第百十七話 二人目の失踪者!?
〈シーリングボール〉の内側から、仄かに光が漏れだした。よく見たら、所々にひび割れが生じ始めた。
次の瞬間、ピカッとまるで雷が落ちたかのような強烈な閃光が走った。
「うわ! どうなったの?」
「成功よ。みんな、目を開けて」
エイダに言われ俺は床に視線を移した。するとさっきまでは〈シーリングボール〉が置かれていた床の上に、髭を生やした中年男性が横たわっていた。
「おぉ、なんと!」
「ディエゴさんよ! やった、救出成功ね!」
「はは、本当に大した魔道士だ」
「ありがとう、みんな……うぅ」
喜んだのも束の間、エイダが膝をついた。
「大丈夫? しっかりして」
「平気よ。なんというか、自分でも予想以上にMPを消費していたっぽい」
「ビックリさせるなよ」
「エイダさん、あなたのおかげです。何から何まで本当にありがとうございます」
レミーが改めて礼を言った。
「私にかかればこんなもんよ。それよりその髭面、さっさと起こさないとね」
ディエゴは救出できたが、肝心の本人はまだ眠ったままのようだ。眠っているというか、気絶しているというか。
「いや、彼はこのまま寝かせておこう」
「え? いいんですかジョニーさん?」
「気にするな。とにかく救出自体はできたから、あとは私達が面倒をみるよ」
そう言いながらジョニーは、ディエゴを抱えてソファへ寝かせた。
「さて……これで一件落着ってところね。あぁ、長い一日だった」
パメラが伸びをしている。確かに長い一日だった。俺もすっかり疲れた。
「パメラ、まだ討伐報酬をもらってないわよ。あと、シールドシザーズの戦利品も」
「あぁ、そうね。でも明日でよくない? 今日はさすがに疲れたわ、宿に行きましょ」
「それもそうね。じゃあジョニーさん、私達はこれで……」
「ちょっと待ってくれ、まだ大事な仕事があるんだ」
ジョニーが俺達を引き留めた。大事な仕事、一体何の話だ。
「大事な仕事、何の話ですか?」
「……あ、そうだった! まだあったわ」
「エイダ、何か思い出したの?」
「ほら、ディエゴの店で働いていた女の子いたでしょ。今朝、彼女と会ったじゃない」
「……あぁ、そうか。彼女にも変な呪いが掛けられていたのよね」
「ジョニーさん、気づいてくれてありがとうございます。それじゃ、早速ディエゴの店に……」
「ちょっと待て! その話のことじゃないんだ」
ジョニーが再度待ったをかける。
「ミーナに関する話なのは間違いない。だが今店に行っても、彼女はいないだろう」
「そうか。こんな時間だからもう家に帰ったんですね」
「違います。そうじゃなくて、彼女は夕方頃から姿を見せてないんです」
レミーが説明を加えた。
「夕方から姿を見せてないって……どういうことだ?」
「そのままの意味だよ。ディエゴの店に寄った客人が何人かうちに来てね。誰もいないからどうなってんだと、クレームついでに捜索依頼を出してきた」
「そんな。ディエゴがいない以上、店番はそのミーナって子だけですよね?」
「まさか……とんだ?」
ディエゴとレミーはその言葉に首を振った。
「ミーナはいたって真面目な子だ。これまで一度も店番をさぼったことなどない。それはディエゴも知っている」
「あの子にはルウミラの呪いも掛けられていたわ。エイダ、どう思う?」
エイダは顎に手を当てて考え込んでいる。
「ディエゴの次はアルバイトのミーナが消えた。そしてホルスはルウミラのペットだった……」
「嫌な予感しかしないな」
「やっぱり、私達の番ってことになります?」
「一応ほかの戦士達にも依頼している。だけど、ディエゴの件も恐らく関係しているだろうから、やっぱり君達が適任だ」
やっぱりそう来たか。ディエゴがいなくなったと思ったら、今度はアルバイトの女の子か。
「ミーナ……」
後ろにいたスージーがぼそっと呟いた。
「どうした? もしかしてミーナのことが気になるのか?」
「え? いや、別に……大丈夫です。お気になさらずに」
「まぁ、今日はもう疲れているだろうから、捜索は明日で構わん。だが明日以降は、ミーナの捜索を最優先で頼む。報酬は弾むよ」
ジョニーも俺達の疲れは考慮に入れてくれた。だけど明日以降はまた忙しくなるな。
そしてジョニーはまた今夜も昨日と同じ宿を無料で手配してくれた。何から何までVIP待遇過ぎて、正直申し訳なくなるな。
「あぁ、やっと眠れるな! さすがに今日は疲れた」
「そうね。でも明日はまた忙しくなるわ、しっかり寝ないとね」
「スージー、あなたも今日はたっぷり寝なさいよ」
「はい、わかりました!」
スージーも元気よく返事した。それから俺達は、各々の泊る部屋に入った。エイダとパメラとは相変わらず部屋が分かれていた。
まぁ、しょうがないんだけどね。最高ランクの宿に無料で泊れるんだから、これ以上贅沢を言っても仕方ない。俺は自分の部屋に入った。
「やっぱりここのベッドは最高だな。今夜も熟睡できそうだ」
「本当に凄いです、私も初めて見ます!」
「そうだろう、なにせ最高ランクで一泊金貨一枚だから……って、え!?」
女性の声が聞こえたから、俺は咄嗟に振り向いた。なんと後ろにはスージーが立っていた。俺の部屋に一緒に入ってるじゃないか。
「す、スージー!? なんで俺の部屋に!?」
「あ! ご、ごめんなさい。その……これは……」
「ごめんもなにも、スージーは自分の部屋があるだろ?」
俺がそう言うとスージーは黙り込んだ。余計に照れくさそうにしている。嫌な予感がした。
「あの、私の部屋なんですけど……」
「もしかして……ない?」
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