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ウルトラガジェット・ファンタジア ~異世界空想科学兵器英雄譚~  作者: 王様もしくは仁家
第三章 地下迷宮の死霊と復活の古代魔法兵器・1
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第七十一話 真っ赤な魂-クリムゾン・オース-・1

 マシューが語ってくれた話の内容はこうだ。

 今から一年ほど前のこと。

 マシューの村に、ミナセと名乗る二十歳前後の青年がふらりと現れた。

 彼はルード・ヴォル・ヴォルティスにある冒険者ギルドの冒険者だと名乗り、山の中腹にある迷宮(ダンジョン)を攻略しにやって来たらしい。


 そして村に子供たちしか居ないことを知ると、彼はいたく同情をして大人たちの誰かが戻るまでは、ここに残って皆と一緒に暮らすと言い出した。

 久しぶりに甘えられる大人の存在に、年少者たちはすぐミナセに心を許して懐いたが、マシューはどこか覚めた思いでミナセを見ていた。

 しかしそんな思いとは裏腹に、ミナセは迷宮(ダンジョン)攻略で稼いだお金を、子供たちの食事代や建物の補修費に惜しげもなく注いでくれたので、村の生活は格段に楽になっていった。


 さらには村に井戸を掘ってくれたり、遠くの川から村までの灌漑用水路を掘って荒れた田畑を甦らせてくれたりと、村の再生と子供たちだけの自立した暮らしの道標を示してくれたらしい。

 それを可能にしたのが、ミナセが身に纏う奇妙な形をした鎧と繰り出す魔法の数々で、ある日マシューはその不思議な力について尋ねたことがあった。


 するとミナセは拍子抜けするほどにあっさりと、自分は違う世界からやって来た稀人(マレビト)だと語り、この異世界に来られた喜びと感謝の気持ちからこの力を困っている人のために使いたい、それが素晴らしい力を授かった自分の責任なんだと語った。

 

 そしてすっかりミナセに絶大な信頼を寄せるようになっていたマシューは、ミナセにずっとこの村に居てほしいと素直な思いを打ち明けると、彼は嬉しそうに承諾してくれたそうだ。

 ミナセの温かい包容力と素晴らしい魔法によって、村には笑い声が戻り、平穏な日々はこのまま永遠に続くと思われたが、ある日、ミナセの元に一人の客が現れた時から全ては変わってしまった。


 その客人とミナセは、村の入り口で二人きりで会話をしていたが時折ミナセが声を荒げるので、マシューたちは何事かと遠巻きに見守っていたそうだ。

 やがてミナセがマシューの元へとやって来ると、「もし僕が戻らなかった時はこれを大事に使いなさい」と、両手いっぱいの金貨や銀貨が入った巾着袋を渡して、客人と一緒に山の方へと消えていったらしい。


 そして、それ以来ミナセがこの村へ戻ってくることはなかった。

 マシューは時間を見つけては、山へミナセを探しに行ったが痕跡すら見つからず、迷宮(ダンジョン)の中へも捜しに行きたかったが子供だけでは術がなく、そうこうしているうちに、迷宮(ダンジョン)の奥で古代遺跡が見つかって大勢の探索隊が出入りするようになった。

 

 マシューはたまに村へ立ち寄る探索隊のメンバーから死霊(レヴェナント)の噂も聞いていて、ミナセが消えた時期とほぼ同じことから、直感で死霊(レヴェナント)の正体はミナセではないかと疑っていたが、確証がなかなか得られずにいたところに俺たちが現われたのだと。


 一時撤退する探索隊員にも一応緘口令は敷いてあったが、しばらくの休養と言うこともあって気が緩んでいたのだろう。

 マシューのカマかけにまんまと乗せられて、死霊(レヴェナント)退治の話をべらべらと喋り、似顔絵まで見せてしまったというわけだ。

 そしてその話を知ったマシューは居ても立てもいられなくなって、俺たちを追いかけて単身一人で迷宮(ダンジョン)の中を追いかけてきたと言うわけだ。


「――さて、その話が本当だとして、どうしたものか……」


 現在俺たちは、発見した部屋へと続く通路に居た。

 通路の両サイドには魔法防壁を張って魔物(モンスター)の奇襲に備えた状態で、マシューの話を聞き終えたところだった。


「お、おいらは嘘はついてないよ!? ミナセが死霊(レヴェナント)と恐れられているのは、何かの間違いなんだ。きっと何か理由があるはずなんだよ。旦那、信じておくれよ……!」


「大丈夫。別にマシューの話を疑っている訳じゃないんだ。それよりもミナセが消える直前に訪れた客人てのが気になるな。その客に何か心当たりは? 顔は覚えているかい?」


「ううん、顔は布で覆われていたからよく見えなくて……。ただ身長は二メルテ近くある大きな人間だったよ」


「そうか……」


 俺は大きく息を吐いた。

 別にマシューが具体的な人物像を答えられなかったことに落胆した訳ではない。

 俺の胸の中のもやもやが、より一層深まったような気がしたからだ。

 この胸騒ぎの原因はわかっている。

 それは俺のところにも、招かざる客が訪れていたからだ。

 そう。魔族だ。

 突如シタデル砦を急襲したタリオンも、元を質せば稀人(マレビト)に会うのが目的だったらしい。

 らしいと言うのは、その言葉を直接聞いたのは俺ではなくユリアナだったからだが、その後のタリオンの行動を見れば、わざわざトリネコール大陸にまでやって来たのは、俺に会うためだったと思って間違いないはず。


 その理由は今もわからないが、同じ稀人(マレビト)であるミナセの元へも、同じように魔族が訪れていた可能性は十分高い。

 しかも親身に世話をしていた村と子供たちをほっぽり出す程の何かがあった事を考えると、胸のもやもやは更に強まってやり切れない。

 やり場のない怒りや不安が、胸の中でただ蓄積されていくだけのような感じがして、ただひたすらにやり切れない。


「どっちにしろ、俺は同じ稀人(マレビト)同士一、度は会っておきたいと思ってここへ来た訳だけど、マシューの言うとおり何か事情があることは明白だ……。そこでアルマスさんに最終確認しておきたいんだけど、死霊(レヴェナント)の被害って実際どれだけあるんです? 確か先日聞いたときは、人的被害はゼロだと話していたと思うけど?」


「ええ、確かに人的な被害はゼロで間違いありません。そう言えばいつも探索隊の前に現われても、執拗に追いかけてくるということは不思議とないですね……。ですから被害らしい被害と言えば、あくまでも我々の遺跡探索が一向に進まないということだけでしょうか……」


 それを聞いて、俺は思わずニヤリとする。

 ビッグバンタンクの火力ならば、本気になれば生身の人間なぞコンマ数秒でミンチにできてしまう。

 それをせずにただ追い返すだけと言うのは、ミナセは死霊(レヴェナント)という魔物(モンスター)なんかではなく、きちんと理性があり何か理由があって探索隊の邪魔をしているということだ。


「それじゃあ死霊(レヴェナント)退治は物理的に排除しなくても、探索隊の邪魔さえしなくなればいいってことかな?」


「ええ、確かにそうですね……」


「という訳だマシュー。まだはっきりと約束はできないけど、ミナセとは話し合いで解決できるかもしれない――いや、マシューたちの元へ戻るように、一生懸命説得してみるから安心してくれ。それじゃあ八号、悪いけどマシューを外まで送って行ってくれないか――」


「ち、ちょっと待ってよ旦那! おいらもこのまま連れて行っておくれよ! おいらミナセと話がしたいんだ。おいらが説得してみるよ。それでもう一度一緒に村でみんな住もうと言ってみるから! だからお願いだ。このままおいらも連れて行ってくれ! いや、連れて行ってください! この通りですから、お願いします旦那!」


 と、土下座をして懇願するマシュー。


「そんなこと言われてもなぁ……」


 俺はエマリィとハティに助け舟を求めるが、二人とも苦笑を浮かべて肩を竦めてみせるだけだ。


「ああ、わかったわかった。その代わり勝手に動き回ったらダメだからな。アルマスさんの傍にぴったりと引っ付いておくんだ。いいな!?」


「はい! 旦那、一生の恩に着ます!」


「そう言えば、さっきはなんで悲鳴を上げたんだ? まだ魔物(モンスター)が残っていたのか?」


 俺の質問にマシューは何かを思い出したようで、自分自身を抱きしめるようにして体をブルッと震わせた。


「い、いや、それが……松明の灯りを頼りに遺跡の中を歩いていたら、前方の暗闇の中に薄らと人影が見えたんだ……それで、おいらはてっきり旦那たちに追いついたと思って声を掛けたら、スーッとその人影が消えちゃって……」


「え……やだ、なにそれ怖い……」


 その話を聞いた途端、エマリィの顔が露骨に怯えた表情になる。

 いやエマリィだけじゃなく、ユリアナとテルマもそうだ。

 かく言う俺も、背筋にひんやりと冷たいものが流れていたが、こういう時に外面だけでもクールなタフガイに見せてくれる、ABCアーマードバトルコンバットスーツの存在は本当にありがたい。


「しかし妾が駆けつけた時には、何も見かけなかったがのう……。まあなんにせよ、幽霊(ゴースト)系の魔物(モンスター)だったとしても、子供の姿を見て隠れるようならば実害はない筈じゃ。そんなに気を揉むこともなかろう」


 と、唯一女性陣の中で怯える素振りすら見せていないハティから、男前で頼り甲斐のある発言が出た事で場の空気が一気に軽くなった。

 そういう時に素直に乗っかっておくのも、リーダーとして大事なこと。

 べ、別に怖い訳じゃないんだからね! 本当だよ!


「じ、じゃあ、その話は一旦保留という事で、そろそろ部屋の方を探索してみますか……!」


 俺の合図でエマリィとテルマが魔法防壁を解除してくれたので、まずは俺が先頭になって部屋の中へと入っていく。

 扉らしい仕切りは一切なく、通路からそのまま続いている部屋は野球場くらいの広さがあった。

 天井までの高さも十メートルはあるだろうか。かなり広い空間だ。

 

 そして部屋に入って一番に目を引くのが、中央に鎮座している大きな石の結晶だった。

 というか、部屋にはそれ以外何も置いていない。

 俺は二丁持ち(トゥーハンド)で構えていたHAR-55を下ろして警戒を解くと、入り口で待機していたエマリィたちを手招きした。


「どうやら安全みたい。全員入っても大丈夫だよ……」


「うわぁ! タイガ見て! あそこにあるのは魔法石の結晶だよ!」


「ふむ。グランドホーネットに有るものと比べたら見劣りはするが、これもまた随分と立派な結晶であることは間違いない。これを持って帰れば、ライラもさぞ大喜びすることじゃろ」


 俺の横に並んだエマリィとハティの二人も興奮した顔で、中央に鎮座している魔法石の結晶を見つめていた。

 赤く淡い光を発している魔法石は、直径が一メートル程の大きさで、グランドホーネットにあるものと比べると随分と小振りだが、その下には鈍い光沢のある金属製の幾何学模様の台座があるので、どこか神々しさがある。


「アルマスさん、これは回収してもいいの? 丁度グランドホーネットで魔法石が不足しているんだ。出来れば持って帰りたいんだけど――?」


「勿論タイガさんの報酬としてやぶさかではないのですが、如何せん私たち探索隊が、この遺跡の部屋まで辿り付けたのは今回が初めてなのです。情けない話なのは重々承知していますが、我々は毎回自殺ゴキブリの集団か、死霊(レヴェナント)によって阻止されていましたから……。ですからこの魔法石は、この遺跡で初めて目にする遺物なので、もう少し調査をさせてください。その後ならば……」


 と、アルマスさんは慌ててカバンからノートとペンを取り出すと、魔法石に向かって小走りに駆けていく。

 すると、突然背後の通路から奇妙な音が聞こえてきたので、アルマスさんが踵を返してダッシュで俺の元へと戻ってきた。


「タ、タイガさん、あの音っ……! 目撃証言では死霊(レヴェナント)が登場する時には、必ず冥界の亡者のような泣き声が聞こえると……! ああ、この耳に突き刺さるおぞましい音と声は、死霊(レヴェナント)で違いありませんよ……!」


 アルマスさんはすっかり怯えていて、顔からは血の気が失せてネコミミはぺったんこに潰れてしまっている。

 そしてアルマスさん程ではないにしろ、エマリィやハティにユリアナ達も、緊張した面持ちに微かに怯えの色を滲ませて、奇妙で耳障りな音が聞こえてくる入り口の向こう側の暗闇を見つめていた。

 しかし俺はこの奇妙な音に馴染みがあった。


「これってもしかして音楽じゃないのか……?」


 地下の閉鎖空間ということもあって、音があちこちに反射して共鳴を起こしているので聞きづらいが、確かにこれは音楽だ。

 しかもロック系のテンポの速い楽曲で間違いない。

 歌声は元々シャウトしているようなボーカルらしいが、反射と共鳴により何を歌っているのかまではわからない。


 この世界にも民族音楽のようなものは存在するらしいが、ロックのようにリズムが早い上に、叫ぶような歌唱法には免疫がないのだろう。

 そしてこれは生演奏の生歌なんかではなく、おそらくABCアーマードバトルコンバットスーツのスピーカーから流れている筈だ。

 こんな激しい音楽を、こんな特殊な環境でこちら世界の人間が耳にすれば、確かにおぞましく冥界の亡者の泣き声のように聞こえてもおかしくはないのかもしれない。


 耳を劈くロックミュージックが、暗闇の中をゆっくりとこの部屋に向かって近づいてくる。

 それと共に音の輪郭が徐々にクリアになっていくと、俺はこのメロディに聞き覚えがあることに気がついた。

 そして日本語で歌っている歌詞も微かにだが聞き取れた。


「これって……もしかして真っ赤な魂か!? それじゃあ死霊(レヴェナント)って……!」


 真っ赤な魂とは、数年前に某アニメ番組の主題歌として起用された、熱血系アニソンのタイトルだ。

 ゲーム「ジャスティス防衛隊」では、プレイ中のBGMをユーザーが自分の好きな楽曲にカスタマイズ出来る仕様になっていて、それを選択した場合プレイヤーが操作するABCスーツのスピーカーから、選択した音楽が流れるという設定になっていたのだ。


 そして常に「真っ赤な魂」を流してプレイをするプレーヤーに、俺は心当たりがあった。

 いや、一度でもユーザーが集う掲示板を覗いたことがあれば、そのプレーヤーのことを知らない人間など居ないはずだ。

 それだけそのプレーヤーは、ジャスティス防衛隊界隈で名が売れていた存在だった。


「全員後ろに下がってて――」


 念のために皆を後ろに下がらせると、俺は一歩前へ出て二丁持ち(トゥーハンド)のHAR-55を通路へ向けた。

 そしてサーチライトの光の中にゆっくりと姿を現したのは、真っ赤な魂を大音量でかき鳴らす、深紅色(クリムゾンレッド)に彩られたビッグバンタンクだった――

サブタイの真っ赤な魂を英訳してもクリムゾンオースにはなりません。

クリムゾンオースを和訳したものが「真っ赤な魂」のモデル曲となりますのでご了承ください。

次回更新は日曜日お昼ごろまでには上げたいと思います。

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