3日目
「あ、もしもし? 朋ちゃん?」
『七海』
「うん。今日もやっぱり座れなかった~」
『お疲れ』
「早く帰って朋ちゃんのご飯食べたい」
『七海は下手っぴだもんな』
「失礼な。卵くらいなら焼けるんだから」
『スクランブルエッグな』
「卵焼きは卵焼きでしょうが」
『菜箸でぐちゃぐちゃにしたやつな』
「スクランブルエッグですぅぅぅ!」
『今日はハンバーグだよ、エリンギの入った』
「それ絶対美味しいやつぅぅぅ!」
『デミグラスソース切れてたから、ケチャップとウスターソースを混ぜたやつになるけど』
「全然いいよ! あ~お腹空いてきた~。さっきまで空腹感なかったのにぃ。おのれ朋ちゃんめ!」
『はいはい、悪かったね。それで? 今日は会えた?』
「え? 誰に?」
『いつも乗り合わせる女の人?』
「え? 誰だっけ?」
『ほら、黒い影を見たけど気にしたら駄目って言った人』
「んん? え~と……」
『七海?』
「う~ん………………あっ! ああ、はいはい! ええと、なんだっけ……あ、駄目だ。名前をまったく思い出せない。ヤバい、私まだ二十代なのに、人の名前思い出せないとかヤバくない?」
『老化現象かな』
「ムカつく。それで、彼女がどうかしたの?」
『いや、だから会えたの?って』
「ううん。昨日も会えなかったし、やっぱり有休取ってるんじゃない? 旅行行ってるのかも。羨ましい」
『そういえば唯が生まれてから一度も遠出してないもんな』
「え?」
『え?』
「ああ……うん、そうだね」
『七海?』
「あっ、二つ目の駅。今日はいない」
『最初の駅と一つ目も?』
「うん。どっちもいなかった」
『ふ~ん……なんか、ずれてるね』
「うん?」
『駅を毎日渡り歩いてるみたいに』
「確かに……」
『他の乗客は相変わらず?』
「興味ない!って感じだね」
『窓の外は何か見える?』
「外? 外は……真っ暗で何も見えないね。まあ夜だしね」
『そりゃそうだ。乗客数は昨日より減った?』
「うん、確実に減ってる。なのに何で今日も私は座れないのか」
『若いんだから、文句言わない』
「言いたくもなるよ~。立ち仕事の後くらいは座ってたいぃぃぃ」
『まあそうだろうね。もうちょっとだ、頑張れ』
「がんばる……………あ、三つ目」
『いたんだな?』
「うん。いる」




