2日目
「あ、もしもし? 朋ちゃん?」
『七海』
「うん。今日もやっぱり座れそうにないよ~」
『それは残念』
「言い方に労いを感じない」
『気のせい気のせい』
「も~」
『そういえば、知り合いが乗ってたって言ってたけど、話聞けた?』
「あ、そうそう! 忘れてた! 何かね、彼女も黒い影らしきものを見たらしいんだけど、気にならないって言うんだよ?」
『気にならない?』
「そう。おかしいよね? 目撃したなら絶対気になるはずなのに」
『他の人はどうなんだ?』
「え~、話しかけられる? 私は無理。知らない女から唐突に『ホームの黒い影、見ました?』なんで質問されて、朋ちゃんならまともに相手する? 頭のおかしい人だって見られるのヤダ」
『まあ……確かに』
「でしょ? だから聞いてない、というか、聞けません」
『なるほど。でもそれじゃ情報少ないだろ? 今日もいたのか?』
「最初の駅?」
『そう』
「これがいなかったんだよね」
『え? いなかったの?』
「いなかったの」
『一つ目の駅は?』
「まだ通ってないけど、たぶんそろそろ? ……あ、いま通過した」
『いた?』
「ううん。ここにもいなかった」
『昨日話を聞いた女性は乗ってるのか?』
「え~と、ちょっと待ってね。……………あれ? いない」
『いつも同じ時間に乗り合わせる人?』
「まあ大体そうね。私の退社する時間が遅れたら無理だけど、定時に上がれた時は乗り合わせるね」
『今日は遅れた?』
「ううん。定時通り。だから不思議で。あ、有休とか?」
『そうかもね』
「なるほど~」
『気にならないって言ってたその人、他に何も言ってなかった?』
「う~ん……特には」
『何で気にならないのかは聞いた?』
「うん、それは勿論!」
『なんて?』
「それがいまいち要領を得ないというか、意味不明というか」
『話して』
「気にしたら駄目なんだって。でね、彼女は昨日、乗車駅と一つ目の駅では見てないって言うの。おかしくない?」
『七海とは見え方が違うってことか』
「やだぁ……なんか益々怖い」
『大丈夫。電車に乗っている間は、こうして俺が話し相手になるから』
「ホントに? お願いよ?」
『ああ。……二つ目の駅は通過したか?』
「あっ、ナイスタイミング! いま通過して――えっ」
『どうした』
「いた……二つ目の駅のホームに、黒い影」