1日目
「あ、もしもし? 朋ちゃん?」
『―――――七海?』
「うん。いま電車乗ったところ。いつもよりは混んでないんだけど、今日もやっぱり座れそうにないの」
『……そうか。疲れてないか?』
「疲れてるよ~。今日もたくさん働いて参りました!」
『お疲れ』
「ふふっ。朋ちゃんもお疲れ様。唯のお迎え頼んでごめんね。唯は?」
『元気だよ。さっき寝たとこ』
「ママは恋しくないの~? 唯はパパっ子だもんね」
『恋しがってるよ。唯はママっ子だから』
「そうかな? ふふっ、嬉しい。……………あれ?」
『どうした?』
「うん、実はね。いつも乗車する駅のホームで、何て言うのかな……真っ黒い影? シルエットって言うか。変なものが立ってて、気味悪いなって思ってたんだけど、他の人たちが気にしてる風もなかったから、私疲れてるのかなって」
『――うん』
「目の錯覚ってことにして、その黒い影を避けて乗車したのね」
『うん』
「電車が出て、俯いてる黒い影はホームに立ったまま動かなかったから、やっぱり疲れてたのかなって」
『うん』
「ほら、私が毎日利用してる電車って、乗車する駅を入れなければ三つの駅を通過するじゃない? で、私はその三つ目で降りる」
『うん』
「いま一つ目の駅を通過したんだけどね」
『うん』
「……立ってたんだよね、駅のホームに」
『最初の駅に立ってた、黒い影?』
「そう、それ」
『また俯いて?』
「そうなの」
『他の乗客は見たの?』
「それがね、誰も見てないのよ。静かっていうか、微動だにしないっていうか。ふふっ、寧ろ私一人が騒がしい」
『電車内で電話している時点でマナー違反だからね』
「あっ、それもそうか」
『でもまあ、迷惑かけてないなら構わないよ』
「そうかな?」
『そうだよ』
「じゃあ切らないでいいかな?」
『うん。切らないで』
「え?」
『どうせ暇でしょ』
「暇ですけど。何かムカつく~」
『はいはい。それで? 黒い影は通りすぎた?』
「うん。もうすぐ二つ目の駅を通る頃――あ。」
『いた?』
「ううん。いなかった」
『じゃあ最初の駅と、一つ目の駅に居ただけで、二つ目の駅にはいなかったんだ?』
「うん。ねえ、朋ちゃん。あれって何だろう?」
『わからない』
「だよね。あ、知り合い乗ってた! 彼女も黒い影見たか聞いてみる。じゃあまた後でね」