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#17 最果ての街⑦ 平和的解決

 ここに来た当初から、灰色がかってちょっと薄汚れている暗い街並みだと思っていたけど、そのときはまだ街としての原形を保っていた。

 ……今はもう、戦火で焼けてしまったかのようにボロボロで、もはや「街」と呼べるかどうかまで怪しくなってしまっている。


 道端に倒れている人たちは、負傷しているものの命にかかわるような怪我を負ってはいない。氷で動きを封じられたり、糸で縛られたりしているのも見えるが、死者はゼロだ。やられているのはみんなアウトロー風の人間ばかりだった。


 つまり、みんなは一応相手を選んで、殺さないよう手加減してくれているんだ。

 いや待って。手加減しながら街滅ぼしかけてるって、あの人たちどんだけ強いの? あれ、もしかして私、とんでもない人たちのリーダーやってる?



 あちこち走り回ってみたものの、ただでさえバラバラの仲間たちは大暴れしながらも転々と移動していて、とても私の鈍い足では追いつけそうもない。本当は私のほうから呼びたいんだけど……。


 どたどたと足音が近づいて、私は慌てて振り返る。


「そこにいたか!」


「あ! えっと……青犬さん?」


 <ウェスタン・ギャング>の幹部格らしい青犬さんは、この悲惨な状況にかなり参ってしまっている様子で、厳めしいながらも助けを求めるような顔で私を見ている。


「おいあんた! リーダーなんだろ? なんとかしてくれ!!」


「私もなんとかしたいんですよ! でも連絡を取る手段がなくて……」


 青犬さんは四角い眼鏡を直しつつ、大きなため息を漏らした。


「……とりあえず、あの連中はあんたを傷つけられてブチギレてるってことでいいよな?」


「たぶん、そうです」


「勘違いされちゃ困るんだが、俺はあんたをどうこうしようなんて気は初めからなかった。形式上あんたを呼び出して、事を収めたかったんだ。わかるな?」


「もちろんです」


 あのときの青犬さんは確かに怖い顔をしていたけれど、私に害意があるようには見えなかった。


「よし。今のところ、俺たちの利害は一致してる。これからやることは協力行為だ。いいな? 頼むぜ」


「? ……はい」


 そう断りを入れると、青犬さんはナイフを取り出して後ろから私を軽く押さえつけ、喉元に冷たい刃を近づける。すぐ背後ですうっと大きく息を吸う気配がして――



「いい加減にしろクソどもォ!!! すぐやめねぇと、テメェらのリーダーの首掻っ切るぞォ!!!」



 鼓膜にビリビリとくる怒号は、街全体に轟いていった。


 その大音響を境に四方八方から聞こえていた破壊音は止み、しばらくして数人分のドドドッという足音がこちらに集まってくる。


「後は任せた!」


 青犬さんはすぐさま私を解放すると、脱兎のごとくナイフを捨てて逃げ去ろうとした――が、瞬く間にその足が氷漬けにされ、何かに縛られるようにして上半身の自由も失ってしまった。



「ふざけた真似してくれてんのは……どこのどいつだコラアアアアアアアッ!!!」



 さっきよりも大音量の怒声が前方から嵐のように襲い掛かってきて、その反響の中から見知った顔ぶれが一斉に姿を見せた。


「テメェか、犬ッコロォ!!」


 怒りで顔を真っ赤にしているゼクさんがずんずんと歩み寄ってくる。私は慌ててその進行方向を阻んだ。


「待ってください!! 今のは皆さんを呼ぶために、わざとやったんです!!」


「知るか、その犬ッコロは一発ぶん殴る!!」


「もぉ、これ以上暴れるのはやめてくださいよぉっ!!!」


 私が一生懸命に大声を出すと、ゼクさんは少したじろいだような顔で立ち止まってくれた。

 続いてスレインさんも一息ついて、剣を収める。


「……ちょっとやりすぎたな。すまない」


「いえ、私のために怒ってくれたのはわかりますから。ロゼールさんもマリオさんも、青犬さんを解放してあげてください」


「ん~……どうしようかしら」


 ロゼールさんはわざとらしい口調で、髪を指にくるくる絡めている。その傍をマリオさんがのこのこ通り過ぎ、ぐるぐるに縛られて座り込んでいる青犬さんのところで膝をついた。


「こんにちは、青犬君。ぼくはマリオ、友達になろう」


「……ああ、親友。まずはこいつを解いてくれねぇか」


「その前に、ぼくの質問に答えてくれるかな。君たちの雇い主は誰だい?」


 青犬さんの耳がピクッと動く。どういうことだろう。ギャングの雇い主なんて、その組織のボスじゃないの?


「まあ、だいたい想像はつくんだけどね。君たちみたいな裏社会の人間が、こういう喧嘩に介入してくることなんてあんまりないから」


「そんなこと知ってるってことは、あんたも同業か? 親友」


 青犬さんはあんな状況でも挑発するように言う。マリオさんは当然、表情1つ変えない。

 笑顔で睨み合っている2人に割り込むように、ロゼールさんがすっぱり言い放つ。


「どうせあのガマガエルでしょう? あんなに恥かかされて大人しくしているような奴じゃないでしょうし、かと言って表立って攻撃してくるほどの度胸はなさそうだし……」


「……俺は何も言ってねぇぜ、エルフの姉さん」


「あなたの態度を見ればわかるから大丈夫よ、ワンちゃん?」


 支部長が青犬さんたちに頼んで私たちを襲わせたってこと? そこまでするなんて、呆れてしまう。


「ナメた真似しやがって、あのカエル面ぶん殴ってやる」


「ゼクさん、もう暴力はダメですっ!」


「そうだな。リーダーがそう言うなら、平和的に話し合いで解決しよう」


 スレインさんは言葉とは裏腹に、悪巧みをしているような顔でニヤリと笑っている。



  ◇



 ガシャンと高級そうなドアがもの凄い力で蹴破られる。ひしゃげた板はそのまま室内に転がったらしく、ガラガラと乾いた音を立てている。


「な、何事ですか、青犬さん!?」


「このクソガマガエルが!! テメェ、俺たちをハメやがったな!?」


「い、いったい何の――」


「とぼけんじゃねェ!! あの<ゼータ>とかいう連中をシメろって頼んどいて、本当はあいつらに俺らを潰させる算段だったらしいじゃねぇか。お陰で街はズタボロだ、どうケジメつけてくれんだコラァ!!」


 室内から響く言い合いを、私たちは廊下の角からそっと眺めている。

 ただ1人事情を知らないヤーラ君は、小首をかしげている。


「これは……どういうことですか?」


 その疑問に答えたのは、この計画を立案したスレインさんだった。


「彼が話している通りだ。さっき口裏を合わせて、支部長に責任をとってもらうことにした」


「……スレインさんも、なかなかあくどいですね」


 レミーさん曰く「財力だけはいっちょ前」な支部長に、街中をボロボロにした責任を取らせて、ついでに支部長の座から引きずり降ろそうという……確かにあくどいかもしれない。でも、そもそも青犬さんたちを動かしたのも支部長だし、自業自得といえばそうだろう。



 部屋の中でドッタンバッタンと何かが暴れる音と、許しを請う悲痛の叫び声が嫌でも耳に入り、やがて捕縛された犯罪者みたいな恰好で、支部長が黒い服の男たちに連行されていくのが見えた。


 その背中が遠ざかっていくのと入れ替わりで、青犬さんがこちらに来る。


「ありがとよ。今回の被害分はあのガマガエルの財産全部ぶんどって埋め合わせる。それでも釣りが来るだろうがな」


 あれだけの焼野原を立て直して余りある財力……本当にあの人、すごいお金持ちなんだ。それが全部なくなっちゃって、その後どうするんだろう。


「あの野郎はもうここに戻って来れなくなると思うが……後釜は誰になるんだ? 挨拶しておきてぇ」


「えっ」


 そういえばそうだ。あの支部長がいなくなったら、その後は誰が代わりを務めるんだろう。


「あれと同じような人間がトップに立っては意味がないな。誰か信用できる者はいないか……」


 スレインさんの言葉を受けて、私も新しい支部長にふさわしい人を考えた。


「……あっ! いますいます。真面目で仕事もできて、信用できる人!」

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