第百一話 恐怖のマリオネット
やっぱり罠だったか。〈リフティングボード〉に乗ったと思ったら、頂上にいかず、途中の階で停止するだなんて。
まさか俺だけが取り残されるだなんてな。なんとなくこうなるとは予想していたが、これなら最初から〈ハイジャンプ〉で頂上までいけばよかった。
「頂上まではそこまで高くないだろう。跳躍をさらに上げて……」
すると、背後から足音が聞こえた。俺は咄嗟に振り向いた。
「誰だ!?」
「うぅぅ……」
低く唸るような不気味な声が聞こえた。前方にあった柱の影の一部が動いだ。その柱の背後から、一人の人間が現れた。
「お前は……バティスタ!?」
俺の目の前に斧を持った巨体の戦士が現れた。間違いない、重戦士のバティスタだ。
「どうしてこんな場所に? 俺達と共闘してくれるのか?」
「うぅ、ううう……」
俺が呼びかけるも、なんの返事もしない。それどころか、低い唸り声を出しているだけだ。明らかに様子がおかしい。そして額には謎の文字のような模様が刻まれている。
「おい、どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
「がああ!」
バティスタは口を大きく開いて叫んだ。明らかに理性を失っているように見える。すると次の瞬間、バティスタが俺に向かって突進してきた。
「おい、よせ!」
「がぁあああ!」
巨大な斧を片手で持って、俺の顔面目掛けて振り下ろした。
俺は咄嗟に回避した。何が何だか一瞬わけがわからなかった。そして間髪入れず、バティスタは地面に食い込んだ斧を引き抜き、またも俺に向かい突進してきた。
「くそ! よせよ、なんで攻撃してくるんだ?」
「がぁあああ!」
「まさか、混乱か!?」
混乱は敵味方問わず攻撃してくる状態異常の一種だ。仮に混乱だとしたら、時間経過かこちらから攻撃すれば解除できる。
でも今のバティスタの様子を見る限り、混乱じゃなさそうだ。なんというか、明らかに俺を敵として認識して攻撃している。
「うぅ……ロバート。殺す!」
「おい、今なんて!?」
「うおおおおおお!!」
バティスタが物騒な言葉とともに、両手で斧を持って気を溜め始めた。この構え方、まさかスキルか。
直後、バティスタが渾身の勢いで斧を振り下ろした。斧術スキルの〈地裂撃〉だ、床一面が大きく盛り上がり俺に襲い掛かった。
「ぐぅ……いってぇ! って、ダメージ喰らってるのか?」
俺は早速ステータスを確認した。なんとHPが1000以上も減っていた。防御を上げまくっていたはずなのに、これは予想外だ。
今ので一つだけわかったのは、混乱じゃないということだ。混乱状態だと、スキルは使用できない。
スキルは使える、そして言葉も発した。だけど明らかにバティスタの意志じゃないだろうな、なんというか操られているみたいだ。
「操られている……まさかさっきの杖?」
俺はバティスタの額に刻まれた文字のような模様に注目した。よく見たら、さっき俺が下で拾った杖に刻まれていた模様と同じだ。
どこかで見た模様だったが、やっと思い出した。あの杖を使って、バティスタを操ったんだ。
「マリオネットか。ルウミラめ、厄介な魔法を」
マリオネットは状態異常の一種、特殊な魔法でしかならない状態異常だ。その効果とは、対象の戦士やモンスターを自分の意のままに操り、さらに潜在能力まで極限まで引き出すことが可能になる。
今のバティスタがまさにそうだ。恐らくルウミラに操られ、極限まで能力が引き出されている。俺のHPが1000以上も減ったことから、通常時の何倍も強くなっているはずだ。
「バティスタがこの状態なら、カルロスも同じか? ってことは……」
俺はここで気づいた。この階に来たのは俺だけで、俺の目の前にバティスタが現れた。
バティスタの相方のカルロスが見当たらない。だけどカルロスもこの塔のどこかにいて、誰かと戦っているはず。
これがルウミラの狙いだったのか。俺達三人を分散させて、三人にそれぞれ違う戦士と戦わせる。
多分エイダがルウミラと戦っているだろう。ってことはパメラはカロルスか。二人とも無事だろうか。
「カルロス、目を覚まして! 私がわからないの?」
目の前に現れたカルロスに声を掛ける。だがカルロスの様子は変わらない。
「パメラ……殺してやる!」
「ちょ? ふざけるのもいい加減にして、あんたと戦っている暇なんか」
「ぐおおお!」
パメラの声もむなしく、カルロスは突進してきた。高速で槍を真横に振り払う、パメラは寸前で回避した。
「噓でしょ、本当に殺すつもりなの? だったら……」
パメラも態勢を立て直し、容赦なく弓を構えた。
「前からあんたのことは気にくわなかったの。昨日のこともあるけど、これでようやくあんたと決別できるわ」
パメラは苦い記憶を思い出した。以前カルロスにデートに誘われたことがある、それも何度も。明らかに自分のことが好きだったのは間違いない。
元々恋愛に興味がなかったパメラは、そんなカルロスをしつこく毛嫌いしていた。一緒にパーティーを組んだ時も、あまり口を利かなくなった。
多分自分がロバートと行動をしているのが、気にくわないのだろう。嫉妬心の塊のようなカルロスの目を覚ます、パメラの覚悟は決まった。
「〈スターライトアロー〉!」
パメラは矢を放った。上位スキルだったが、急所以外の場所を狙った。あくまでカルロスの動きだけを封じるのが目的だ。
「ぐぁあああ!!」
矢はカルロスの鎧と胴体を貫いた。そしてそのまま後ろの壁に叩きつけ、矢で磔にした。
「死にはしないわ、そこで寝ていなさい。もう私に近づかないで!」
パメラは決着したと思った。だが直後、予想外のことが起きる。
「ぐぐぐ……この程度!」
「え、なんですって!?」
「ふん!」
第百一話ご覧いただきありがとうございます。
この作品が気に入ってくださった方は高評価、ブックマークお願いします。コメントや感想もお待ちしております。またツイッターも開設しています。
https://twitter.com/rodosflyman