第百話 差し向けられた戦士達
エイダから思わぬ言葉が出てきた。そういえばそうだった。ルウミラには〈不動結界〉という能力があって、確かに物理攻撃が効かなくなる。
こればかりはルウミラの隠された能力という設定なんだが、どうしてエイダがそこまで知っているんだ。俺は話した記憶はないけど。
「そうなの。でもそれじゃ、あいつに勝つにはどうしたら……」
「安心して。私の魔法でなんとかするわ。そのためにはロバート、このピアスでしっかり援護してね」
「あぁ、それは任せてくれ」
〈シェアリングピアス〉、俺のステータスの一部をシェアすれば、エイダのステータスも一気に底上げされる。
ちょっと強引なやり方だけど、相手があのルウミラだからな。念には念を押して、もう少しだけエイダの魔力も上げておくか。
「ふふ、やっぱりあなた抜け目ないわね」
エイダも俺が何をしたかわかったようだ。
「よし、それじゃ行こうか」
俺が先導し大灯台の入口の扉を開いた。身の丈よりも大きい重厚な金属の扉が、ゆっくりと開いていく。
中は広大な円柱形の構造となっていた。左手には螺旋階段が伸びていた。本来なら壁際にある螺旋階段を延々とのぼって、最上階を目指していく形となる。
「いてっ! なんだ?」
俺の頭上に何かが落ちてきた。拾ってみると、それは魔道士が持っている杖に見える。
「これは杖か? なんでこんな場所に?」
拾った杖をよく見たら、先端部分に変な文字が刻まれていた。だけど読めない、古代の文字だろうか。
「杖にしては小さすぎるわ。エイダ、わかる?」
「さぁ……ルウミラの杖でもなさそうだし。その文字の意味もさっぱり」
俺は周囲をくまなく見回した。どこにも異変は感じない、魔物の気配もやはりない。
「考えても仕方ないな。それよりこの塔をどうやって上るかだけど」
「さっきルウミラが言ってたことは本当みたいね。あそこを見て!」
パメラが指差した先に円形の板らしき物体が、三つ並んであった。
「〈リフティングボード〉だ。ルウミラは意外と親切だな。よしこれに乗れば」
「ロバート、ちょっと待って!」
エイダが俺が乗ろうとするのを制止した。
「どうしたんだよ、何か問題でも?」
「これは……罠ね。この〈リフティングボード〉、見覚えない?」
「見覚え……あ、もしかしてコルネ村にあった」
思い出した。コルネ村の宿でも同じ形状の〈リフティングボード〉に乗った。赤い色の魔石がはめられているから間違いない。
「コルネ村の〈リフティングボード〉と同じよ。ってことは……明らかにおかしいわ」
「おかしいって、何が具体的におかしいんだ?」
「思い出して。コルネ村は一つの〈リフティングボード〉で私達三人と宿の店員も一緒に乗ってたでしょ?」
「そうだね。でもそれがどうしたんだ?」
「ここにあるのは全部で三つ。私達の人数と合わせているわ」
「そういえばそうね。でも……ってことは」
「試しに三人で一緒に乗ってみようか」
俺達は全員で一つの〈リフティングボード〉に乗ってみた。だが全く微動だにしない。
「駄目ね。やっぱり私の思った通り、一つにき一人しか乗れないわ」
「……まさかルウミラの狙いって?」
ルウミラはただで俺たち全員を最上階まで行かせるつもりじゃないようだ。
「俺達を分散させるつもりだな。随分と手の込んだことを」
大灯台の頂上にて豪華な椅子に足を組んで座ったまま、ルウミラは水晶に映ったロバート達を見ていた。
「ふふ、罠に気付いたか。さぁ、どうする?」
彼女の見ている前で、ロバート達は三人で別々の〈フローティングボード〉に乗った。そしてそのまま頂上へ、一直線に上がり始める。
「狙い通りだ。さて、出迎えてやろうか」
約一分後、頂上に辿り着いたのは一人だけだった。
「そんな……みんなどこ!?」
ほかの二人がいないことに戸惑うエイダ、しかしすぐにルウミラの姿を確認し、戦闘の構えを見せる。
「ルウミラ! 今度こそ本物ね」
「いかにも、私は幻ではない。よくここまでたどり着けた、だがほかの二人がいないが……迷子になったのかな?」
ルウミラはあえて知らないふりをしてエイダに聞いてみた。
「……私達が三人揃って頂上に来れないように仕組んでおきながら、よく言うわ」
「ははは、当然だ。いくら私でも一人でお前達全員を相手にするほど馬鹿ではない」
「そう……ってことは、三人ならあなたに勝てる可能性があるってこと?」
「その可能性はあるが……残念だがほかの二人はすぐには上ってこれまいて」
「すぐには上ってこないって……一体どういうこと?」
「こういうことさ」
ルウミラは立ち上がり、エイダの前に両手を広げた。その両手の上に水晶を二つ浮かせて、エイダに二人の戦士の姿をそれぞれ映し出した。
「ロバート、それにパメラ!」
「二人とも、私が用意した戦士を差し向けた。その戦士に勝てれば上がってこれるが、果たしてどうかな?」
エイダは二人が対峙していた戦士の姿を見て、目を疑った。身に覚えのある二人の男の戦士だった。
「カルロスとバティスタ? どういうこと、あなた一体何をしたの!?」
「二人にちょっとした魔法を施したんだ。相手の脳を支配する〈ブレインウォッシング〉、まだ研究段階の魔法だが、どうやらうまくいっているみたいだな」
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