彼女の好きな色を知らない
突然のことに彼女はきっと驚くだろう。誕生日でもなんでもない日に、思いがけないプレゼント。サプライズだ。
何を贈ればいいんだろう?
姉上に聞きたいところだが、そうすると意味がないから駄目だよな。
ベラドナの好きな色って何色だっけ。好きな食べ物は?
ヤバい、何も分からない。
2人でどこか行くときには「殿下の行きたいところで」で、何か食べるときは「殿下と同じもので」と昔から決まって彼女は言うので、今じゃ彼女の意向を伺うまでもなく、僕が最初に決める。
それが悪かったのか?
今さら?
「殿下。そう言えば、ベラドナ様のことで思い出したことが」
2人で王城の見回りを続けていると、リチャードが不意に言った。
「何だ? 言ってみろ」
「ここ最近、城の図書室でよく調べ物をしていらっしゃいます」
「ベラドナは勉強熱心だからな。別にそう珍しいことでもないだろう」
「はい。ですが、少し不思議でして。ドージャ王国という、我が国と特に国交のない、西大陸の小国について熱心に調べていらっしゃいましたので」
「ドージャ王国?」
「はい。西大陸の最西端に位置する小国です。行くには、船で5ヶ月位でしょうか」
「ああ、あの辺ね。ちっちゃい国がごちゃごちゃしてるとこだよね。何でそんな遠い国のことをベラドナが熱心に調べてるんだ?」
「私も不思議に思ってお尋ねしました。行ってみたいのと仰っていました」
「ふーん、よっぽど美しい国なのかな。でも何で急にそこ? どこから出てきたの?」
「さあ。会話の掴みにでも、お聞きになってみてください」
「ああ、そうしてみるよ。ありがとう」
んー、船で5ヶ月のところにある小国か。もっと近いところなら、連れて行ってあげることもできるんだけどな。
船で思い出した。
船上パーティーを取り止めてほしいとベラドナに頼まれた件。
いや、あれは頼みというより、警告だった。
ーー海に出るのはおやめになった方が、殿下の身のためですーー
「殿下、お話というのは……」
彼女の家へ行き、返事をすることにした。
通された客間に現れた彼女は、淡いラベンダー色のドレスを着ている。
あの夢のなかでは、見慣れない真っ赤なワンピースを着ていた。返り血を浴びても良いように? 用意周到だ。
「返事は早い方が良いだろうと思って。船上パーティー変更の件。考えたけどやっぱり無理だ、今から変えるって急だし」
「そう国王陛下が?」
「いや、陛下にはお聞きしてない。聞いても無駄だと思う」
僕の言葉にベラドナが目を剥いた。
「陛下にお聞きにもならないで、殿下が判断されたんですね?」
「聞いても無駄だからね」
「聞けよ」
「え?」
今誰が喋ったんだ?
「殿下が死ぬのは別にいいんです。リチャードを死なせて良いのですか? 嵐で難破して、リチャードと船員たちが死ぬのですよ。彼らには妻子がいます。船を出さなければ嵐に遭いません。彼らの死を回避できます」