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若松の火野葦平の足跡

60代の、元教員(理科)を、80代の元教員(国語)が案内する形。

M:これから、若戸大橋を渡って、若松の方に行きます。若松と戸畑をむすぶから、若戸大橋です。

出来た当初は、東洋一とか言われていたんですが、もう、影が薄くなりましたよね。もっと大きな橋がいくつもいくつもできましたから、橋だけが観光の目玉なんてことはありません。


下の海は、洞海湾です。万葉の昔には、「くきのうみ」という、言い方もあったそうですよ。


最初は、市民会館の中にある、「火野葦平資料館」です。

若松出身の文学者と言えば、まず、この男ですからね。映画にもなった「花と龍」などの原作者ですよ。

兵隊として、中国にいる時に、芥川賞が決まって、小林秀雄が届けに行ったなんて話があるんですよ。


近頃、話題になったのでは、アフガニスタンで殺された中村哲さん。あの人のお母さんが、火野葦平の妹なので、伯父、甥の関係になるんですよ。それで、テレビ、新聞などで、名前が出ていましたよね。

まず、資料館を見て、あとのことは、また、相談しましょうか。


はーい、到着です。まず、ザッと見て、興味のあるところがあったら、また、丁寧に見てください。

興味がもてなかったら、遠慮せず、おっしゃってください。ほかにも、御案内する所は、いろいろありますから。


ここは、筑豊炭田の石炭の積み出し港でした。今のような便利な機械はありませんからね、すべて、人力です。

ゴンゾウという人夫が、石炭をモッコに入れて、かついで、細くて長い板の橋を、ひょいひょいと、船まで運ぶわけですよ。人が大勢働きます。そういう労働者たちをたばねる仕事をするのは、ほんと、大変!

一人一人、強烈な個性を持っていますしねえ。

葦平の父も母も、そういう大親分みたいな存在だったらしいです。それを、例えて言うと、「花と龍」。

そういう血を受け継いでいるんですよ、葦平も中村哲も。


葦平は、ここから、小倉中学に行って、早稲田に進みます。けれども、中退。親の仕事を手伝いにもどります。

たくさんの労働者たちと、毎日、顔を合わせているうちに、労働組合を作って、まとまった力を作ろうとしたりしたこともあります。外からの圧力で、うまくできなかったのですが、葦平の中に、弱い者をなんとかしてやりたい、という気持ちがあったのは、間違いありません。

そういうところ、中村哲さんにもありましたから、DNAが、響き合っていたのでしょうかねえ。


「麦と兵隊」「土と兵隊」「花と兵隊」でも、下の階級の兵隊に、温かい視線を向けています。敵に対しても、それに近いものがあります。

陸軍報道班に属していたので、戦後は、公職追放処分をうけたりします。

展示物を見ても、いわゆる、戦争文学というものが、どれだけ盛んだったか、わかりますよねえ。


S:カッパの絵とか、詩とか、多いですよねえ。

M:確かに。

次に行く予定にしているんですが、葦平が自殺した家、自分で「河伯洞」と名付けていましたが、これも若い人向きに言い換えれば「カッパの家」という意味ですからね。

すぐそこの、高塔山にも、カッパの言い伝えが残っていますし、それについて書いた文も、いろいろ、たくさんありますからね。

毛筆で、イロっぽいカッパの絵を描く、清水崑という漫画家がいましたが、その人と、カッパの描き方について、語り合った、とかいう話も残っているそうです。


「河伯洞」が閉まる前に、2、30分でも見て頂いた方がいい、と思います。行きましょうか。


道は、クネクネまがりますが、距離的には、大したことないです。すぐ着きます。


今は、市の施設になっているんですが、ガイドは、葦平さんの三男夫婦が、実に、丁寧にしてくれます。

だから、入ったら、私は、ほとんどしゃべる必要がなくなります。時々しか、ものを言いませんが、別に

怒っているわけではありませんので、そのおつもりで。


さあ、ここです。入りましょう。…………ごめん下さい。ちょっと、見学させて下さい。

G:どうぞ、どうぞ。……どちらからですか?

M:私は、小倉南区からです。こちらは、大阪からです。

G:それは、また、ご遠方から、………。この人が、葦平の三男で、私が、その妻です。

S:お二人の写真、撮らせて頂いてもいいですか?

G:どうぞ、どうぞ。ここは、展示物の写真も、自由にお撮りになっていいんですよ。建物や庭も。

S:はい、ありがとうございます。

G:廊下の床板は、北海道から取り寄せたサクラ材、床の間の床柱は、「鉄刀木」と書いてタガヤサンと読む、すごいカタイ木なんですよ。葦平さんの本の印税が、ドカンと入ったので、お父さんの玉井金五郎さんが、何か残してやろうというので、葦平さんが、戦争でいない間に、すべて手配されたらしいです。

葦平さん本人は、兵隊たちに申し訳ないから、赤十字に寄付してくれと言っていたらしいのですがね。


この写真、昭和35年の新年会を、この部屋でやった時のものです。これだけの人が集まれる広さがあったのですよね。

S:葦平さん、お友だちが多かったんですね。

G:作家仲間以外にも、画家とか、編集関係の方とか、いろいろおられましたからね。……………

お二階も、ご覧になりませんか? 執筆していた部屋が、そのまんまの状態で残っていますよ。

S:見せて下さい。

G:ここで、正座をして、書いていたんです。松本清張さんの執筆していた部屋は、記念館では、ガラス越しにしか、見られません。ここでは、直接、すぐ傍で見られるんです。……………

(色紙、寄せ書き、拓本、写真、など、たくさん。人からもらった絵、鉄の人形、法被なども。書籍は、15000冊、市民会館の資料室に持って行ったというのに、まだ、たくさん。月1回の映画会で上映した映画の題名表もかかげてある。ガイドの女性の若い頃の和装すがたの絵も。一々細かく上げていけば、キリがないほど)

M:そろそろ、閉館時間になりますから、失礼しましょうか。いろいろ、ご案内、ありがとうございました。


M:今から、高塔山に行きましょう。10分、かかるか、かからないか、くらいです。

門司の甲宗八幡にも、葦平の文学碑がある、とか言っていましたねえ。

S:遠いでしょう? 今回は、パスします。

M:拓本の写真は、たくさん撮っておられましたからね。あの言葉も、しゃれてますよね。

絵をサラサラっと描いて、それに添えて書いた言葉なんかも、気が利いていましたよね。

S:ただの作家というだけではなく、詩人らしいところも、画家らしいところもお持ちだった感じですねえ。

M:この駐車場から、少し歩いてもらいますよ。………寒くはないですか?

S:大丈夫です。

M:これが、「カッパ封じ地蔵」です。いわれは、この看板に書いてあります。

S:これも、葦平さんの小説からの引用ですね。

M:そうです、そうです。カッパの空中戦とか、伝説なのか、創作なのか、おもしろいアイディアですよね。

そして、この、石のお地蔵さんの背中には、ちゃんと、大きな釘が、今も打ち込まれたままになっているんですよ。横からのぞいて見られるから、見てみましょうか。

S:ほんとだ。すごい。

M:科学的には、おかしいかもしれないけれども、なんか、夢みたいな、ロマンのある世界ですよね。

展望台に行きましょうか。夜景がキレイと言いますが、まだ、ちょっと早いかな。

ほら、あの島には、石油の備蓄施設があります。下関との間の島もいくつか見えますよね。

手前の埋立地には、風力発電の風車が見えるでしょ?

あの近くには、バイオトープもあるんですよ。今日は、もうダメでしょうがね。

S:ここのバイオトープには、どんな特色があるのですか?

M:なんとかトンボとかいうのがいるそうです。その他、詳しいことは、私にはわかりません。

こっちが若戸大橋。

戸畑には、製鉄施設が、まだ、生きています。昔は、八幡にも、日本一の製鉄所があったのですが、今は、

もう、よそへ行きました。

ほら、あの小さい船。渡し船です。大橋はありますが、人と自転車のため、まだ、残っているんです。

晩御飯、何か御希望があれば、御馳走しますよ。

S:いえ、夜の街は、歩きたくないので、できたら、リーセントホテルまで、送っていただけませんか。ここからだと、どう行ったらいいのか、わかりませんので。

M:もちろん、お送りしますよ。できたら、二人で食事でも、と思ったのですが。

S:また、明日も御案内下さるというので、今日は、お互い、早目に、ゆっくり休みましょうよ。

M:歩いて10分くらいの所に、火野葦平の文学碑があるんですが、夜は、足下が悪いので、今回は、パスしましょうか。

「泥に汚れし背嚢に さす一輪の菊の香や………」という、詩の一節が刻まれた記念碑なんですけどね。

下っ端の兵隊として、中国を歩き回った男の中にある、花を愛する気持ち。

いかにも葦平らしい感じが出ていると思いませんか?

S:ほんと、詩人ですねえ。


火野葦平らしさ、わかってもらえたかなあ。

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