頼みごと
リチャードに相談して、国王陛下へ打診することにした。
来月の船上パーティーを取り止めて、城でのパーティーに変更できないかどうか。
彼女から婚約解消の要望があったことは、リチャードにも言えていない。
とりあえず一番に彼女が心配しているのは、船が大嵐にあって難破することなのだから、それを回避することで安心させたい。
その問題がクリアできれば、僕への評価も高まるはずだ。
「大事な話とは?」
国王陛下がお尋ねになった。
「来月の私の成人祝賀パーティーでございますが、船上でなく、城での開催にご変更いただけないでしょうか。誠に勝手を申しますが」
国王陛下の眉がピクリと動いた。
「どうしてまた急に。船で周遊したいと希望したのは王子ではないか」
「ええ。私の希望でそのように手配して頂き、感謝しております。が先日、その船が大嵐に遭って難破する夢を見たのです。私だけではなく、ベラドナ嬢も同じ夢を。彼女はそれが予知夢ではないかと大変不安になっています」
「何と。それは真か」
国王陛下は目を丸くされ、
「では、城でのパーティーに変えよう」とあっさりお答えになった。
え?と思わず聞き返してしまうくらい、即決だった。
「主役の王子と、王子の婚約者が不安に思いながらのパーティーなど意味がない。二人が憂いなく、心からの笑顔を見せてこその祝賀パーティーだからな。場所を変更するくらい、何も問題ない。城で盛大に行おうぞ」
国王陛下のお言葉にじんときた。
さすが僕の父上だ。愛情深く、決断力がある。
もう日が差し迫っているパーティーの変更なんて今さら無理だろうと、相談前から諦めていたのに。
「国王陛下にお聞きにもならないで」と僕に怒った彼女の顔を思い出した。
何でも駄目元で聞いてみるものだ。
一つ肩の荷が下りて、スキップの足取りでリチャードへ報告に行った。
パーティー会場の変更が通ったことにリチャードも驚いて、喜んでくれた。
「ではこれで、ベラドナ様の気がかりも晴れますね。殿下の成人祝賀パーティーで船を出す予定がなくなれば、下見の航路巡りも行きませんから。私たちが大嵐に見舞われる心配もありません」
それにしても、とリチャードが少ししんみりして言葉を続けた。
「夢が正夢になれば、私や船員たちが巻き込まれることを気にかけてらしたのでしょう? お優しい方だったんですね、ベラドナ様」
言いたいことは分かる。
彼女が、僕の部下の人生まで気にかけてくれる女性だったとは、僕も知らなかった。
淡々とした、冷めた女だと思っていたから。
僕をナイフで刺し殺すほどの情熱を、実はずっと隠し持っていたのだろうか?
出会ったときから結婚することが決まっていた彼女に、特別な興味を抱いたことがなかった。彼女の好きな色も食べ物も知らない。
彼女のことがもっと知りたい。
今さらと笑われるだろうか。
「あっ、そういえばベラドナ様に関することで新しい情報が」
リチャードが言った。
「何だ?」
「騎士団所属の似顔絵師に、ベラドナ様から依頼があったそうです」
「似顔絵の依頼が?」
騎士団には腕利きの似顔絵師がいる。犯罪者を手配する際に、人相書きを作成するためにだ。
実物を見ながら描く普通の画家とは違い、目撃者の曖昧な記憶のみを頼りに似顔絵を作成することも多く、特殊な技術を要する。
「誰の似顔絵だ?」
「変わった感じの男らしいですよ。絵師は他言無用とベラドナ様に釘を刺されたようですが、騎士団の分団長の目に入り、報告が上がって来ました」
でかした、分団長。
彼女が秘密で手に入れたかった男の似顔絵かーー見たいに決まってる。