4日目 -2-
「――もしもし。朋ちゃん」
『七海。三つ目の駅に着いたんだな?』
「うん」
『黒い影。ちゃんと見たか?』
「うん」
『誰だった?』
「……………」
『七海』
「……………」
『七海』
「朋ちゃん。たぶん私、わかっちゃった」
『そうか』
「うん」
『降りられるか?』
「うん。大丈夫。ちゃんと見なかったから、真っ黒かったんだね」
『……』
「朋ちゃん」
『うん』
「朋ちゃん」
『……うん』
「降りたよ」
『うん。駅名は、何になってる?』
「えっとね……これ何て読むのかな」
『知らない漢字?』
「ううん。でも、このまま読んだら〝すてろ〟になるんだよね」
『すてろ?』
「うん。〝捨てる〟に道路の〝路〟で、何て読むか知ってる?」
『ああ、それはたぶん……捨路駅だ』
「イエロ?」
『うん』
「どういう意味?」
『そのままの意味だよ。様々な痛みを、捨てていく路』
「痛みを、捨てていく……」
『七海』
「うん?」
『乗客、降りてるか?』
「うん。降りない人もいるけど」
『どこに向かってる?』
「ん~……端は見えないけど、ホームの左側に列が出来てる」
『七海はどうする? 降りるか? それとももう一度乗る?』
「そうだね……降りなきゃ、だね」
『忘れ物はないか?』
「うん、たぶん、ない。――朋ちゃん」
『うん』
「なんだか大切なものを忘れちゃった気がするんだ」
『そうか』
「でも、朋ちゃんがいるし」
『うん』
「それから……えっと……」
『……………』
「……………」
『七海』
「うん」
『列に並んで』
「列に……そっか。うん、そうだね」
『心配するな』
「してないよ。だって朋ちゃんがいてくれるじゃない」
『ああ』
「えっと……忘れちゃったけど、任せたよ?」
『ああ。任しとけ』
「じゃあ行ってくる」
『ああ。――いってこい。俺もそのうちいくから』
「あはは。急がないでね」
『勿論』
「うん。じゃあいいや」
『……………』
「……………」
『……七海?』
―――――プツリ。ツー。ツー。ツー。ツー。