第十二話 強敵!アリゲーターベア出現!
突然男の悲鳴が聞こえた。俺が最初に歩いていた街道の方から聞こえて来た。俺はすぐさま悲鳴の方へ走って向かった。
街道へ出ると、一台の馬車が見えた。髯を生やした小柄な中年男性が、馬車の後ろ隠れて頭を抱えしゃがみ込んでいた。身なりからして商人のようだ。俺はすぐに駆け寄った。
「大丈夫ですか? 一体何があったんですか?」
「おう、来てくれてよかった! 実は……」
「ゴワァアアアアアアア!!」
「ひぃい!」
今度は獣の鳴き声が聞こえた。ただの獣ではない。間違いなくモンスターだ。だがなんということか、俺は反射的に震えてしまった。
明かに聞いたことのある声だった。そして西日によってできたモンスターの影の形を見た。
「この声、それにあの影の形……まさか?」
「あんな化け物、この周辺には出ないはずなのに。なんで……」
商人がそう言うのも無理はない。俺も声と影の形でモンスター名の予想はついた。それを確かめるべく、そっと顔を出してモンスターの姿を拝んだ。
「アリゲーターベア!?」
馬車のすぐ前に立っていたのは、体長3メートルはあろうかという巨大な熊のようなモンスター。だが顔を見るとワニになっている。ワニの顔をした熊のモンスター、そのまま「アリゲーターベア」となる。
鋭い爪で冒険者共を八つ裂きにするだけでなく、そのワニのような鋭い顎と歯でそのまま食べることだって厭わない。まさに凶暴凶悪なモンスターだ。
HPも高く、普通の熊と違い鱗もあるから防御も高い。少なくとも最序盤で遭っていい強さではない。中盤になって登場するから、正直今の俺じゃ戦っても勝ち目はない。
「ば、化け物! 来るなら来い!」
「ゴワァアアアア!!」
「せ、先輩! 逃げましょうよ……」
「あの二人、大丈夫かな?」
アリゲーターベアと対峙し馬の前に立っているのは、二人の鎧を来た槍を持った兵隊だ。恐らく商人が雇った用心棒なのだろうか、脚が震えていて身動きが取れていない。かろうじて馬の身代わりになっているにすぎない。
本来なら、逃げるべき相手だ。だが俺はここで武者震いもした。なぜならアイツを倒せば、確実にレベルが今の倍くらいに上がるからだ。
なんとしても倒したい。だが果たして勝ち目はあるだろうか。
俺は逡巡した。そして自分のステータスとそれまで貯まった割り振り値、さらにスキルボードも確認した。頭の中で計算した結果、希望が見えた。
「この方法なら、行ける!」
アリゲーターベアは攻撃も脅威だが、同時にHPも非常に高い。長期戦になると不利だから、奴を一撃で倒せる火力が必要だ。
俺は早速レベル7までで貯まっていた割り振り値を、全て攻撃力に注ぎ込んだ。
そしてもう一つ大事なのはスキルだ。コボルトを大量に倒したことで、次のスキルが習得できる状態になっていた。最初の剣術スキル「烈風剣」の上に繋がっていた新たな剣術スキル「目覚めの剣」が光っていた。解放可能だ。
この剣術スキルもある意味強力だ。効果は「一度だけクリティカルヒットの攻撃力を3倍にする」というもの。もちろん俺の攻撃力も上がれば、それに比例してクリティカルヒットの攻撃力も上昇する。
準備は整った。俺は立ち上がり、剣を構えた。それを見た商人は俺の腕を掴んだ。
「お、おい! あんた一体何するつもりだ!」
「何って、あいつを倒すのさ。そうしないと……」
「そ、それは有り難いが、正直あんたはその何と言うか……」
「うわぁあああああ!」
「え? なんだ?」
「あいつら……」
悪い予感が当たった。アリゲーターベアと対峙していた二人の兵士は、恐れをなして逃げ出した。
「おい、逃げんな! 高い金払って雇ったんだぞ!」
「金なんかいらねぇよ、命の方が大事だ!」
「あ、あいつら……くそ、一体どうしたら? このままじゃ馬が……」
「大丈夫さ。俺がいるだろ?」
商人は俺を見ても絶望的な表情を変えない。
「そんな。いや、有り難いんだがなんというか、あんたはそこまで強そうに見えねぇ。まだ子供みてぇだし、ランクはいくつなんだ?」
「ランク……」
「あんたも〈開花の儀〉を受けたんだろ? ランクというか、炎はいくつ与えられた?」
答えづらい質問だが、正直に答えるしかないな。
「ランクは……Dだ。何か文句あるかい?」
「Dだと? 最弱じゃないか! 相手はアリゲーターベアだぞ! 正直ランクAでも勝てるかどうか怪しいんだ!」
「確かに最弱だけど、俺は特別な剣を持ってるんでね。とにかく商人さんは隙をついて逃げてくれよ」
「その剣は……見たことねぇな」
商人が俺が持っている剣をまじまじと見つめる。珍しがるのもしょうがない。どこに行ったって手に入らない、バランスブレイカーの武器だとは間違っても言えないな。
「じゃあレベルはいくつなんだ?」
「俺のレベルは7だ」
俺の言葉を聞いて、商人は愕然とした。
「7? あ、あんた今7って言ったのか?」
「そうだけど安心してくれ、ステータス総合値は……」
「ふざけるな! レベル7でしかもランクDで戦いを挑むなんて正気の沙汰じゃねぇぞ! というか、今気づいたが防具も何もつけてないじゃないか。強い武器を持ってたって意味ねぇ。せめてレベル20はねぇと……」
「ギャア!!」
アリゲーターベアの叫び声がまた聞こえた。一体何事だ。俺達はそっとアリゲーターベアの様子を窺った。
するとアリゲーターベアが後ろを振り向いていた。なんと奴の体から血が流れ、背中には数本の矢が刺さっていた。
「おお、あれは!」
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