーンベルト〉、〈コスモブレスレット〉、挙げればキリがないが……ピアスはないな」
「あなたも知らないピアスってことね。じゃあこんな話は信じられる? 初級魔法の〈ファイアーボール〉で、帝国最強の魔道士が敗れたっていう話は」
アメリアの言葉を聞いて、ウィスベリーは耳を疑った。そして誰が敗れたのかも容易に想像できた。
「まさか……ルウミラが!?」
「彼女が負けたわ。それも格下の魔道士にね」
「あり得ない、帝国最強の魔道士だぞ。一体誰にやられた?」
「とりあえず、これを見て」
アメリアはまたもテーブルの上の紙に手を置いた。すると、灯台の屋上で向き合っている二人の魔道士の姿が映し出された。
「録画していたのか? ルウミラと戦っている女は、見たことあるな」
「ランクAの魔道士エイダ・ハルスウェアよ。あなたの店にも何度か来たことあるはずよ」
アメリアの言葉を聞いてウィスベリーも思い出した。確かに自分の店で魔法道具をいくつか購入していた。
そして映像を見ていたウィスベリーは次の瞬間驚愕した。なんとエイダの放った巨大なファイアーボールがルウミラを直撃、そのままルウミラを戦闘不能にさせた。
「今のは……初級魔法の〈ファイアーボール〉?」
「さて、これだけ見てもらえれば嫌でも興味がわくでしょ?」
アメリアは再度紙に手を置く。エイダの顔の部分が徐々に拡大されていく。そして片方の耳に付けてあったピアスを、紙一面に写し出した。
「さっきのピアスと同一か……なるほど、こいつは面白い」
ウィスベリーはテーブルに両手を置いた。彼はピアスを凝視し、ほくそ笑んだ。これまで以上にないほどの好奇心で満たされていく。
「複製はもちろん可能だ。だが原物がないことにはどうしようもない」
「それはわかっている。そのためにもう一人刺客を送り込んだわ、彼らのもとに。まぁ気づいていないでしょうけど、ふふふ……」
◇
翌朝、俺は女性の大声で目が覚めてしまった。
「ロバート、急いで起きて!」
ドアを叩く音とともに、パメラの大声が聞こえた。時間を見たら、まだ八時前だ。なんでこんな朝早くに起こすんだ。
「パメラ……ごめん、もう少し寝かせてくれないか」
必死に声を絞り出した。だけどパメラはドアを叩くのをやめない。
「眠い気持ちはわかるけど、大変なことが起きているのよ! なんでもいいから、急いで起きて!」
「た、大変なことって……?」
パメラの様子がおかしい。明らかに何か緊迫した事態が起きているようだ。俺は仕方なくベッドから起き上がった。
「今から着替えるから、下で待っててくれ」
とりあえずトイレを済ませて、着替えをし、軽く歯も磨いて部屋を出て下の階へ行った。食堂に行くと、すでにパメラとエイダ、そして新メンバーのスージーが集まっていた。
「あ、ロバート! やっと起きてきたの」
「あんだけ大声で怒鳴られたら嫌でも起きるよ。それはそうと、大変なことって何?」
「俺から説明するよ。とりあえず、座ってくれ」
今度は男性の声が聞こえた。聞き覚えのある中年男性の声、まさかと思い振り返った。
「ジョニーさん? なんでこんな場所に!?」
「私達も実はジョニーさんに起こされたのよ」
「ロバート、昨日はミーナの捜索依頼を頼んでいたが、ちょっと事情が変わってな。別の依頼をお願いしたい」
「別の依頼って、一体何がどうなってるんです?」
「ひとまず、これを見てほしい」
そういうとジョニーは俺の目の前のテーブルの上に、ありったけの依頼書を提出した。両手で数え切れないくらいある依頼書に、俺は目を見開いた。
「な、なんですか? この依頼書の量は?」
「これでまだ半分だ。残りの半分はほかの戦士達に依頼している」
「半分ですって!? ちょっと待ってください。この時間帯に、こんなに討伐依頼が来るものですか?」
「正確には今日の朝だけじゃない。実は昨日の夜からずっとなんだ。おかげでレミーも俺も徹夜だよ」
ジョニーは疲れを隠しきれない声で話す。確かにジョニーの目の下にくまができている。でもレミーの方がもっときついだろうな。
「全部モンスター討伐依頼、しかも四つ星や五つ星モンスターばかりね。ハッキリ言ってこの量は異常よ」
「異常どころじゃない。私もギルドマスターになってこんな事態は初めてだ。なんというか、これはまさに……」
「【スタンピード】よ」
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