第百四話 追い詰められたルウミラ
ルウミラは倒れたまま全く動けずにいた。予想以上にダメージが大きい。そして近づいてきたエイダを見上げた。杖の先端を自分に向けている。
「もう終わりよ……さぁ、ディエゴを解放しなさい! さもなくば……」
「エイダー、大丈夫か!?」
さらにルウミラにとって予想外のことが起きた。後ろには途中の階で降りていたはずのロバートとパメラが到着していた。
「あらあなた達、もう来ちゃったの?」
「エイダ、私達も援護するわ……って、あれ? ルウミラが倒れてる……」
「まさか、エイダ一人で?」
「そうよ、私の〈ファイアーボール〉をお見舞いしてやったの。ロバートにもらった力のおかげよ、正直私も未だに信じられないけどね」
「〈ファイアーボール〉? 初級魔法で倒したって言うの!?」
「はは、エイダの魔力に相当力を割り振ったからね。それより体がちょっと濡れてるようだけど」
「あぁ、さっき氷漬けにされちゃったから、まだ乾いてないのよ」
エイダがロバートとパメラと会話してるのを、ルウミラはかろうじて聞いていた。気になる言葉があり、ルウミラは思案した。
(エイダの力がここまで上がったのは、ロバートに秘密がある。あの男、一体何をした? ん? あのピアスは……?)
ルウミラはロバートの片耳につけてあったピアスに目を付けた。よく見ると、エイダも全く同じピアスをつけていた。
なぜ二人が同じピアスを。しかも片方ずつ装着している。ルウミラはなんとなく答えが掴めてきた。
しかしそんなルウミラの思考は、隣の床に刺さった一本の矢で遮られる。
「動かないで。もうあなたに逃げ場はないわ。今度こそ……」
「パメラ、落ち着いて。気持ちはわかるけど、ルウミラにはまだ仕事が残っているわ」
エイダが〈シーリングボール〉をパメラに見せながら言った。
「わかっているわ。さぁ、これが最後の忠告よ。ディエゴを解放しなさい!」
「もう一度私の〈ファイアーボール〉を喰らいたい? 二度目は耐えられないわよ」
「俺がいるってことも忘れるなよ」
ルウミラにもう立てる気力がなかった。究極魔法を使った上に、エイダの強烈な一撃を喰らってしまい体力が残り僅かだ。
エイダだけでなく、後ろにはパメラとロバートも控えている。勝ち目はない。
もはや残された手は一つしかなかった。
(ホルス……今すぐ来い!)
さて、今度こそディエゴを助けられるかな。俺やパメラが戦うことがなく、エイダだけで倒してしまったのは少し予想外だった。
〈シェアリングピアス〉の効果は絶大だな。
「うぅ……ぐっ」
ルウミラは苦しそうだ。恐らくエイダに相当やられたな。立つことすらできないようだ。にしてもルウミラの服装は際どすぎる。俺の前世だと間違いなく破廉恥だと批判されるのは間違いない。
パメラとエイダは平気なのだろうか。いや、同じ女性だからかな。だけどカルロスとバティスタは、もしかしたらルウミラの色気で罠にかかった可能性もある。油断しては駄目だ、最後の最後で何か仕掛けてくるかも。
「さぁ、ルウミラ! 〈シーリングボール〉を開封しなさい、それとも本当にもう一発喰らいたいの?」
「……無理だな、今の私では」
ルウミラがぼそっと呟いた。
「……今なんて?」
「無理だと言ったんだ。その球に込めた呪いは……相当な魔力を込めた解呪魔法でしか解けない。だが今の私には……」
ルウミラはぐったりと倒れたまま話している。相当消耗しているんだな。
「……力を使い果たしちゃったってわけね。だったら」
エイダがローブの内ポケットから魔力回復薬を取り出した。ルウミラに飲ませる気か。
「そんな言葉信じちゃ駄目よ! 絶対罠よ」
「大丈夫。どんな魔法が来たって、私の力で防いで見せるわ。それに渡すのは最小サイズの瓶よ、さすがに全回復はさせないわ」
エイダが俺とパメラを見て言った。パメラはまだ渋い顔をしている。
「わかった。エイダを信じるよ、それに万が一の時は俺も援護をするから、安心してくれ」
「ロバート、そう言ってくれると助かるわ。ありがとう」
仮にルウミラがエイダに罠を仕掛けるとしたら、さっきのカルロスとバティスタと同じマリオネット状態にするはずだ。
だけどそれも無駄だ。もしエイダがマリオネット状態になっても、俺の剣術スキル〈閃光剣〉で解呪できる。
〈閃光剣〉は敵味方区別なく使える剣術スキルで、ダメージこそないが状態異常を打ち消す効果がある。恐らくルウミラもまだ俺が〈閃光剣〉を使えることを、知らないはずだ。
エイダが魔力回復薬をルウミラに手渡した。俺はいつでも〈閃光剣〉を発動できる構えをした。
「さぁ、飲みなさい。そして飲んだ後は、速やかに〈シーリングボール〉を開封すること。それ以外の魔法は一切唱えない、わかった?」
「……あぁ」
魔力回復薬が入った小瓶をもらったルウミラは口に近づけた。しかしすぐには飲まず、まじまじと小瓶を見回した。
「なにやってるの? 早く飲みなさい!」
「……少ないな」
「なんですって?」
「少ないと言ったんだ。この量では、足りない」
なんてことだ。エイダが念を入れて最小サイズの瓶を渡したのに、これじゃ元も子もない。
「ふざけないで! あなたの魔力量がどれほどあるか知らないけど、全回復まで欲張るつもり?」
「ならいいさ。好きにするんだな」
「くぅ、この……!」
「待って! わかったわ。ほら、これでどう?」
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