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光の中を通った先には自然が広がっていた。
まわりのどこを見ても木が広がっており木と木の間にも同じ光景が広がっていて終わりはまるで見えない。
目の前には小さな池があり、池の畔には様々な動物が水浴びをしたり水を飲んでいたりしていた。
足下には草が生い茂り、まるでクッションのように足を包み込んでくれる。
エヘルが畔へと足を進めると動物達は一目散に逃げだし森の中へ紛れてしまった。
エヘルは腕をいっぱいに広げ大きく深呼吸をしてから
「君たちもどうだい?」と言う。
2時間ぐらい気を張り詰めていたんだ、勧められるまでもなくエヘルと同じ様に深呼吸をした。
サミュアは落ち着かない様子でいて、いざやろうとしても私の目を気にしてチラチラこちらを見てくる。
私の目を気にしてるところを見るとやはり体を伸ばしたいんだなというのは分かる。
サミュアにしてもいいよという合図で少し頷いたのだが、意味をわかってくれるかどうか。
けど、そんな事を一々思う前に彼女は自分からリフレッシュしようとしたのだが。
うーん、なーんか休ませてる気がしないんだよなあ。
腕をいっぱいに広げているのかどうか分からないが傍から見たら中途半端な感じだし、息をいっぱいに吸っているようにも見えない。
「もっと腕広げて、自由気ままにしていいよ。」
と、言おうかとも思ったがぐっと喉に押し込めた。
一々言うのも面倒というのもあるけど、まあ自由にやらせるのもいいかと思ったのもある。
多分、奴隷だからとかの理由で自発的にはやらなそうだろうけど。
「違う、違う。もっとこーーーーやって腕を広げるんだよ!そして胸いっぱいに空気を吸う!」
実際に自分がやってみせ、自分が魔物とは思わせないくらいの元気の塊と言ってもいいぐらいの勢いでエヘルはサミュアへと話しかけていた。
サミュアは突然話しかけられてか、ビクッ!と体を大きく跳ねらせて近くの木の陰に隠れてしまった。
それでも体全体を隠しているわけでなく顔だけをひょっこり出してるって感じで、まあなんか可愛い。
けどエヘルは怒ることは無く、やれやれといった感じで腰に手をつきさっきよりも笑顔をつくって、サミュアを見つめた。
屈託のない笑顔で警戒心を解こうって魂胆だろうが、間違えてもサミュアは自分から出てこないと思う。
エヘルはこんな元気であっても魔物なのには変わりはない。
私なんかはエヘルとは親友といっても過言ではないくらい仲がいいからそこまで気にしないからあれだが、サミュアや普通に暮らしてる人達からしたら気味が悪いの一辺倒だろうなあ。
いつもは迷惑しかかけてない魔物が突然笑顔で寄ってくるとか……私が魔物に慣れてなかったら私だって怖くなる。
サミュアは私の方を向いて助けを求めるような目をしているが私としてはサミュアとエヘルは私よりも仲良くなってほしいと思っている。
エヘルみたいな元気な子と一緒にいれば少しずつでも元気が出てくれればという感じで考えていた……子っていうか魔物だけど。
まあ後は同じ性別だからっていうのもあるが、魔物に性別なんてあったっけか?
けど、女の子っぽいから女の子でいいかな。
サミュアは俺が何も言わないからか、さっきよりも体をぶるぶるさせていて今にも倒れそうな感じになっていた。
私は何となくだが、
「エヘルが言ってたみたいにやってみればいいんじゃないか?ほら、本人も凄く頷いてるし。」
実際、エヘルは凄く頷いていた。
サミュアはそれでも動きたくなさそうだったが私の命令だと思ったのだろうか、恐る恐る木陰から身を出してきてさっきエヘルに言われた通りに体を目一杯動かした。
その大きな呼吸音は私の所にまで聞こえてきて、肺の中が一新されたのが分かる。
「うん!いい感じ、いい感じ!」
やった本人はなんとも言えない顔をしているがエヘルは大満足って顔してるから、まあいいか。
ただ、いい感じいい感じという言葉に反応したのかサミュアは私の後ろへそそくさと隠れてしまった。
そんなサミュアを尻目に私は目的の方を向いてから言った。
「それじゃあ、そろそろ行こうか。」
実際、ずっとここにいる訳にもいかない。
さっきの様子を見る限り洞窟まで達してなさそうな様子ではあったし、万一洞窟まで来れたとしてエヘルのような時空魔術の使い手はそうはいないはず。
でも完全に安心できるって訳でもないからなるべく早く行ってしまおう、とそういう事だ。
「ここからは歩きになるけど。まあそれなりに近いとは思うよ。」
エヘルが先頭を切って進んで私と私の腰に隠れているサミュアはその後ろを付いて行った。