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悪夢か吉夢か正夢か



「ねえ、リチャード。殺される夢って、やっぱり不吉だよねえ?」


書類仕事をしながら、傍らで郵便物の整理をしている側近のリチャードに話しかけた。


「殺される夢、ですか。いえ、それは吉夢ですね。現状をリセットして、良い方向へ向かうとの暗示ですよ」


良い答えは期待していなかった。仕事の手を止めて、リチャードを見た。


「何、リチャード。前世占い師なの? 何気なく聞いたのに、即答できるってすごくない? 適当言ってないよね?」


「調べたことがあるからです。私も昔、殺される夢を見たことがあって、気になりましてね。占い師に聞いてきたのです」


ダークブラウンの髪に同色の瞳、面長の生真面目そうな顔立ちをしたリチャードは、本当に真面目だ。

ジョークを言っても真剣に返してくれる。

信頼のおける側近がきちんと調べたことなら、きっと正しい。

よって、僕の見た夢は吉夢だ。

婚約者に殺される夢は、悪くない。


「殿下が、殺される夢をご覧になったということですか?」


「うん」


「そのとき私はお側にいなかったのですか?」


「いた」


「なのに、殿下をお守り出来なかった、と。不甲斐なくて申し訳ございません。もっと精進致しますので、次にそのような夢をご覧になったときには、必ず私に助けさせて下さい」


リチャードの生真面目さは、少しズレたところがあるが好きだ。


「守ってくれようとしたよ、そのときもね。いつもありがとうね、リチャード。ていうか、殺される夢はいい夢なんでしょ? じゃあ助けちゃ駄目じゃないか。殺されて、現状をリセットする、だっけ。良い方向に……向かえばいーけどねー」


「何か現状で気がかりなことが?」


「強いて言えば、来月の船上パーティーかな」


「殿下のご成人をお祝いする盛大なパーティーには、お客人も大勢いらっしゃいますから、気が張るのも無理はございません。ご心配には及びません、準備は万端です。後は事前に一度航路を巡ってみるだけですね」


「それ、今さらやめられないかな」


「事前の航路巡りをですか?」


「うん、ていうか、船上パーティー自体を?」


「それは今さら厳しいかと。殿下のご希望で、一年前から決まっていることなのですよ。どうして急に取り止めたいなどと仰るのですか。理由によっては、国王陛下もご一考くださるでしょうが……」


リチャードの渋い顔を見て、ですよねーと思った。


「ああうん、分かってるよ。ちょっと言ってみただけだから」


あれは吉夢なんだから、恐れる必要はない。

そう自分に言い聞かせるも、すごく嫌な予感がするのだ。あれが正夢になるんじゃないかという予感。


でも待てよ。彼女が夢の中どおりに僕を殺すためには、一緒に乗船する必要がある。

昨日彼女を誘ったときの返事は「少し考えます」だった。

来ないでほしいと伝えればいいのか?

その理由が「怖い夢を見て、それが正夢になるのが怖いから」だなんて笑える。


ソラシアン王国の第一王子ともあろう僕が、たかだか夢に怯えて、物事を決めようとしているだなんて。

成人祝賀パーティーには国内外から王族、貴族が集うのだ。今更変更はできない。


そう思っていたのだが、翌日僕の婚約者が「折り入ってお話が」と訪ねて来て、こう言った。


「来月の殿下のご成人祝賀パーティーですが、船上でというのをやめて、例年どおりお城で開催されてはいかがでしょうか」


「えっ」


「今更、難しいというのは百も承知です。承知の上で申し上げています。海に出るのはおやめになった方が、殿下の身のためです」


やけに落ち着いた低い声で、脅しつけるような雰囲気さえ醸し出して、彼女は僕にそう告げた。


「それは、一体どういう……理由によっては、国王陛下もご一考くださるかもってリチャードが……」


彼女の静かな気迫に押され、まごまごした。


「大嵐が来る夢を見たのです。とても夢とは思えないほどリアルでした。嵐で船は難破します。ニコラス殿下はお亡くなりに。きっとこれは予知夢ですわ。ですから、海に出るのはお控えになった方が良いかと」


「……予知夢……そうか。君の話は分かった。よく考えて返事をするよ。僕の一存では決めかねる部分もある」


頭を下げて席を立った彼女を呼び止め、訊いた。


「その夢で、僕はどうやって死んだ?」

「……崩落した、船の甲板の下敷きに」


その前に君に刺されたりしなかった?

と聞きたかったが、聞けなかった。


ただでさえ、最近の彼女は僕に対しての温度がとても低いのだ。

少し前までは、作り笑いくらいは浮かべていたのに。ここのところ、話していてもなかなか目が合わない。露骨に避けられている。


どうしてだ?

僕、君になんかしたっけ……?



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