無人駅
都心や市街地に住む皆さんは目にしたことが無いかもしれませんが…
私が使う最寄り駅がまさにこれでした。
気持ち程度の屋根のある小屋に数脚の椅子が並び誰も居ない改札を抜けるとコンクリートの間から雑草が伸びるホーム。
とは言っても顔見知りの乗客が数人ちらほらいつもいるような状態でした。
その日はいつもの帰りの時刻に間に合わず一本遅い電車に乗ることになりました…一本遅いとなると一時間近く開くことになりますが…
さすがにいつも一緒になる乗客の姿はなく、見た事ないおばあさんと子供を連れた親子が一組、みんな離れて座っていました。
その中の一人でも自分の駅で降りてくれることを願いましたが、届かず。
私は一人いつものように無人駅に降り立ちました。
まぁ人が居ない駅ですが常に通学で使っている駅です。いつものように気にすることなく改札を抜けようとするとまるで透明のカーテンをくぐり抜けたような感触を肌に感じました。
生暖かい風が通り抜けた様な…
ゾクッ…
考えるな!嫌な予感を頭から追い出そうとしますが一度浮かんだ考えはなかなか消えてくれません。
生まれてから此方この駅を使っていますが今まで奇妙な経験は数える程しかありません…それもまぁ気のせいかな…と思える程度。
この日はいつも聞こえる虫の声まで気味悪く聞こえました…
しかしここで留まっている訳にも行かず足を踏み出す。
いつも通る道の前に来ると…毎晩通っているその道が暗く感じる…いつもより遅い時間なのだから当たり前なのだがその時はそんな事を考える余裕もなかった。
いつも通る道は街灯も少なく道も補強されていない…その代わり家に10分早く着く。
もう一方は車道の道で気持ち程度街灯もあるその代わり遠回りだ…どちらの道を行こうかと迷っていると風がいつもの道の方へと吹いてきた。
走ればもっと早く着くかも…
そう思ってカバンを背中に背負って小走りに走り出すと…前から車のライトが見えてきた。
「おーい」
よく見ると父の軽トラで窓から手を出している。
私はほっと息をつき、車に駆け寄った!
父の車で帰り道を走っていると
「なんで迎えに来てくれたん?いつもなら来ないでしょ」
滅多に迎えになんか来てくれない父に声をかけると
「ばぁちゃんが迎えに言ってやれってうるさくてなぁ…しょうがねぇから来たんだよ」
「えっばぁちゃんまだ起きてるの?」
時間を見ると22時近い、ばぁちゃんは21時前には布団に入ってその時間なら寝ているはずなのだ…
「襖閉じたまま、寝言のように迎えに行け行け言うんだよ」
「ふーん…でも助かった。今日の夜道なんか怖かったんだよね~」
父としかも車に乗ったことで余裕の私は気にすることなくばぁちゃんの気まぐれに感謝した。
家に帰りばぁちゃんに一応お礼を言おうかと部屋を覗くが、ばぁちゃんは既に寝てしまっていて寝息が聞こえる。
私はお礼は明日でいいかなと襖を閉じると…
チッ!
耳元で舌打ちの様な音がした…
バッと振り返るがそばに人はおらず父は台所で座って早速とビールを飲んでいた…
私は髪を何となく払うとお風呂へと向かった。
次の日そんな事は忘れて慌ただしく家を出ていつものように駅へと向かった。
次の日はいつもの電車に乗る事ができ数人の乗客達と駅を降りると、なんと父が車で待っていた。
驚いて駆け寄ると
「どしたの!?なんで二日も!」
迎えに来たのかと聞くととりあえず乗れと言われる。
頷き直角に置いてあるだけの固い助手席に座ると
「今日な、この道で猫やら犬やらが刃物で殺されとったらしい」
「えー!そうなの、怖いね…犯人捕まったの?」
「ああ、若い男で誰でもいいから刺したかったらしいぞ…」
「ひ、人も刺したの!?」
「いや、刺す気でいたが誰も通らなかったから諦めて猫と野良犬捕まえて殺ったらしい…」
「そっか…あっだから迎えに来てくれたの?」
父を見ると険しい顔で前を見つめている。
「ああ」
「もう犯人捕まったんなら大丈夫でしょ?」
「そうだがな…その犯人猫達を殺したの昨晩の22時頃らしいんだ」
「え…」
それは昨日自分がまさに通ろうとしていた時間だった。
「なんか…ばぁちゃんが助けてくれたのかね」
はは…とから笑いをすると
「ばぁちゃん…昨日な、そんなこと言ってないって言うんよ」
「ばぁちゃんがボケちゃったの!」
「いや、しっかりしとる。昨日の飯も覚えてるし…自分は昨日もいつも通りねてそんな事言ってないって…しかもお前が遅くなる事も知らんかったんだ」
「や、やめてよ…じゃあ誰が言ったの」
「……」
父は何も答えずに前を見ていた…
「で、でもその声で私は助かったんでしょ?まぁ刺されたって決まったわけじゃないけど…」
「そうだな」
「じゃあきっといい霊だったんだね!守護霊とかじゃない?」
「…」
父がなにか言い淀むと…
「何よ…」
気持ち悪いと先を促す
「ばぁちゃんがそんな事言うもんだから昨日の事をよく思い出して見たんだけどよ…あれ〝行くな〟って言ってたんよ」
「はっ?」
「いや、こもった声だから行くでな~って言ってると思ってたんよ、ばぁちゃんが言ったことだから…」
「行くな…」
私はふと昨日感じたチッと言う舌打ちを思い出した…その瞬間全身に鳥肌が立つ。
私達は家に帰ると家中に盛り塩をして気を紛らわした…
しかしその後変な事はおきずあの時の事はやはり偶然の出来事と笑い話になっている。
しかし私はその道を二度と使う事はなかった。