第十話 剣術スキル解放
俺は群れの真ん中に小石を投げた。投げた小石が跳ね返り、ホーンリザードの一体に当たる。奴らが揃って俺を見た。
「まとめてかかって来いよ」
ホーンリザードの一体が早速俺に向かって突進してきた。俺の目の前まで来たところで勢いよく飛び跳ね、その額から鋭く伸びた角を俺の腹部に突き刺そうとした。
バキーン!!
何かが割れるような音がした。見てみると、ホーンリザードの20cm近くはある角が半分に折れていた。折れた先っぽが無残に地面に転がっている。
そしてホーンリザードも地面に力なく落ちた。俺はそいつの胴体に、コスモソードの剣先を垂直に下ろし息の根を止めた。
二体目を倒したが、レベルは上がらない。レベルが上がるほど、次のレベルに必要な経験値が多くなるシステムだから仕方ない。ここにいる群れを全て蹴散らさないとな。
「俺の防御は4さ、だからもう怖いものはない!」
ホーンリザードは仲間がやられたのを見て、怒り狂ったのか一気に喚き散らし、全員一丸となって俺に襲い掛かった。次から次にホーンリザードの鋭い角が、俺を突き刺さってきた。
避けようと思えば避けられなくはないが、いかんせん数が多すぎて無理がある。だがそもそも避ける必要はないのだ。
後から襲い掛かってきたホーンリザードも、一体目と全く同じ目に遭う。やはり俺の体に角を突き刺すも、無残に折れてしまい地面に大量の角の欠片が落っこちた。
なぜホーンリザードの角が俺の体に突き刺さらないのか。
俺は今、胴体に〈貴族の服〉を装備している状態にある。この〈貴族の服〉が鋼のように硬かったのかと言えば、そんなことはない。
〈貴族の服〉は文字通りただの貴族が着る服で、防御力が上がるわけでもない。俺が今ホーンリザードの攻撃を無力化しているのは、防御が4だからだ。
ホーンリザードは最弱のモンスターで攻撃力もたかが知れている。防御が4になってしまえば、ホーンリザードから受けるダメージ量はゼロ、永久にHPは減らない。
怖いのは防御無視の魔法攻撃だけだが、ホーンリザードは魔法攻撃はしない。純粋に物理攻撃しかしないから防御を上げておけば、負ける要素はなくなる。防御を2に設定したのはこれが理由だ。
「おっと、角は回収しないと」
地面に落ちまくったホーンリザードの角はもちろん全て回収する。このゲームでは敵を倒しても、自動的にお金は増えたりしない。モンスターを倒した後で手に入るモンスターの体の部位、角や毛皮、骨、爪、さらに体内にある魔石などを回収して、町のギルドなどで取引しないとお金には換えられない。ホーンリザードの角も、もちろん貴重な資金源だ。
ホーンリザード相手に負ける要素はないから、あとはひたすら狩りまくる。取り敢えずレベルを4まで上げよう。
俺はそのまま周囲を捜索した。次々とホーンリザードの群れを見つけ倒しまくった。そして角も全て回収した。
そのまま一時間くらいは経過し、ホーンリザードは30体以上は倒しただろうな。レベルは4まで上がったが、ここから一気に上がりにくくなる。
さすがに最弱モンスターが相手だと、効率が悪すぎる。俺はレベル4までで溜まっていた割り振り値を少しだけ攻撃力に注ぎ込み、攻撃力を8まで上げた。次なる獲物を倒しやすくするために。
「ん? あれはまさか……」
森を西に歩き続け、大きな洞穴を見つけた。その奥から棍棒を持った獣顔の二足歩行のモンスターが三匹出て来た。
「コボルトか。ちょうどいいタイミングだ」
狐のような顔をした獣人系のモンスターだ。二足歩行で背丈は成人男性とほぼ変わらない。といっても、子供の体型の俺からしたら十分巨体だが。
手に持った棍棒で攻撃してくる。単体だけなら決して脅威となるモンスターじゃないが、必ず集団で攻めてくるから厄介だ。
さらにクリティカルヒットもお見舞いしてくる可能性がある。クリティカルヒットとは、稀に通常よりも高い威力の攻撃が出る現象のことだ。RPGの攻撃ではわりと普通にあることだが、コボルトはホーンリザードと違い、このクリティカルヒットが出やすい。
クリティカルヒットが出ると、いくら防御を上げていてもダメージを喰らう可能性がある。ダメージは極力食らいたくない、回復薬も限られているしな。
そしてこれよりも厄介なのはスタン攻撃だ。スタンとは喰らうと行動不能になる状態異常のことで、低レベルで単独行動の時には超危険な攻撃だ。
クリティカルヒットとスタン攻撃、両方とも使うコボルトは今の俺には脅威だが、手に入る経験値はホーンリザードより何倍も高いから何としても倒したい。恐らくあの三匹を倒せば、レベル5までは上がるはず。
なんとかコボルト三体をまとめて一撃で倒さないといけない。そのためにはまた別の下準備が必要だ。
「となると、今度はスキルか……」
コボルトはHPが高い。一体なら一撃で倒せるが、同時に攻撃されたら厄介だ。三匹をまとめて倒せないと厳しい。そのためには、範囲攻撃の剣術が必須となる。
だけどいくら〈コスモソード〉というぶっ壊れ武器を手に入れても、そんな便利な技は使えない。そこでアレを使う時だ。
「〈剣術スキルの書〉だ!」
俺はアイテムボックスを開き、既に自室で手に入れていた〈剣術スキルの書〉を取り出した。文字通り〈剣術スキル〉を習得するために必要なアイテムだ。
誤解しないでほしいのは、このアイテムを使うことで新たにスキルを獲得できるわけではない。あくまで剣術スキルを獲得するためのスキルツリーなるシステムを解放するだけだ。得られたスキルポイントをステータスと同じく割り振って、次々と剣術スキルを獲得していく。
俺の目の前にいくつもの円マークが表示された。丸い円のマークはいくつもの直線によっておでんの具のように繋がっている。馴染みのあるスキルボードの画面だ。一番下の円がスタート地点で白く光ってる。これはスキルが解放できるという合図だ。
俺は早速溜まっていたスキルポイントを最初のスタート地点の円に注ぎ込み、スキルを解放した。目の前で凄い光が発生し、『剣術スキル〈烈風剣〉を会得しました!』と表示された。
「これで準備は万端だ!」
俺はコボルト達の前に颯爽と姿を現した。コボルトは索敵能力が高いためか、俺にすぐに気づき猛然と襲い掛かってきた。
「ゴワァアアア!」
三匹同時に殺気立った顔で走ってくる。そして俺の目の前まで来たところで、棍棒を大きく振り上げた。その瞬間を狙い、俺は剣を真横に勢いよく振り払った。
「烈風剣!」
剣先が光りスキルが発動した。剣から凄まじい大きさの衝撃波が走った。全てコボルトに直撃し、コボルトは三匹とも大量の血を流しながら無残に倒れていった。
烈風剣は強烈な衝撃波を放つ範囲攻撃、雑魚モンスターをまとめて退治したい時によく使うスキルだ。しかも与えるダメージは通常攻撃の1.2倍程度、最初に会得できる剣術スキルの割には実用性が高すぎる。
ババーン!
レベルアップの音だ。俺のレベルが5に上がった。最初の目標地点に到達だ。
第十話ご覧いただきありがとうございます。次回もレベル上げです。
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