4日目
「あ、もしもし? 朋ちゃん?」
『七海』
「うん。今日も」
『座れなかったんだな?』
「ご名答~」
『乗客は昨日より減ったか?』
「減ってるね。でも」
『それでも座れないのか』
「そうなの。何でかな」
『何でだろうな』
「さっきね、二つ目の駅を通過したけど、いなかったよ」
『最初の駅と、一つ目の駅と、二つ目の駅?』
「そう。いなかった」
『そうか』
「……いるかな」
『三つ目の駅?』
「そう」
『どうかな』
「いるんじゃないかな。だってひと駅ずつずれていってるんだよ?」
『偶然かもしれないだろ?』
「そうかな。本当に偶然なのかな」
『七海』
「なに?」
『ひとつ聞いていいか?』
「うん」
『いつも同じ時間に乗り合わせる女性とは、会えたか?』
「え? 誰?」
『そっか。わかった』
「朋ちゃん?」
『うん。たぶん、七海の予想は当たってる』
「え?」
『三つ目の駅に、黒い影がいるってこと』
「やだ、脅かさないでよ。急にどうしたの?」
『七海。三つ目の駅に着いたら、ちゃんとよく見て』
「え、何を」
『黒い影』
「えっ! やだよ怖い」
『大丈夫だから。ちゃんと見て』
「なに……? どういうこと、朋ちゃん……?」
『怖がらなくていい。たぶん、それは七海が怯えるような存在じゃない』
「なにを根拠に……だって、真っ黒いんだよ?」
『うん』
「目も鼻も口もないし」
『うん』
「耳だってないし」
『うん』
「本当に影絵みたいに真っ黒で、気味が悪いんだよ?」
『うん』
「それでもよく見ろって言うのね?」
『うん』
「……どうしても?」
『どうしても』
「……………わかった」
『うん。俺を信じて』
「信じてるけど……怖いものは怖いんだからね」
『わかってる。たぶん七海の不安も、そう続かない』
「え? どういう意味?」
『七海』
「なに?」
『唯は、今日もいい子だよ』
「え?」
『七海。窓の外を見て』
「え? 外?」
『何が見える?』
「真っ暗で何も見えないけど。夜だし」
『そうだな』
「朋ちゃん?」
『三つ目の駅に着いたか?』
「まだ――って、着いたみたい。速度が落ちた」
『そうか。黒い影は、いるか?』
「……うん。ホームにいる」
『じゃあよく見て。それは誰?』
「あれは―――――」