10
どれくらい歩いただろうか、同じ光景をずっと見ながら進み続けた。
一定間隔で壁に掛けてあるランプの灯火に照らされる自分の影を目で追っかけたり、前と後ろを見て何か変わっていないかとか。
自分が追われているという事はほとんど忘れかけていて、早く目的の場所まで辿り着かないかと思いながら進んでいた。
土を踏む音や小石を蹴る音が何重にも重なって響くこの空間では2人の足音がするだけ。
話し声なんかはしやしない。
強いて言うならサミュアのはあはあという息遣いが聞こえるようになったくらい、それ以外はほとんど何も無い。
自分自身は少々疲れている程度で音がするくらいの呼吸をする事はないが、サミュアの反応を見るとそういう訳ではないらしい。
歳相応というか、見た目通りというかなんというか。
しかし、歳だとか筋肉量だとかは何も言いようがないから、少しずつ遅くなるサミュアの足取りに合わせてバレない程度に減速させた。
目に見える減速なんてしたらまた、申し訳ございませんだとか気を使わせてすみませんだとか言うに決まってる。
とはいえ、それなりの距離を歩いたのには間違いない。
もうそろそろあいつが来ても良い頃合いだと思うんだが、そんな気配は微塵も感じられない。
「サミュア、一旦休みにしないかい?ほら、そこにいい感じの岩もあるじゃないか。そこに座って休もう。」
取り敢えずの休息を取ることを提案して有無を言わせる前に洞窟の端にある岩にそそくさと座って、隣のスペースをポンポンと叩いた。
そうでもしないと座って休憩をしてくれなさそうだし、そしてそうなれば先手を取ればなんとか、座ってくれそうだしな。
ふぅと一息ついてからさてどうしたものかと、肩で呼吸をしているサミュアを横目に考え事に耽ろうと―――
「…………ぇ……す……」
したら、何処かしらから声が聞こえた。
どうやら、私だけでなくサミュアにも聞こえたらしくビクッとなった後、耳を塞いで丸くなっていた。
何かしら声を掛けようかと、肩を叩こうとしたがなにか喋れそうという訳でも無さそうだったし、そのままで。
また、聞こえるかもしれないと雲を掴む思いで耳を澄ましているとまた声が聞こえた。
「……き………すか………」
「……きこえ………か……」
「……聞こえますか!?…」
数回続いたその声は記憶をつつき、その声の主が誰か分からせた。
「シオンちゃん、聞こえますか?」
しかし、その言葉を聞いてから直ぐにサミュアの方を向いて、顔色を伺おうとした。
幸い、サミュアは耳を塞いでいたまんまだったし私が咄嗟にサミュアの方を向いたのも見られてなかった。
「早く出てきてください。」
助けを求めるように、どこにいるとも分からないあいつに向かって言い放った。
時間が経っても特に何も起こらず、早く早くと急かすように腕を指でトントンと叩いていると、目の前の壁に魔法陣が現れた。
魔法陣は徐々に回転していき、徐々にはっきりとしてきた。
やがて、魔法陣の模様が全く見えなくなるぐらい回転すると魔法陣があった壁は光に包まれた。
光の向こうから誰かが歩いてくるのが見え、それが先程の声の主というのも直ぐに分かった。
サミュアも光で気付いたのか、耳を塞ぐのをやめゆっくりと顔を光の方向へと向けた。
「少し、遅かったんじゃないのか、エヘル。」
「そんな事無いよ。少し遅れるのが僕らしさだろ?」
なんて、冗談じみて言ってるけどそれは私も納得してるので、ああそうだなと呆れて言った。
しかし、サミュアはエヘルを見るなり直ぐに私の後ろへと隠れてしまった。
それもそのはず彼女の正体は、実は人間ではなく魔物。
それも、かなり実力がある上級魔物で、ハーピー族アエロー種という戦闘に特化した種族。
それなりに知られている種族であり、今回はサミュアも知っていたという訳だ。
サミュアが私の腰から少し顔を出したらしく、その顔を見たエヘルは
「ん〜?可愛い子だね。そんなに可愛いと食べたくなっちゃうよー。」
などと、火に油を注ぐような事を言ってしまい、サミュアは更に警戒心を上げてしまい完全に私の後ろに隠れてしまった。
「あのですね……君は馬鹿なのですか!?」
私が怒っても、エヘルはフフッと笑って片手でおがみ、誤魔化した。
「その子が誰なのか知らないけど、とりあえず早く行こうよ。魔術もそろそろ切れちゃうしね。」
そう言って、エヘルは私の返事も聞かずにそそくさと光の中へ行ってしまった。
確かに少しずつ光が少なくなっている気がするし、さっさと行くことにしよう。
「さっ、行こう。」
サミュアの手を取り、引っ張るような形で光の中へと進んだ。