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#12 チームワーク③ パーティ分断

 合計で3人だった。


 私たちがクエストの現場に一番近い小さな町に着いてから、宿で一息つくまでに尾行もしくは襲撃してきた敵の人数。


 町の手前で襲ってきた人はゼクさんが殴り倒し、宿までつけてきた人はマリオさんが締め上げ、宿泊客のふりをして部屋に入ってきた人は全員で袋叩きにした。


 みんな私の仲間たちにとってはザコ同然だったようで、こちらの被害は私がひどく疲れたという以外はゼロだ。



「なんかバッタンバッタン音してたけど、どうしたんです?」


 宿の女主人のおばさんが、私たちの部屋を覗きに来た。


「なんでもない。ちょっとした揉め事だ。お騒がせして申し訳ない」


 スレインさんがスマートに受け答えする。私は内心冷や冷やしていた。


「……そうですか。皇子様も大変ですねぇ。何かできることがあれば――」


「いや、結構。我々のことは他の一般客と同じように扱ってほしい」


「ええ、わかりました。じゃあ、失礼しますね」


 おばさんは皇子様――本当はスレインさんだけど――と話せて嬉しかったのか、満足そうに部屋を出ていく。



「で、こいつどうすんだよ」


 ゼクさんが布団をめくり、慌てて隠した敵の亡骸を指差す。


「なんでわざわざこんなに殴りつけたんだ。どう見ても殺人だぞ」


 スレインさんの言った通り、その遺体は顔がボコボコに腫れ上がって紫色に変色し、衣服もボロボロで「眠っている」などとごまかせるような状態ではない。


「クソうざかったんだよ。何回も来やがって。まとめてかかってくりゃ、いっぺんにぶっ殺せるのによ」


「こんなのどかな町に死体なんて見つかってみろ。騒ぎになって、果ては皇子殿下の風評にも関わるかもしれん」


「……錬金術で、魔力に変換しましょうか。あまり気が進まないですけど」


 ヤーラ君は鞄の中から出した魔石を、テーブルにゴトッと置く。


 無残な身体に手を触れたヤーラ君は、本当に嫌そうというか、むしろ苦しそうな顔をしていた。弟さんのことを思い出したりしていないといいんだけど……。


 小さな手から魔法陣が出現すると、遺体は光となって魔石に収容された。

 あのホムンクルスも、これと似たような原理を使っているんだろう。


「……ごめんね。こんなことさせちゃって」


「いえ……」


 一応謝っておいたけれど、ヤーラ君は憂鬱そうに爪を噛んでいる。



「目下の問題は解決したね。明日からどうしようか」


 マリオさんは旅行の計画を立てるときのように話を振る。無神経だと思ったのか、ロゼールさんが少し眉をひそめる。


「ここまで来て大々的に襲ってこないということは、敵は機会を伺っているのだろうな。いつまでも待っているのも癪だ。こちらから誘ってみようか」


 スレインさんは白馬の王子様というよりか、悪役のようにニヤリと笑ってみせる。


「敵が来やすい状況をあえて作るってこと? どうするんだい」


「そうだな。ロゼール」


 名前を呼ばれて、退屈そうに窓の外を眺めていたロゼールさんが目線だけ動かす。


「私とデートをしてくれないか」


「あら。面白そうね、皇子様?」



  ◇



 あの2人が街中をデートなんてしていたら、そこだけラブロマンスの舞台になってしまったかのような華のある光景になるにちがいない。

 要するに、めちゃくちゃ目立つと思う。たぶんスレインさんは、それが狙いなんだろうけど。



 一方私たち華のない4人は、目的地である森の中の洞窟の前まで辿り着いていた。


 入る前に準備を、ということで、ヤーラ君は薬の製作、マリオさんはその素材集めを手伝い、そしてゼクさんと私は――臨時の戦闘訓練をしている。


 戦うのは、私。


「なんだそのヘナチョコな攻撃は!! そんなんじゃスライムごときも倒せねぇぞ!!」


「す、すいませんっ!」


 そう、今回私が選んだクエストは、スライム退治。


 スライムは魔物の中でも最弱中の最弱で、駆け出しの勇者が一番初めに手を付ける相手だ。よほど下手をこかなければ失敗することはありえないし、ましてスライム退治で死人が出たという話は過去に例がないほどだ。


 そんな「クソつまらねぇ」クエストにゼクさんが乗り気であるはずがなく、おそらく余興のつもりなのだろう、私にスライムを倒せとお命じになった。

 曰く、「勇者なら1度くれぇ魔族倒す経験しとけや」だそう。


 そして私は、木の棒で魔物をぶん殴る練習をさせられることとなった。


「お前それでもエリックの妹かよ。スライムなんてヤーラでも殺せるぞ。なあ?」


「……まあ、僕だったら酸をかけて溶かしますけど」


「それはちょっと、真似できないかな……」


「スライムは弾力があるので、殴って倒すにはある程度腕力が必要ですね」


「よし、腕立て200回から始めっか」


「私、死にます!!」



 そこに、カゴ一杯の植物を抱えたマリオさんが戻ってきた。


「やあ。訓練は順調かい?」


「今から地獄の筋トレタイムが始まるところだ」


「始まりません!」


「エステルの筋力だと、普通に叩いて倒すのは難しいかもねー。もっとこう、重心をかけて一撃の威力を高めるほうがいいよ。持ち方はこうで、構えは――」


 マリオさんは文字通り手取り足取り教えてくれているが、途中で後ろから抱きかかえられる格好になったりして、私はちょっと気恥ずかしかった。ヘルミーナさん、ごめんなさい……。


 そして主導権を取られたのが癪に障ったのか、ゼクさんはあからさまにイライラし始めた。


「テメェは余計な口出すんじゃねぇ、糸目野郎!! すっこんでろ!!」


「ああ、ごめんごめん。そうだ、ヤーラ君に作ってほしい薬があるんだけど、相談いいかな」


「もちろん構いませんよ」


 ゼクさんの憤りをのらりくらりとかわしたマリオさんは、ヤーラ君を連れて離れていってしまった。



「っし、まずは四つん這いになれ」


「だから筋トレはやりませんから!! もう……なんでいきなりこんなこと言い出したんですか」


「そりゃあ、俺はクソザコ相手に労力を使いたくねぇからな。それに……お前だってちっとは戦えたほうが、なんだ……メンドくせぇことにならねぇだろ」


 ああ。確かに私が敵に狙われると、誰かが助けてくれる形になるので、それが「メンドくせぇこと」なんだろう。実際これまでもそういう状況はあったし、敵からすれば私なんて格好の的だ。



 私が申し訳ない気持ちになっていると、<伝水晶>で仲間たちから連絡があった。


 報告によると――スレインさんとロゼールさんは敵に誘拐されて、マリオさんとヤーラ君は突然よくわからない場所に迷い込んでしまったということだった。

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