私に父と母そして姉が出来ました
・・・・パタンという静かに締められた扉の音に私は気がついた。
柔らかな布団に包まれてすごく気持ちいい。それに私の隣の不自然な窪みのあるスペースは、大人1人が横になれるサイズで、まだほのかな温もりとエイビーの香りを残している。
さっき部屋をでていったのはエイビーだろう。
ほんの少し前までエイビーが隣にいてくれていたのだと思うと・・・恥ずかしいような・・・嬉しいような・・・嫌、自分の年齢を考えてここは嬉しがっちゃダメでしょう・・そんなことを思いながらも隣に残ったエイビーの温もりと香りを堪能というべきか、満喫というべきか・・そんな言葉はどちらでもいいような〜・・・どちらも変態じみているな〜と思っているうちに二度寝した。
「てゆっか、暑っ」
何、この息苦しいまでの暑さは。頭も重いし、空気に異臭が混じっているようだ。顔をしかめながら寝返りを打った私は、目の前にあるものを見て息をのんだ。
「ぎゃあゃーっ。・・・・」
二度寝から目覚めた私の第一声である。
―――――――――え・・・・・、何??
なんでこのような事態になっているのかわからず困惑しまくっている。
・・・というのも、
私と一緒の布団で寝息を立てている物体。
筋肉に覆われた逞しく日焼けした肌と喉仏、薄く開いた唇。
戦いので傷を負ったのか、無数の傷があることで野生的な色気を放っている。
不意にその肉体が唸り声と共に動いた。
瞼はひくつき、切れ長の瞳がすっと開き、黒みがかった緑色の瞳が見える。
騎士団長???だよね。
40代後半のオジさまの色気ムンムンの騎士団長様だよね???
なんで団長様がここに??
団長??・・団長様??
それも上半身裸??
すんごくいい体・・鍛えられた胸筋に腹筋、
団長が呼吸をすると艶かしく筋肉が動く。
まさに生きる芸術がここに・・・
団長の色気当てられ・・そして、この状況についていけず・・
団長の裸体についての解説を始めてしまいそうなほど私の頭はパニックを起こしていた。
そして、団長が「サクラ。俺のかわいい娘」と呟いたのを耳にしたと同時に逞しい丸太のような腕に捕まり、抱き締められた。
団長に抱き締めながら、
『娘????かわいい娘???』
誰が??・・・私、もうすぐ30ですけど・・・・
私は、聞き間違いだと思い団長に確認しようと団長に抱き締めながらも体を必死でひねって抵抗した。でも、それがダメだったのか、騎士の性質なのか、私を抱き締める腕の力が緩むどころか・・さらに強くなり、
「サクラ〜。どうした??甘えていいんだぞ〜。反抗期なのか???幼くみえてももうすぐ16歳だからな〜。大丈夫だ、照れなくてもいいぞ〜。
まだまだ甘えていい時期だ〜」
そんな言葉を発しながら、私の頬や額にチュッ、チュッとキスをしてくる。
イヤーーーーー。
何が起こってるの〜〜????
ビックリしすぎて、私の全てがパニックに陥っている。
私の今までの人生の中で誰かにチュッ、チュッされる・・・・・なんて・・・・
未経験で・・・・恥ずかしすぎて・・・
もう私の顔は完熟トマトよりも真っ赤だろう・・・・熟しすぎて腐るかも・・・・
そして、団長の腕の拘束が強すぎて・・・・
このままだと、私ははじめてのキスでの羞恥死または抱き締められすぎたことによる窒息死・・・もしくはその両方での死亡・・・・・どれもイヤすぎる。
私は、無我夢中で団長のチクチク髭がある顎に両手をかけた・・・
そして、何とか冷静になってもらおうと思って団長に話かけようとした途端、
スパコーーーーン・・・・・
上の方で、ものすごくいい音がして、
私は、団長の腕の拘束から逃れることが出来た。
正確には、アリサさんとマリーンさんによって団長の腕の拘束から引っ張り出してもらっていた。
「サクラ様、大丈夫ですか??」
アリサさんとマリーンさんが、私の背をやさしく撫でてくれながら心配して気遣ってくれる。
大丈夫って言いたくても、はっきりいって大丈夫じゃない・・・
いろいろ削られてしまった・・・・もう、私は恥ずかしすぎて涙目だ・・・
「サクラ様、大丈夫ですよ。お顔が真っ赤なのも、涙目なのも、かわいいですからね」
アリサさんから途中変な言葉を聞いた気がする?・・・
聞き間違いだよね・・そんな気持ちを込めて私はアリサさんをみつめる・・・・が、私が寝ていたベッドの方で怒気をはらんだ
「アレスレイ、いったい何をしているのだ!!」
恐ろしく低い声が聞こえた瞬間、アリサさんの言葉の聞き間違いの確認どころではなくなってしまった・・・・だから、私にみつめられたアリサさんがピンク色に頬を染めてモジモジしていたことを知る由もなかった。
ベッド上で団長がエイビーに怒られている。
団長は、ベッドの上で正座だ・・・こちらの世界でも正座ってあるんだな〜やっぱり反省の姿勢は正座・・・と少しばかり現実逃避してしまった・・・。
エイビーは静かに怒っている様子だが・・・それがまた・・・怖い・・エイビーの背後に何かがみえるのは気のせいではない・・私は、エイビーを怒らせるようなことは絶対にしないと誓った。
そんなエイビーの怒りを一身に受けている団長であるが・・・
「ビー、しかたないだろう。サクラは僕たちの娘だよ。16歳みたいだけどまだ成人していない小さな娘だよ。かわいいんだよ。だから、一緒に寝たって抱き締めたっていいはずだ。それに俺は、サクラの父親だ!!」
なんだか団長が残念なイケオジになってしまっているようにみえるのは私だけだろうか?
いや、その前に団長から変な単語が聞こえたような・・・
団長、エイビーのこと『ビー』って・・恋愛ごとに鈍い私でもわかる・・・イヤイヤそれはこの際どうでもよくて・・・エイビーも団長も素敵だからお似合いだな〜・・・・
団長『僕』とか言うんだ〜・・ちょっと可愛いかも・・・・ヤンデレでエイビーにだけデレちゃうんじゃ・・・・変な妄想をしてしまうところだった・・けど、意外とこの妄想は現実だったりして・・・甘〜い・・・
イヤイヤ違うでしょ、私はさっきの妄想を追い出そうとブンブンと勢いよく頭を振った。
そんな私の姿をみていたアリサさんとマリーンさんが「かわいすぎる〜」と言いながら2人ともほんのり頬を染めてモジモジしていた。
そんな2人をみて、この部屋ちょっと暑くなってきたかも・・少し、空気の入れ替えしたほうがいいかもなどと窓をみていた。
「サクラ、大丈夫ですか?」
エイビーが私の頭に優しく手をポンポンとのせて聞いてくれる。
やっぱりエイビーの側は安心できる場所・・私は再認識した。
エイビーは、残念なイケオジ団長に
「サクラが驚くではありませんか」
そんなふうに言ってくれるエイビーに私は『もっと言ってやって』と心の中で応援していたが、エイビーが次に発した言葉に固まってしまった。
「レイ・・あなたはどれだけ脳筋なのですか。サクラは、先程まで寝ていたのですよ。私とレイがサクラの母親と父親として保護することも、紅色神石のこともまだ説明していないのですよ」
「だから、何だ?サクラの父親と母親としてビーと俺が保護するのは変わらないだろ?サクラは俺たちの小さな娘じゃないか!」
エイビーに対して少し不満気な様子の団長は、私をみつめると
「なあ〜」とニカッと笑って私に同意を求めてくる。
・・・いや、わかりません。私にはチンプンカンプン。
私は、正座しても圧迫感たっぷりの団長に
「エイビーは私の母親で、団長が私の父親になってくれるの?」
この時の私は情報過多のあまり無自覚で涙目だった。
そんなウルウルした涙目のまま失礼のないように団長にそっと問いかけてみる。これまた無自覚の涙目の上目遣いだ。
団長は、しばしの沈黙の後クワッと目を見開いて
「サクラ、俺が父親だよ」
はっきり言い切って両手を広げて、私においでのポーズをとってくる。
団長の圧迫感が半端なく、そしてなんか怖い・・・・それに
団長の『抱き締める』は『危険、死の予感あり』と頭にインプットされたていた私は、団長をすり抜けて、団長のすぐ後ろにいるエイビーに抱きついた。そして、エイビーにしがみき、エイビーの顔をみるために上を向いて問いかけた。
「エイビー、私のお母さんになってくれるの??」
すぐに「はい」と優しい笑顔で返事をくれた。
エイビーがすぐに肯定の返事をくれたことが嬉しくて嬉しすぎて、つい気を良くした私は、「エイビー、私のお姉さんにもなってくれる?」と追加で聞いて見た。
エイビーは、さらに優しい笑顔で「よろこんで」・・そう言って私の頭を撫でるとギュッと抱き締めてくれた。もう、私死んでもいい・・いや以前日本で死んでたら・・・???まあいいか・・考えないでおこう。
エイビーの香りに包まれて、すごく優しい・・温かい・・そんな気持ちになった。
私とエイビーのいい感じの柔らかな・・ちょっと照れくさいくゆったりとした時間。
「サクラ、俺も仲間に入れてくれ〜。俺はサクラの父親だぞー!」
少し拗ねた口調の男の声が私の背後からして、私を抱えるとエイビーもろとも抱き締めてきた。
「ぎゃああーーーー!!」声にならないが、私は心で悲鳴を上げた。
「レイ、やめなさい!」エイビーの口調は怒っているのに、顔は怒ってない・・どちらかと言うと照れてる感じ?・・あれ?私は気がついてしまった。エイビーの耳赤くなってない??・・私を挟んだエイビーと団長の生暖かい恋人のような新婚夫婦のようなやりとりが・・挟まれた私には居た堪れない。私、なんだかすごく恥ずかしくなってきた。
そ〜っと2人の間から抜け出ようとしたが、抜け出る寸前のところで、団長に捕まり団長の膝の上に抱き上げられた。
・・・ほんとやめて〜!
だって、これって座ったままだけど・・お姫様抱っこの座ったバージョンだよね!・・・私の中で何かがどんどん削られていく・・・
最初は、団長の膝の上から逃げようともがいていた私だったが・・もう諦めた・・このままでいい・・羞恥心を捨てよう・・そう思った瞬間だった。
そんな私の気持ちを知るはずもなく、団長は怖いくらいの上機嫌でニコニコしている。
団長の膝抱っこされた私の前には、エイビーがいて私に神殿での出来事とこれからについて説明してくれている。
だいたいの大まかなことは納得できないことがあるものの理解した。
そしてエイビーは私の手を握り、私の首からかかっている色が変わる神石・・・・淡桃色にも紅色にもなる神石に導いて触れさせた。
神石はすぐに光の画面らしきものでいくつかの事柄について表示した。
エイビーによると表示された事柄は、神殿で表示されたものと同じものであったようだ。
ただ、神石が表示した事柄のうち年齢
年齢(身体年齢):16
と表示された数字をみて、私は咄嗟に「違うー。全然違う。間違ってる」
大きな声で叫んでしまったのは仕方がないと思う。
ただ、エイビー、団長、アリサさんもマリーンさんも
「知っています」
そう言ってもらえて安心したのも束の間、
「16はないですよね。10歳くらいですか?」
マリーンさんの問いに言葉を失ってしまった・・・。
まさかの10歳・・・・ありえないでしょ!!
もうすぐ30の女・・いや女性に向かって10歳って・・・・怒るよって思いながらマリーンさんをちょっと怒りながらジーッと見つめてみる。
マリーンさんは、「サクラ様〜、そんなに見つめないでくださいませ」と言いながらモジモジしはじめたが、冗談を言っている様子はない・・・・。
もしかして、私・・幼女だと思われているの??
それダメでしょう・・・ここは、しっかり説明しないと・・・
結果は惨敗・・・。
説明にも至れませんでした。
なぜって??エイビーも団長も含めて皆、私を16歳より上の年齢なんてこれっ〜ぽっちも考えていないから・・・・。
途中から、私は諦めました。年齢なんてもう関係ないさ〜!16と30
が違うと思うのは若いうちだけ・・・歳をとったらそんな違わない気がするし・・・・と考えることを放棄したのであります。(少し改まった感じで思ってみました・・・イヤイヤふざけている場合ではない)
ただ、16歳の年齢は私には違和感があり20歳より上の年齢のはずだと主張してみたが・・・・団長に「小さな子供でないことはわかっているよ〜」とニヤニヤ笑顔で返されてしまった。そして、14歳以上の歳は納得してもらえず、私は14歳でいいか・・・としたのでした。そして、皆も「サクラの中身は14歳」ということで、言葉上は皆「そうだな」と頷いてくれました。
私の年齢に対する違和感は、16歳でも中身は30歳。
私以外の皆の私の年齢に対する違和感は、16歳でも中身は14歳。
ちなみにこちらの世界での成人は16歳。成人するまでは大人が甘やかすのが当たり前とする世界で、特に女の子が生まれることは少なく、生まれても成人の16歳まで生きることが難しいため超過保護に甘やかすという事実をこの時サクラは知るはずもなかった。余談ではあるが、こちらの世界で成人する子供は、男女ともに大柄で体格がよいのである。
そんなこんなで、中身の年齢が全く違っていることに気が付くことなく、私は16歳のサクラとしてこの砦で生活することになったのである。
この時、私の中身年齢に対する思い違いが、なんとも不思議な事態を招くことを考えていなかった。
特に、未来の恋人●●●が年齢差のありすぎる恋人に苦悩することに気がついていなかった。
かくして、朝宮咲良はサクラ16歳(本人の中身年齢30歳、その他が納得している中身年齢14歳)としてこの砦での生活がスタートしたのである。