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第7話 マッドサイエンティストに限って良い物を発明する

今話からまたラース視点です。

 グレシャムと決闘することになった当日の朝。僕は町の商店街を歩いていた。ちなみに、僕が今いる町の名前はトロンという。


 実家であるヴィクトル領とは少し離れた、ラマテール公爵領にある町だ。ヴィクトル領では僕が爵位継承権を弟に奪われたことはみんな知ってるからな。


 恥ずかしくて居られず、逃げだしてしまった。トロンの方でも、活動範囲の広い冒険者たちには僕が元貴族家の人間なことは知られてしまっている。


 けれど、やはり距離があるからかそこまで詳しいことを知っている人間はほぼいない。


 わざわざ他領の貴族家の話なんてそこまで価値はないし、あまり貴族のことをうわさしていると投獄される可能性もあるからな。


 僕は商店街の裏路地へと入っていく。裏路地といっても、この辺りは近くに富裕層が住む住宅街があるため、比較的治安は良い。


 衛兵が定期的に見回りをやっているからだ。狭い道を直進していると、やがてお目当ての建物が見えてくる。


 屋根が赤く塗装された、こじんまりとしている魔道具店だ。家の前には騎士の像が2体立っている。ドアを開けると、チャリンチャリンと音が鳴る。


「いらっしゃい」


 少し抑揚の抑えられたような、そんな声とともに奥から店員がやってくる。


 出てきたのは、銀髪をロングにした少女だ。白シャツの上から赤いベストを羽織っており、下は青いスカートをはいている。頭には魔女のような黒い帽子を被っていた。


 だが、何よりも彼女の見た目で特徴的なのは両目の色が異なることだ。右目は赤で左目は青い。いわゆるオッドアイというやつだな。


 彼女の名前はフレア。この店を経営している。


 そんな彼女は僕の姿を見て少し驚いたような顔をした。


「あら、まだ生きてたのですね」


「第一声がそれかよ」


「思ったことを言ったまでです。あなたは弱いのですから」


 ぐぬぬ。事実だから何も言い返せない。


「おまけに、あなたは最近ここに来なかったじゃないですか」


「それは、最近お金がなくてさ」


「別にお金がなくても来て良いのですよ。あなたは実験台モルモッ……いや、助手として最適なのですから」


「今実験台のモルモットって言いかけたよなぁ!」


 確かに僕は彼女の実験を手伝ったりすることも多い。ちゃんと報酬としてお金や実験で作られた魔道具をくれたりするのでそこまで嫌ではないけども。


 嫌じゃないどころか、貧しい生活を強いられている僕は彼女に感謝すらしている。僕がゴブリンキング戦で使ったファイアーボムなんかも彼女がくれたものだ。


 撒菱(まきびし)やけむり玉もこの店で購入している。


「気のせいでしょう」


「うん。そういうことにしておくよ」


 彼女はいつもこんな感じだ。だから僕は早々に諦めることにした。


「それで? こんな朝っぱらからなにしに来たのです?」


 僕はこれまでに起きたことをフレアに話す。スキルがレベルアップして新たな魔法を覚えたこと、それに金級冒険者であるグレシャムと戦うことなどをだ。


 不思議とフレアにはどんなことでも包み隠さず話せる。この町に来てから割と早い段階で親しくなれたからだろうか。あと、僕に対してまともに接してくれる数少ない存在というのもありそう。


「はぁ。あなたは死にたいんですか? いくら新しい魔法を覚えたからと言って、いきなり金級冒険者と決闘するなんて無謀です」


「分かってはいるさ。でも、断ったら僕がゴブリンキングの魔石を盗んだと思われるかもしれない。後には引けないよ」


「それもそうですね。まぁ、正面から戦ったら確実に負けるでしょうが、私の魔道具やあなたの魔法を上手く使えば勝てるかもしれませんね」


 おお。まさかフレアに僕が勝つかもしれないと言ってもらえるとは。彼女は頭が良いので、今の言葉は信用できるぞ。


「だろ。だから頼む、決闘に勝つために魔道具を買わせてくれ」


 僕は頭を下げた。


「別に良いですよ。ただし条件が2つあります」


 条件……。一体何なんだろうか。少し怖いがよっぽどのことがなければ受け入れよう。


「一つ目、まず、私の魔道具を使うというのであれば、絶対に生きて帰って来なさい」


「もちろん、それは約束する」


 決闘に負けるつもりは毛頭ないし、ギルド内における決闘で相手を殺してしまった場合はペナルティがある。だからもしものことがあっても大丈夫だ。


「二つ目、決闘から帰ってきたら私と同居しなさい。あなたにはもっと実験に付き合って欲しいですから」


 うわー。そうきたか。実は彼女にここで住まないかと言われたことはなんどかある。しかし、すべて断っていた。


 なんでかって? そりゃあフレアの実験というのが結構恐ろしいからだ。スキル【魔道具作成】を持っている彼女はよく色々な魔道具の実験を僕にしているわけだが、これが結構過酷だ。


 ある日の実験では、【防護】の魔法を素材に付与して作った鎧を僕が着て、そこにフレアが魔法で攻撃したりした。


 また別の日には、潜水箱とかいう入れ物の中に入って、川底で生活したりして過ごした。


 いまいちピンと来ないかもしれないが、【防護】の魔法が付与されているとはいえ攻撃魔法が自分に向けて放たれてくるのは怖いし、川底での生活は箱の中に水が入って来るんじゃないかビクビクしながら過ごしていた。


 それでも、今回は彼女の条件を受け入れるしかないな。ただ――。


「一つ聞くが、冒険者は別に続けてもよいんだよな?」


 僕は強くなりたい。僕を追いだしたヴィクトル家を見返すためだ。そのためには冒険者を続ける必要がある。


「それは構いませんよ。あなたの行動を束縛する気はないので。実験に付き合ってもらうのも時間があるときで良いですよ。これまでもそうでしたし」


「了解だ。それじゃあ僕は条件を飲むよ」


「なら、時間もないですし、決闘で使えそうな物を渡します。今のあなたでは買えない物もあるでしょうし、一部は貸してあげましょう」


「本当に助かる。ありがとう」


 こうして僕はフレアから幾つかの魔道具を買ったり借りたりすることができた。

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