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大切な大好き  作者: 界扉
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思い出した過去

美形ばかりの空間・・・・場違いすぎる。

でも、この場から立ち去ることができない・・・・。

砦の美形のおじさん神殿長シンクラー・アイラットが皆に何か言っているが、今の私の頭では理解できない・・というか理解しようとする気持ちが湧いてこない。

私は、話長いのかな〜、偉い人の話って無駄に長いんだよな〜、

聞いてもあまりよくわからないんだけどな〜・・・なんて他人事のように半ばスル〜(働く大人のスルースキルを活用)しながら聞いていた。

そんな中、突然本当に突然だった。神殿長が私の手を握り、両手で包み込んだ。

その瞬間、神殿長に包み込まれた私の手から光が溢れ出し、私を包み込んだ。

私はその光がすごく眩しくて目を閉じると、体がフワッと浮き上がる際の独特の浮遊感に軽い眩暈を覚えた。

体が浮き上がった瞬間の気持ちの悪さに目を開けると、どうやら先程の光が私を包み浮き上がっているようだ。

私の手を握っていた神殿長もいつの間にか私を放し、エイビーたちと共に私を見上げている。

光がチカチカと点滅すると神殿長は、光に話の再開を促されたように語り出すと、私を包み込んでいた光が液晶画面のようになり映画のごとく話の光景を映し出した。

そして私は光の液晶画面の映像に導かれるように思い出した。

最初に思い出したのは、ひとりぼっちで過ごした時間・・・・・。

母の存在も父の存在も・・家族といえる存在も知らなかった・・・ひとりぼっちで過ごした時を・・・・。

会うこともまして話をすることも出来なかった母のことを・・・。

私の母は、この地で私を産み、産後の体調を崩して亡くなった。

エイビーは、私の母のことを姉だと思っているから私のことも姪みたいなものだと話してくれた。

私にとってエイビーは特別だった。

エイビーは、優しくってあたたかくて大好きだった。

でも、会えるのはほんの少しだけだった。

エイビーに会いたかった・・・エイビーの優しい手で頭を撫でて欲しかった・・抱きしめて欲しかった・・・。

叶わなかったけど・・・・。

夜のベッドに自分自身をだきしめ布団で口を覆い、声をころして泣いていた。

寂しい・・・。寂しい・・・。

どうして、誰も一緒にいてくれないの・・・・。

寂しさをたえるために自分自身を抱きしめて目を閉じ泣きながら眠った。


次に思い出したのは、小学生くらいの男の子たち3人と一緒に過ごした時間。

隣国で魔獣の出現の報告があってから、この国でも魔獣の報告が相次ぎ、この国の騎士という騎士が魔獣狩りに駆り出された。

その中にエイビーもいた。

私のいた砦は、ほとんどの大人が騎士団に所属していたことから、魔獣狩りのためにいなくなった。

大人がいない時間、子供たちは魔獣狩りに行かなかった戦うすべのない女性や負傷し戦えなくなった大人、そして力のない老人たちと共に一ヶ所に集められた。

砦に残された者たちは、魔獣狩りに行っている夫・恋人・息子・娘・孫・大切な人・・・家族の無事を常に祈りながら過ごしていた。

私もエイビーの無事をひたすら祈っていた。

でも、他の人にはそれが伝わらなかったようだった。

それもこの映像でみれば当たり前だ・・・。

なぜなら、皆が共同生活をしている中で私だけが共同生活にありながら別の部屋でひとりなのだ。

魔獣狩りは長引き、明るい報告はなく、魔獣が日々増えているとの悪い報告がもたらされていた。

魔獣狩りで負傷した人や亡くなった人の名前が砦にもたらされる。

その度に砦に残された人々は悲しみ、苦しむ・・・そして、負の感情は増殖していく。

負の感情は、家族のいない、でも特別待遇を受けているようにみえ(本当はひとりぼっちで過ごしているだけ)大切にされているようにみえる私に向かってきた。

目に見える形での悪意の表出はなかった・・そのかわり、言葉やちょっとした態度で悪意が表出された。

人と関わることなどほとんどなかったにも関わらず、少し接触するだけでも「家族がいなくていいわね」「心配する人がいなくていいわね」「ひとりでも大丈夫なのね」・・・・。

そんなふうに言われるたびに私は一生懸命考えた。

私のせいなの・・私がダメなの・・・どうして?・・・・。

いつも思っていた、どうして私は1人なんだろう・・・。

なんでだれも一緒にいてくれないんだろう・・・。

ひとりぼっちはいやだ・・・いやだ・・・。

私、いい子でいますから私と一緒にいてくれる人が現れますように。

私のお願い叶えてください・・・お願いします。

誰も知らない私のお願い・・・・。



そんな砦の生活の中でも私にも楽しい時間があった。

それは同じくらいの子供との交流だった。

子供は私を含めて4人。この一緒にいた3人の子供たちが光の画面にうつしだされた時、私は先程挨拶してくれた3人の騎士たちがこの時の子供だったことを・・・そして、この3人がこの時の私にとって優しい時間を与えてくれる存在であったことを・・・ぼんやりと思い出した。このころの1番隊隊長ガイ•ビライタスは、短く切られた焦茶色の髪とまっすく前を見つめる明るい茶色の瞳は優しく、目鼻立ちがはっきりしていて、目元もキリッと凛々しい一番年上でお兄ちゃん的存在だった。2番隊隊長クレイン•ディストランは、混じりけのない見事な金髪のいわゆるハニーブロンドを持ち瞳も金色のまさに王子様のようなキラキラの笑顔で話かけて美少年だった。3番隊隊長カーク•リーストは、頭が良いらしく頭のよさを象徴するようにエメラルド色の瞳と切れ長の目元、すっと通った鼻筋、卵型の輪郭、サラサラのストレートの明るい金髪・・プラチナブロンド(という色だろうか)を後ろで一つに括っており、私は少しだけ苦手でだった・・・・でも、一緒にいてくれる時間は一番長かった。そして私に「一番年下だからチビなっ!!」そんなふうに言って初めて名前をつけてくれたのだ。初めて呼ばれる名前が「チビ」なんてペットの名前みたい・・そんなふうに映像をみながら思うのに・・はじめて知る嬉しくて嬉しくてたまらない気持ちが私の心の中に穏やかででも揺るぎのない波のように流れ込んできた。この3人とともにすごす時間は、私にとって平穏で幸せを感じる時間であったことを思い出した。


しかし、私にとって平穏で幸せを感じるガイ、クレイン、カークとの時間は長くは続かなかった。

魔物を狩られて数を減らすどころか益々数を増やしていった。

魔物は独特の光に弱く、その光は特定の子供たちの体内に宿っていることがわかると、国中の子供たちが光の有無を確認され、光を宿す子供は国の中央である王都に集められた。体内に光を宿す子供は王族や高貴な貴族の血をひくものばかりだった。ただひとり・・・父親のわからない私を除いて・・・。

最終的に魔獣と戦うために体内に光を宿す子供5人が選ばれた。そして、体内に光ではなく黒の玉が見つかった王都騎士団団長の息子は魔獣と戦う体内に光を宿す子供5人の見届け役として選ばれたのである。

戦うといっても武器を持って戦うわけではなく、ひたすら祈るのだ。

国の平和と大切な人の幸せを・・・そうすることで体内に宿した光が大きくなりその光の強さで魔獣は消滅していくのだ・・・・。

映し出された5人の子供の様子は悲惨を極めた。

魔獣の恐怖・・・逃げたくても逃げることの許されないことを知っている心の恐怖・・・・。

1人また1人と魔獣の恐怖と精神の状態を保てなくなり体内の光が消えていく・・・光の消失は、子供の死を意味した。

私は、魔獣が怖かった。でも、体内に光を宿していることがわかったとたん砦から王都に連れてこられ、魔獣を倒すための祈りだけを教えられ、戻る場所がないと思っていた私は・・・・ただただ・・どうでもよかった。

周りから光がひとつ・・ひとつ・・と消えていくのを見た時・・すべてが真っ暗になってしまう・・・もう、柔らかな大地の色の焦茶も異なるキラキラの金色・・・「チビ」と呼んでくれる声も・・・みんな消えてしまうと思うと苦しかった・・・絶対に無くしたくないと強く思った。

私の中でこんなに強く思ったことはなかった。初めての気持ちだった。

私は必死で祈った・・私ではない人のための幸せを・・笑顔を・・ガイ、クレイン、カーク、そしてエイビーの顔を思い浮かべながら・・・・。映像から祈りともに思いが今の私に突き刺さってくるように押し寄せてくる。

映像の中の最後の私は、光が体から漏れ出て大きな光の輪が私を囲んでいるように見えた。その私を支えるように黒の玉を持つ黒髪の少年がいた。私は、その少し大人びた少年の黒色の瞳を見つめながら

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

何かを言っていた。

私は何を言っていたのか、思い出せなかった。

私の言葉が聞き取れたのか、少年は黒色の瞳をほんの僅かに見開いたように見えた。そして、光に包まれた私を抱きしめ、何かを呟いた・・・・。私は、少年に抱き抱えながら、懐かしい場所を・・・砦にいるガイ、クレイン、カークを見つめた。3人は突然の私の出現に驚き目を見開いていた。私は、3人に「ありがとう」そう言っていた。

ガイ、クレイン、カークも、何か言っていたが聞き取れなかった。

そして再び少年が私を抱え直し呟くと、明るい原っぱのような場所に着いた・・こんな場所知らない。

でも、私が少しだけ顔を上げると、私を見つめるエイビーがいた・・

エイビー・・・「だいすき・・」・・・・

私に入ってくる映像からの思いや記憶はここまで・・・・

私はここで死んだ。

映像の中でエイビーは私をしっかりと抱きしめてくれていた。

そして、エイビーに抱きしめられながら私を包んでいた光が消えていった。

魔獣は消滅した。そして、黒の玉を持ち光を宿す子供の見届け役となった騎士の息子は生きのこり魔術師として光の子の伝導者となった。


そこで映像が終了した。

そう、神殿長の話が終わったのだ。

私は、エイビーを探した。

エイビーはそばにいて私を心配そうに見つめていた。

私はたまらなくなってエイビーに抱きついた。

「エイビー、ただいま。」

「私戻ってきたよ。咲良っていうの」

エイビーは何も言わず私の頬を撫でた。

エイビーの指が濡れているのを見て私ははじめて自分が泣いているのを知った。

自分が泣いているのがわかると急に恥ずかしくなってしまいエイビーの胸に顔を押しつけた。

エイビーはやさしく抱きしめてくれた。

なんだかホッとして気がぬけてしまった。

そして私はまた気を失ってしまったのである・・・





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