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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

砂糖混じりのミルクティー

『二杯分のミルクティーの作り方! まずはコップ一杯分の水を沸かす。沸くちょっと前にティースプーン二杯分の茶葉を入れて、二、三分くらい蒸らす。そしたら、そこにコップ半分くらいの牛乳を入れて、吹きこぼれないよう気をつけてあっためて出来上がり! 後はお好みで砂糖! 私は二本かな~』


 いつだったか、あいつが書き渡してくれたミルクティーの入れ方のメモには、そう書いてあった。

 丸文字で書かれた口語的な文章の向こうに、あいつの軽薄さが透けて見えて、それだけで自分の胸の奥にムカムカとしたものが溜まっていくのが分かった。


 机の上に置いてあるそのメモを横目に見ながら、それに従って作った二杯分のミルクティーに口を付ける。


 メモには雑な分量しか書かれていなかったから、記憶通りの味とはいかなかった。

 けれど、ただ唯一、甘ったるい所だけは同じだった。


 ……あんな奴のお好みに従ってやる必要なんて、無かったのに。


 もともと私はあんなやつのこと、好きでもなんでもなかったんだ。むしろその逆で、最初はただただ甘ったるい粘ついた砂糖みたいな雰囲気のあいつが鬱陶しくて、すごく目障りで。

 ……だから、私はいつも遠巻きにしてあいつを避けていたのに。それなのにあいつは無遠慮に近寄ってきて、私の心の壁を蕩かしていって、そうやってあなたのことを好きにさせた癖に。

 どうして、『さよなら』なんて……。


 二人で選んだこのマグカップも。あいつが時々このミルクティーを作ってくれていたことも。このソファーにあいつと二人で並んで座って、テレビを見ながらミルクティーを一緒に飲んでいたことも。二人で過ごした毎日は全部『楽しい』って言い切れるほど満ち足りていたのに。


 ……でも、あいつはそんな風には思っていなかったんだろう。

 だから、あいつは私のことを捨てて、この部屋から勝手に出て行ってしまった。

 それは取り繕った上辺だけを私に見せて、本心を私に見せないように、心の奥に閉じ込めていたことの確固たる証拠だ。

 あいつが出て行く前に、その隠していた本心を問いただしておくんだった。そうすれば私の気も少し位は晴れていただろうから。


 なんにせよ、どうせ今頃は知らないやつの部屋でこのミルクティーを振る舞っているのだろう。

 ……私にしてくれたのとおんなじように。


 大きな溜息を吐いてから、ただただ空しいだけの思考を、その原因となったメモと一緒に隅っこに押しやる。

 そしてもう一度、甘ったるいミルクティーに口を付けた。


 あいつがその理由も言わずに『さよなら』の一言だけ置いて出て行ってしまったことを、私は許していないし、これから許す予定も無い。


 けれど、この甘ったるいミルクティーを嫌いになれないように。

 一度ミルクティーに砂糖が混じってしまったら、その砂糖をミルクティーから取り除くなんて出来ないように。

 もう一度あいつを嫌いになるなんて、私には出来なかったんだ。


「……ほんと、甘い」

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