贈り物
「ねえ、リチャード。僕、何かベラドナを怒らせるようなことしたかなあ?」
「どうかされたんですか?」
「何かねー、怒ってるみたいなんだよね」
「昨日、お会いになったときにそう感じたのですね。ではその前にお会いになったときに、何かやらかしたのでは?」
「何もやらかしてないよ。そのときも怒ってた。ここ最近ずっとだよ。最初は、たまたま虫の居所が悪いのかなーって、まあそういう日もあるよねって思ったんだけどさあ」
「ここ最近とは……具体的には、どのくらい前からですか?」
王城を見回りしながら、リチャードと話していて、ふと気付いた。
「あっ、もしかしてあれかな。ベラドナが4ヶ月前くらいに、熱を出してふせってたとき。見舞いに行かなかったから。けどあれは、公爵夫人が来てくれるなと言ったからだよ。風邪が移るといけないからって」
「ええ、そうでしたね。それが原因ではないと思います。それを根に持って怒るような方であれば、とっくの昔に怒ってますよ」
「えっ、何それ。まるで今までの僕が、無自覚で無礼を極めてきたみたいな言い方して。例えば何が?」
「そうですね、例えば。ベラドナ様に年に1度のお誕生日に贈られるプレゼントですが。毎年クリスティーナ様が手配されてますよね。殿下からという名目ですが、実質殿下は何もされてませんよね」
「それは、姉上が勝手に先々と決めてしまうから。まあ姉上の方が女同士、ベラドナの欲しい物が分かるし、姉上の趣味はいいから毎年ベラドナも喜んでる」
僕の半歩後ろを歩いているリチャードが、小さく息を吐いたのが聞こえた。
王子に向かってため息をつくとは失礼だな。
「大体、僕は国務で忙しいんだぞ。男は仕事してナンボだろ。婚約者の誕生日プレゼント選びに、何ヵ月も前からソワソワできるかよ。僕が気付いたときには、すでに姉上が手配済みなんだ」
「殿下もなかなか一丁前になられましたね。つい二か月前に学生をご卒業されたとは思えないご発言」
「むっ。そういう嫌味は嫌いだな。リチャードはどうなんだよ。奥さんへの誕生日プレゼント。毎年、何ヵ月も前からソワソワして、趣向を凝らして、サプライズ考えたりしちゃってんの?」
「ええ勿論」
「えっ!」
「年に1度の誕生日以外にも、交際記念日と結婚記念日にもです」
「嘘っ、リチャード凄すぎ。マメだねぇ」
「別に普通ですよ」
え、ちょっと待って。僕の感覚が普通じゃないのか?
世間一般の男たちって、みんなそんなにマメなのか?
彼女との交際記念日……婚約した日がいつだったのか、正直覚えていない。
結納という儀式が、ひどく退屈だったことだけは記憶にある。
きっと彼女の方だって、そのくらいの感覚だろう。
だけどまあ、心当たりは特にないが、僕に対して怒っているらしいことは確かだ。
プレゼントをして機嫌を取る、という案は良いかもしれない。
姉上任せではなく、僕が彼女のために選んだ贈り物を。