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#12 チームワーク⑩ まがい物

 アジトの外で、盗賊団と騎士団が隊列を組んでいる。


 ロゼールはその戦闘員たちの様子を観察していた。人数や武装といった表面的なことから、それぞれの思惑まで。


 盗賊団が計100人ほどいるというのは事前に聞いていたが、騎士たちははるかに少なく、多めに見積もって20人といったところだった。それ以上の裏切りはラルカン・リードが許さなかったのかもしれない。


 盗賊はアジトに残る者もいるので、70人ほどが前方にかたまっていた。その後ろを小規模の騎士団がついていく。


 ヴァージルの作戦では、残した盗賊が騎士たちの背後から奇襲をかけ、挟み撃ちにする手筈になっていた。

 しかし、見張りの男の手回しで、盗賊の中にヴァージルを狙う勢力があり、どちらに転ぶかわからない状況ではある。


 この遠征の名目は、本物の皇子のところに向かって襲撃をかけるということで、その居場所を知っているロゼールが案内役としてヴァージルとともに先頭に立っている。


「偽皇子の坊ちゃんはきちんと痛めつけたかい」


 ヴァージルが下品なニヤケ顔で聞いてくる。もはや当然というのか、スレインのことを男だと思っているらしかった。


「ええ、とても楽しかったわ」


「そりゃあいい。さて……野郎ども!! 行くぞ!!」


 盗賊たちが応答する前に、甲高い大声が響いた。


「かかれッ!!」


 叫んだのはディートリントだった。それを合図にして、騎士たちとアジトから飛び出した盗賊たちがヴァージルに向かっていく。


 訓練された騎士たちは、突然のことに驚き戸惑っている盗賊たちを次々に撫で斬りにしていった。

 見張りの男は首尾よく騎士団を味方につけたらしい。



 しかし、ロゼールは隣にいる男がやけに冷静なのが気になった。


 この単細胞は、計画が少しでも崩れようものなら、顔を真っ赤にして喚きたてるような人種であるはずだ。それが微動だにせず落ち着き払っている。


 よく見ると、出だしは好調だった裏切りの盗賊・騎士連合が徐々に劣勢に追い込まれている。


 後ろのほうはよく見えなかったが、裏切り盗賊の数がやけに少ない。


「参ったね、俺たちを裏切って騎士どもに味方しやがるクソ野郎が、どうも少なからずいるらしい。何か知らねぇかい、エルフの姉ちゃん」


 淡々とした口ぶりだが、明らかにロゼールを疑っている。


「……あなたの手下が、ボロを出したんじゃないかしら」



 ロゼールは突然地面を踏む感覚をなくし、一瞬呼吸が止まりかけた。

 ヴァージルが、その細い首をがしっと掴んで持ち上げていた。



「っ……!!」


「ナメやがって、クソアマが!! 俺に取り入って利用しようってハラだったんだな? そう上手くいくと思ったか!! 偽皇子のガキはどうした? 牢屋にいなかったぞ。どこへやった!?」


「ごほっ……!! も、もう逃げたわよ。遠くに、ね……」


「ハハァ! テメェのツレほっぽってか。情けねぇ野郎だな。これでテメェを顔面が変形するほどぶん殴って、ケツが真っ赤になるまでぶっ叩いても助けは来ねぇわけだ!!」


 ヴァージルが嬉しそうに顔面を歪め、不揃いの歯を見せる。



「ヴァージルッ!!」


 その名を叫びながら、ディートリントが飛び出してくる。疲労しているようだが、さすが裏切りの騎士たちを率いているだけあって、傷はそこまでひどくなかった。


「これはその女の企てです!! 私たちを仲間割れさせて、潰し合いをさせる気です。今すぐやめさせてください!!」


「わーってるよ。停戦だ、馬鹿野郎ども!!」


 腐っても盗賊団の頭、その声で盗賊たちはピタリと戦いをやめた。


 それを確認したヴァージルは、荒くれ者たちのほうにロゼールの身体を放り投げる。


「痛っ!」


「敵はどうやら、この生意気な金髪の女だけのようだぜ」


 その場にいる全員の恨みのこもった眼差しが、ロゼールに集中する。


 だが――果たして彼女は、一切動じない。


 ゆっくり立ち上がって砂ぼこりをぱんぱんと払うと、全員の顔を見渡した。


「――あなたたちは、どうしてヴァージルに従っているの?」


 予想だにしていない問いかけに、いきり立っていた盗賊たちの顔がきょとんとする。


「強いから? 怖いから? 心から尊敬してるのならいいんだけど――そんなくだらない理由で付き従ってるのなら、情けないと思わない? ヴァージルより強い人が現れたら、あなたたち、どっちに従うのかしら」


 盗賊たちはお互いに顔を見合わせている。元から裏切っていたのはもちろん、ヴァージルの側にいた連中まで。


「何くだらねぇこと考えてんだ、馬鹿どもォ!! おめぇらは俺様に従ってりゃあな、カネに不自由はしねぇし……こんな美人の姉ちゃんで遊べるんだぜ。なあ――」


 ヴァージルのにやけた顔がはっと青くなったのは、ロゼールが氷のように冷たい眼差しを向けたからだった。


「――試してみましょうか」



 地面から、巨大な氷塊が突き上がる。


 4つ足の大きな台となった氷に持ち上げられたヴァージルは、バランスを崩してそこに這いつくばる格好となった。

 その首と手は冷たい板でがっちりと固定され、台に上がるための階段も用意された。



 瞬く間に、氷の断頭台が完成したのである。



「な、なんだこりゃあ!? どうなってやがる、魔法は封じたはずだ!!」


 喚きたてるヴァージルに、優雅に階段を上ってきたロゼールは砕けた腕輪をちらつかせる。


「こんなおもちゃで私の魔力が抑えられると思ったの? 私の氷は100年は解けないわよ」


「くっ……。テメェら!! は、早くこの女を殺――」


「私はあなたたちを殺す気はない。この魔法を解くこともしない。放っておけばこの男は死ぬけれど――あなたたちは、それでいいの?」


 盗賊たちのギラギラした目は、ロゼールではなくヴァージルに向けられている。


「っ……!!」


「この指輪と一緒ね。あなたの力はまがい物。餞別として、プレゼントしてあげる」


 ロゼールは「赤く輝く石っころ」の指輪を、ヴァージルの――太い指にはめるにはサイズが合わないので、彼の趣味の悪いネックレスにつけて首からぶら下げた。


 氷の階段から颯爽と下りて行ったロゼールと入れ替わりで、盗賊の列が断頭台に上がっていく。


「お、おい嘘だろ……。待ってくれ、俺が悪かっ――ぎゃああああっ!!」


 ――あれがエステルちゃんみたいなリーダーだったら、こうはならなかったのに。


 背後で汚い悲鳴を聞きながら、そんな高尚なことをヴァージルに求めるのは酷だった、と思い直す。


「き、貴様っ!!」


 完全に存在感をなくしていたディートリントが、当初の目的を果たすべくロゼールに斬りかかる。


 しかし、その剣はふわりと浮かんだロゼールの身体に当たることはなかった。



「あら、白馬に乗ってくればもっと素敵だったのに」


「私ももっと性格のいいお姫様を救いたかったよ」



 ディートリントは、馬に乗って現れ、ロゼールを抱え上げたスレインをキッと睨みつけた。


 スレインはただ逃げたわけではない。町に戻って馬車の馬をここに運び、ロゼールを脱出させることになっていたのだ。


「待て!! スレイン・リードッ!!」


 若い女騎士の必死の叫びは、主を失って無秩序に争っている暴徒たちの喧騒に消えていった。

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