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塔の上の妃  作者: たろう
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プロローグ(読み飛ばしても問題はないかと)

 私の生まれた国エヴァレンティアは隣国バルダテュールとともに双子国と呼ばれてきた。長い歴史の中で王族同士あるいは貴族同士が繰り返し婚姻を結び、同盟を確固たるものとし、手を取り合って生き残り続けてきたから。

 私の国がさほどの資源もなく技術もないのに、それでもこうして生き残ることができたのは、一重に立地の良さにあった。北方を長く東西に横たわる山脈に塞がれ、北方の大国はこちらへ攻め入ることができなかった。国内の気候は温暖で平地が多く農業が盛んだった。漁業や林業も国の主要な産業であった。

 さらに、エヴァレンティアの東は海に面し、どこの国とも国境を共有することがなく、西は同盟国バルダテュール。そのおかげで南の国を警戒していればよかったし、南国は安定した気候のおかげで、国内が安定した比較的国交を持ちやすい国であった。もちろん、完全に安心できるほどの簡単な相手ではなかったけれど。

 その反面、バルダテュールは南と西に厄介な国を抱えていた。特に西にあるグレディバルゾという国は好戦的な国であり、大陸中央で存在感を失わない国であった。バルダテュールは常に西の国に注視していなければならず、同時に私の国もまた、隣国が陥落すれば、なんの力もないためにそのまま侵略を受けることは想像に容易く、よってその建国からのほとんどの期間、隣国へと援助をしつづけた。食料、金、人員。

 火種の多い国と接する隣国が私たちの生命線だった。かの国が存在しなければ、私の国はもはや存在していなかっただろうことは明らかだった。

 そして、私たちはおろかであった。建国からの長い歴史をただ安穏と過ごしてきた。わずかな警戒心をもちながら、何もせず。

 一方、長い歴史の中で戦い続けてきたバルダテュールは、その歴史の中で徐々に軍事力を増大していった。他国との関わりのなかで、外交の経験を積み、国内の経済を育み、戦争に勝ち、そうやっていつしか、大国と呼ばれる国へと成長していった。

 始まりは南の国境を接する小さな国々であった。ひとつは、経済を掌握し戦うことなく同盟を結んだ。さらにひとつとは小規模な国境の小競り合いから戦争へと発展したが、軍事力と戦術で圧倒し、国をまるごと飲み込んだ。もちろん私の国も援助を惜しまなかったが、この勝利は隣国の手腕と、西の大国グレディバルゾが王位継承権問題のために内側に問題を抱え、他国へ積極的に介入できる状況でなかったことが大きかった。

 父は、隣国の先王が、長い時間小競り合いを続け、南の国へ戦争をしかけるのに最良の時期を窺っていたのだと言っていた。

 そうやって憂いの南側を平定してしまうと、隣国にとっての問題はグレディバルゾだけとなった。そして前王はそのまま国内問題に明け暮れている西国へと攻め入った。それは奇襲といってもよかった。南国との調停が済んで一年後のことであった。

 グレディバルゾに当時新王がたち、これから国内を掌握していくというときに突如攻め入った。いまだ貴族同士の対立はおさまらず、軍部も経済も政治も掌握できていない時期。あっというまに、西の大国は敵軍の侵攻を許したことで大敗を喫し、バルダテュールに下ることとなった。

 そうして田舎の双子国の片割れは帝国となった。西と南を従えて。私たちの同盟はいまだ生きてはいたが、もはや私の国はただのこぶでしかなかった。なんのとりえもない、毒にも薬にもならない国。

 危機感を覚えたのは父だった。好戦的な隣国と弱小国の私たち。向こうがいつ同盟を破棄しこちらへと攻め入ってくるかはわからなかった。

 なぜなら、長年の憂いであった西と南が落ち着き、もはや双子国の協力関係は形骸化し、私たちはただのお荷物でしかなかったからだ。いや、農業と漁業で細々と生き残る私たちは、ただの食糧庫として見られていただろう。

 食料庫。侵略して奪えばいいと思われるのも時間の問題であった。

 最近になって海の向こうからどことはしれぬ大型船がやってきた。

 父とその側近たちは、なんの資源もないうすぼんやりしたこの国を、隣国にならって経済から活性化させることを考えていた。そのために、この海よりの使者との縁を結び、貿易を結ぼうと画策していた。

 そうして、時間はかかるかもしれないがなんとか生き残るための道を作ろうとしていた。できるだけ早く、海の向こうにある大陸の国々と経済協力をとりつけ少しずつ国内を発展させていかなければならない。同盟国としての確かな地位を、攻め入らせない強い力をもたなくてはならないと父は考えたのだ。

 けれど、遅かった。国内には隣国貴族と繋がった名家がいくつもある。こちらの情報は筒抜けだった。

 すぐに外交圧力がかかった。海の向こうの未知の国。危険な国。もしかしたらエヴァレンティアを狙っているのかもしれない、と隣国は言った。外交も経済も得意な我が国が専門家を派遣しよう、と親切に託けてバルダテュールは申し出た。

 それは有無を言わさぬ圧力に思われた。

 生き残りをかけて私たちは悩んだ。おいしいところを横取りされる未来しかみえなかったからだ。渋る私たちに対して、ここ百年ほど王族同士の婚姻もないことを挙げ、過去の慣例にのっとり、友好国としてもう一度婚姻を結ぼうという提案がなされるのは時間の問題であった。

 それは同盟の復活を意味した。

 そしてそれは同時に、人質であった。両親が子供らを等しく溺愛しているというのは有名な話であったからだ。

 父は悩んだ。なぜならそれはあまりに我が国を下に見た要求であったからだ。隣国ではすでに前皇帝が崩御され、皇太子殿下が皇帝に即位していた。四年前、当時皇太子殿下が二十二歳のときだった。そして、その翌年、いまから三年前に、父は現皇帝陛下の結婚式へ慶賀の使節を伴って隣国に参上していた。相手は、グレディバルゾの王族の血筋の娘で、現宰相の娘だという。ぼんやりした容貌の私とは異なり見目麗しい女性だという。皇帝は既に妻帯者となっていた。

 つまり、我が国に側室になる王女を寄越せということだった。

 父王は苦渋の決断をして私を隣国へと送り出した。

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