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第16話 別れは突然やって来る

 僕は言われた通りにミーシャを鑑定する。


 ―――――――――――――――――――――――

 ミーシャ・スパチノフ 15歳 ♀ アンデッド

 Lv25

 攻撃125

 物理防御120

 魔法防御134



 保有スキル【忘れられぬ未練Lv3】

 保有魔法【物理攻撃無効】【呪いLv2】【エア・ブレード】【毒攻撃】【魔法攻撃半減】【分身Lv3】

 称号【アンデッド化】

 ―――――――――――――――――――――――


 ふむ。ステータスは低いものの、保有魔法のラインナップが戦闘向けで良いな。にしても――。


「【忘れられぬ未練】なんて聞いたことのないスキルだ」


「私も。死ぬ前までは【販売員Lv3】だったのに、どういうわけか、アンデッドになってからスキルが変化してしまったのよ」


 なるほど。ステータスが変質するということは割とあるが、その中でも保有スキルが変わってしまうというのはかなり珍しい。


 少なくとも、僕は初めて見た。それに、【魔法攻撃半減】という魔法も珍しい。


 ―――――――――――――――――――――――

【魔法攻撃半減】……魔法攻撃の威力を半分にする。

 ―――――――――――――――――――――――


 これがあるなら、【アンデッド吸収】にもある程度対抗できるかもしれない。



「そうか。確かにそのステータスなら、すぐにアンデッドドラゴンに倒される心配はなさそうだ」


「なら、私も戦闘に参加しても?」


「もちろんだ。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだよ」



 ◆❖◇◇❖◆



 僕はシルとミーシャを連れて、再び扉を開く。アンデッドドラゴンは先ほどと同じ位置にいた。最初に動いたのはミーシャだった。


 彼女は【分身Lv3】により、体を3つに分裂させる。そして、【呪いLv2】と【エア・ブレード】でアンデッドドラゴンに対して攻撃し始めた。


 呪い効果のある球体と空気の刃がアンデッドドラゴンを襲う。


「グギュルルルルルルル!!!!!!!」


 アンデッドドラゴンは(うな)り声を上げて反撃してくる。アンデッドドラゴンの口から高温の火の玉が放たれた。


 火の玉はミーシャのうちの1体に当たる。彼女の分身が一つ消えた。しかし、別の分身が2つに分かれ、再びミーシャは3つになる。彼女は魔法による攻撃を再開した。


 その様子を見て、アンデッドドラゴンは怒り狂う。ミーシャの攻撃はアンデッドドラゴンにしてみれば大したことはないはず。けれど、とにかくうっとおしく感じるようだ。


 アンデッドドラゴンは翼をはためかせ、飛びながらミーシャの攻撃をかわしていく。そして火魔法や【威圧】【グラビティ】などを使ってミーシャに襲い掛かる。


 しかし、彼女はアンデッドドラゴンによって数を減らす度に、分裂して元通りになる。彼女の魔法は本当に使えるな。


 ミーシャに加勢するようにして、シルもまた口から鉄球を吐きだす。突然のことにかわすことができなかったのか、鉄球はアンデッドドラゴンの右目を潰した。


 悲鳴を上げたアンデッドドラゴンは口の中でなにかを溜めるような動作をした。まずいな。これはおそらく【ドラゴンブレス】の予備動作だ。


 ―――――――――――――――――――――――

【ドラゴンブレス】……ドラゴン族のみが扱える特殊魔法。大量の魔力を消費し、口から高温のブレスを吐きだす。周囲一帯の物質はすべて融けてしまう。

 ―――――――――――――――――――――――


 ドラゴンブレスというのは、ドラゴンが扱う魔法の代表格と言われているくらい有名なものだ。ドラゴンブレスが吐きだされた後にはなにも残らないと言われている。広いとはいえ、閉鎖的な空間であるここで喰らうのはまずい。


 だが――。


「この瞬間を待ってたのさ! 束縛眼! 束縛眼! 束縛眼!」


 僕は束縛眼を連射する。アンデッドドラゴンはブレスを吐きだす直前の状態で動かなくなってしまう。


 その間に、ミーシャはアンデッドドラゴンの頭部に近づくと、アンデッドドラゴンの口を閉じた。次の瞬間、束縛眼の効果が切れる。


 バッゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!


 物凄い爆発音とともに、アンデッドドラゴンの頭が破裂した。口が閉ざされた状態で強力なドラゴンブレスを放ったためだ。


 頭を失ったアンデッドドラゴンは巨体を地面に横たえると、動かなくなる。


「まさか勝ってしまうとは」


 ミーシャの恋人をアンデッドドラゴンから引き剝がせればいいと考えていたので、アンデッドドラゴンを倒すつもりはなかった。


 しかし、思っていたよりもミーシャの魔法が優秀だったため、正攻法ではないがアンデッドドラゴンに勝ってしまったぞ。


 《レベルアップしました》


 最近上がったばかりなのにまたか。まぁ、強敵とばかり戦っていたのだから当然ではある。


 《称号 【ドラゴンスレイヤー】を獲得しました》


 新しい称号まで手に入れられたか。いったいどんなものなんだろう。僕はステータス画面を開いた。


 ―――――――――――――――――――――――

【ドラゴンスレイヤー】……ドラゴン系統の魔物を倒した者に与えられる称号。攻撃力が500増加する。

 ―――――――――――――――――――――――


 攻撃力が500!? 僕は慌てて最初のステータス画面を見る。


 ―――――――――――――――――――――――

 ラース・ヴィクトル 16歳 男 人間

 Lv13

 攻撃723

 物理防御120

 魔法防御145



 保有スキル【魔眼Lv2】

 保有魔法【探知眼】【鑑定眼】【映像眼】【束縛眼Lv1】

 称号【キングスレイヤー】【ドラゴンスレイヤー】

 ―――――――――――――――――――――――


 本当に増えていやがる。嬉しいことだが、【ドラゴンスレイヤー】の称号を得られたのは本当に運が良かったな。なにしろ、ドラゴンというのは基本的に人間が倒せるような存在じゃない。


 けれど、僕たちが倒したドラゴンはおそらくアンデッド化するときにかなり弱体化していたのだと思う。だから比較的楽に倒せたのだ。


「トマス!」


 ミーシャはアンデッドドラゴンのお腹に取り込まれている恋人のところに向かって駆けだす。そしてトマスと呼ばれた男をアンデッドドラゴンの身体から引き剝がした。


「ヴヴヴ……」


 ゾンビになっているトマスは少しの間暴れていたが、やがてなにかを思いだしたかのようにミーシャを見つめる。


「ヴ……ミー……シャ……」


「あ、あなた、思いだしてくれたの!? ああ、奇跡だわ! 嬉しい!」


 ミーシャはトマスに思いきり抱きつく。


「ミーシャ……ゴ、ゴメン……イッショニクラスヤクソク……ハタセナ……カタ」


「なにを言っているの! あなたはなにも悪くない。悪いのは疫病が原因だったのに、お店の常連たちが苦しんでいるのをあなたのせいにした役人たちだわ。私はあなたを恨んでなんかいないのよ」


「ヨ……カッタ」


 それだけ言うと、トマスは動かなくなる。ゾンビなどのアンデッドは魔力を動力源にしている。だから、アンデッドドラゴンに魔力を奪われ続けたせいで死んでしまったのだろう。


 いや、アンデッドに対して死んだという表現を使っていいのかは知らんが、そうとしか言いようがない。


 その後、ミーシャはトマスの遺体を棺に納める。彼女はその上に土をかぶせて埋葬しようとしたが、僕がもうすぐ墓地が移されることと、その時にここの遺体も移送されることを伝える。


 するとミーシャはそのままにすると言った。


「あら、身体がなくなってきた」


 ミーシャの身体が徐々に薄くなっていく。


「もう時間みたいね。私の未練がなくなったからだわ」


「そうみたいだな。さようなら」


 それだけ言って僕は黙り込む。こんな時に何を言えばいいのかが分からなかったからだ。


 けれど、ミーシャは微笑む。


「ええ、さようなら、優しい冒険者さま」


 ミーシャは跡形もなく消えてしまった。

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