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ウルトラガジェット・ファンタジア ~異世界空想科学兵器英雄譚~  作者: 王様もしくは仁家
第二章 奮迅の重鉄魔法 ‐ストライク・オブ・ヘヴィメタル‐
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第五十一話 落ちていく二人

 俺がグランドホーネットへ戻ると、甲板の上は物々しい空気に包まれていた。

 シタデル砦から派兵された数十名の弓兵と魔法兵たちが、甲板の手摺りに沿ってぐるりと整列して周囲の空を警戒していた。

 その警戒網の内側では、疲れた顔をしてぐったりと座り込んでいる貴族たち。

 スマグラー・アルカトラズから降りた俺たちを見て、ライラが真っ先に駆け寄ってくる。その後ろにはイーロンとアルファンの姿も。


「タイガさん――!」


「ハティと八号に連絡はついてるか!?」


「いまこっちに戻っている最中で、もうじき到着すると思います」


「そうか。それで被害は無線で聞いたとおりだな……?」


「はい。敵の狙いは魔法石だったみたいで、まんまと裏をかかれてしまいました……」


 と、ライラは珍しく意気消沈している。

 俺はその頭をポンと叩いて元気付けてやる。


「そう気にすんな。終わったことは仕方ない。それにタイミングが余りにも良すぎる。ということは、俺たちはずっと監視されていたって訳だ。裏をかかれたのはライラじゃない。この俺だ。それでグランドホーネットに何か影響は?」


「まだ全部をチェックした訳じゃないですけど、支援兵器と動力機関の一部がダウンしているみたいです」


「そうか……」


 元々魔法石の容量不足で完全具現化されていなかったところを、更に魔法石を奪われたのだ。能力ダウンは痛いところだが仕方ない。

 むしろこれだけの被害で済んだことを感謝すべきだろう。


 しかし敵の狙いは一体なんだ。

 勿論目的の一つが魔法石だったことは間違いないのだろうが、子供たちを誘拐したことで、何かもっと別の目的があると見ていい筈。

 それに何よりも昨日の森と言い、今日と言い、姑息な手段を使ってくるいけ好かない相手だ。

 何かの罠に利用するために、子供たちの身柄は拘束されてしまったと思っていいだろう。


「そう言えば、敵はやはり魔族で間違いないのか……?」


 確か無線でライラはそう言っていた。ライラが頷く横で、イーロンが補足で説明をしてくれた。


「額に小さな角を二本生やした十五、六歳と思われる少女を、大勢の貴族たちが目撃しています。トネリコール大陸にこうした特徴を持った種族は存在しません。文献に記された記述と符合もするので、魔族と見て間違いないでしょう」


「そうか……」


 どうやら俺と八号が森で出会った少女と同一人物と見ていいだろう。

 一体いつから監視されていたのやら……

 それに今回の少女と言い、前回のタリオンと言い、何故こうも俺に会いたがる?

 どうやら俺は自分で思っている以上に、何か大きな流れの中に知らぬ間に巻き込まれているようで厭な胸騒ぎを覚えていた。


「タイガ大丈夫……?」


 いつの間にかエマリィが心配そうな顔で俺を見上げていた。


「うん、少し考え事してただけだから……」


 そう答えた俺の視界は、甲板の隅で寄り添うにしてこちらの様子を伺っていた、三人のおばさん達の姿を捉えた。

 可愛そうに文句や陳情の一つでも訴えたいだろうに、周囲にいる大勢の貴族たちに遠慮してか、俺の時間が空くのを待っているのだろう。


 この異世界がそういう階級社会とは言え、彼女たちが泣き腫らした顔で寄り添っている姿は、余りにも無力でか弱く見えて、俺の胸を激しく掻き毟った。

 彼女と彼女の子供たちを巻き込んだのは、俺の責任だ。

 そのケジメは俺自身でつけなきゃならない。

 俺がおばさん達に歩み寄ると、彼女たちは堰を切ったように泣き始めた。


「タイガさん、どうか息子や娘をお助けください……!」


「ここであの子達を失ったら死んだ旦那に顔向けできないの!」


「タイガ様お願いします! 子供たちだけは何としても……! 私ができる事はなんでもしますから!」


「ええ、絶対に無事連れ戻すと約束します。だから、安心して待っててください……!」


 俺の言葉におばさん達はさらに泣き声を上げて、俺の手を順に握り締めていく。

 すると、衛兵の一人が声を上げた。


「――狼煙です! 北方の森に狼煙発見!」


 その言葉に、甲板上に居た全員が北の方角を注視した。

 北の森からは紫色の煙が立ち上がっている。


「あれが合図って訳か……! ライラ! グランドホーネットの留守は頼んだ! ハティと八号と協力して全力で死守しろ! 任せたぞ!」


「ラ、ライラちゃんかしこまり……!」


「そしてアルファンさん、悪いけどチャリティーパーティーは、後日に改めて仕切りなおしって事で! あと俺がここを離れた後で、グランドホーネットが再度襲撃される危険性もあります! 参加者を連れてシタデル砦へ避難してください!」


「タ、タイガ殿そうなのですか……? いや、むしろそれならば、タイガ殿はここから離れたらダメなのでは……?」


 と、アルファン。


「男には罠とわかってても出向かなければならない場合もあるんです! て、ことにしておいてください。イーロン、テルマ! アルファンさんとユリアナ姫王子を任せたぞ!」


「お任せを! 貴族の名にかけて!」


「大丈夫っす! ユリアナ姫王子は、命にかけてもチョー守るから!」


 この金髪の剣士と青髪の魔法使いは頼もしい。

 やはりこういう時の為に備えて、ミネルバシステム製の魔法具(ワイズマテリア)に使用者制限を組み込めるかどうか、早急に確認しておくべきだ。

 そして最後に俺はエマリィを見た。 


「悪いけど俺と一緒に来てくれないかな……!? たぶんエマリィの力が必要になるから! 頼む!」


「え、ボク……!?」


 突然俺に名前を呼ばれて、キョトンとした顔をしているエマリィ。

 次第にその碧眼に決意が漲っていくのが、手に取るようにわかった。


「わ、わかった! ボクはタイガと一緒に行く……!」


 俺とエマリィはスマグラー・アルカトラズへ乗り込んだ。




 スマグラー・アルカトラズが北の森上空までやって来ると、そこに見えたのは巨大な穴だった。

 なんと直径にして約五百メートルの穴が大地にぽっかりと口を開けて、俺たちが到着するのを待ち構えていた。


 早速スマグラー・アルカトラズを穴の淵へ着陸させると、俺とエマリィは穴の外周へ降り立って中を覗き込んでみる。

 深さは一体何メートルあるのやら。

 太陽の光は穴の途中までしか届かず、底は暗黒の闇に包まれている。

 しかもご丁寧なことに、土で出来た階段が一本だけ、外周から穴の底へ向かって伸びていた。

 この階段を降りて来いという、敵のメッセージなのだろう。


 しかしこれでもかと言う位に、階段からは怪しさがぷんぷんと漂っている。

「これは罠です」と、どこかに立て看板が立ってても良さそうなくらい、わかり易い怪しさに満ち溢れていた。

 流石にこれには隣のエマリィも、困惑した顔を浮かべていた。


「タ、タイガどうするの……? 思いっきり厭な予感がするんだけど……!」


「で、でも降りていかなきゃ、ちびっ子たちを助けられないし……! それにピノやピピンも居るんだから……!」


「た、確かにそうだよね。みんなボクたちが助けに来るのを待っているんだよね……! わかった、早くみんなを助けに行こう……!」


「あ! でも何も二人でわざわざこんなわかり易い罠に嵌ることもないから、エマリィにはここで待機してもらおうかな。うん、そうしよう。その方がなにかあった時に都合がいいと思うから」


「でも……」


「大丈夫。それに俺一人の方が、もしもの時は動きやすいし!」


「そ、そうだよね、やっぱり……。うん、わかった。ボクはここで待機しておくよ……」


 と、何故かがっくりとうな垂れて落ち込んだ様子のエマリィ。

 あれ!? いま俺なにか変なことを言った?

 しかしそれを気にしている時間も惜しいので、フラッシュジャンパーへ換装すると階段へと向かった。


「それじゃあ行って来る……!」


「うん、気をつけて……!」


 俺は両肩にドラゴンショットを装着し、右手にプラズマガンZZを構えると、一度大きく深呼吸をしてから慎重に階段を降りはじめた。

 エマリィは穴の際に立って、神妙な顔でこちらを見守っている。

 そして、階段を二十歩ほど降りた時だった。

 突然周囲全体から地鳴りのような音が立ち上がったと思った瞬間――

 あろうことか、エマリィが立っていた穴の外周全体が、土砂崩れを起こし始めたではないか。


「きゃああああああっ!」


 エマリィが大量の土砂とともに、穴の底へと滑り落ちていく。


「か、階段関係ねええええええ!!!」


 皮肉なことに、俺が立っている階段はビクともせずに存在している。

 どうやら階段は単なる囮で、本命の罠は土砂崩れの方だったらしい。

 いや周囲の土砂崩れに巻き込まれて、その階段も今にも崩落しそうだ。


「エマリィイイイイイイイイイ!!!」


 俺は階段を蹴って斜め下へダイビングジャンプすると、落下していくエマリィを追いかけた。

 何とか空中でエマリィの手を掴んむことに成功すると、着地の衝撃に備えてお姫様抱っこのように小さな体を抱き上げた。


 しかし問題はここからだ。

 穴の底まであとどれ位の距離があるのか。

 底は暗くて見えないが、時間にして猶予はせいぜい三秒か四秒程度のはず。

 例えABCアーマードバトルコンバットスーツと言えど、これだけの高さから落下すれば、ダメージが大きすぎて一発即死の可能性さえある。

 と言うか、それ以前にエマリィが着地の衝撃に耐えられない。


「エマリィ! 俺の足元に魔法防壁を出来る限り積み上げて! サイズは小! 強度は下へ行くほど強く!」


「そ、そうか……! 任せて!」


 エマリィが俺の意図をすぐに理解してくれて、足元に等間隔で一メートル四方の魔法防壁を積み上げていく。

 すぐに一枚目が足元に触れるが、板ガラスの上に飛び乗ったように簡単に砕け散った。

 そして、


バリバリバリバリバリバリバリン!


 という破砕音が連続して鳴り響いた。

 その度に砕け散った黄金色の欠片が、暗闇の中に蛍のように飛び散っていく。

 しかし何とか落下速度を軽減できているらしく、連続する破砕音のテンポが少しずつ遅くなっていく――気がする。


「――地面が見えた!」


 エマリィがそう叫んだ。

 穴の底は地表から距離にして約二千、いや三千メートルくらいか。

 一体どれだけ着地の衝撃があるのやら……

 エマリィの体を抱き上げている両腕にも自然と力が入り、俺は全身に力を込めて衝撃に備えた。

 

「――タイガ、ボクに考えがある! 少し衝撃が来るけど、絶対にボクを離さないでね!」


「お、おう!? 任せて――!?」


 その言葉の直後、両足ににこれまでで最大の衝撃が加わった。

 明滅するシールドモニターの隅で、HPバーが一気に千近く減ったのを見逃さなかった。

 遂に地面に着地したのかと思ったが、すぐに次の魔法防壁の破砕音が――

 しかも音がこれまでと違って一番鈍い。

 鈍いということは、これまでと強度が違うということだ。


 しかしそんな疑問の答えを見つける間もなく、何故か今度は全身に強烈な横Gが加わっていく。

 それと共に耳に連続で(つんざ)く破砕音。

 一体自分の身に何が起きているのか。


 それを理解する余裕もなく、俺はただエマリィの体を離さないことだけに全神経を集中していた。

 いや、それも違う。

 俺はABCアーマードバトルコンバットスーツを着ているにも関わらず、エマリィの体を離さない素振りをしながら、エマリィの小さな体にすがりついていただけにすぎない。

 その証拠に俺は耳に突き刺さる破砕音と、全身を襲う衝撃がいつの間にか止まっていて、全身が横たわったまま何か硬いものの上を滑っていることに気がつくまで、怖くて目を瞑っていたのだから……


「あ、あれ……?」


 俺はバイザーを開放して頭を上げた。

 知らない間に俺の体は魔法防壁で出来たハーフパイプのレールの上を仰向けになって滑っていて、俺の胸の上にはエマリィが横たわっていた。

 エマリィは俺と目が合うと、肩で大きく息をして疲労の色を滲ませつつも自慢げに微笑んだ。


「ぶ、ぶっつけ本番だったけど、なんとか上手く出来たみたい……」


「え――?」


 その言葉にようやく俺は全てを理解した。

 エマリィは最初は俺の指示通りに小サイズの魔法防壁を幾つも積み重ね、下へ行くほどに強度を増すことで、落下スピードを殺して衝撃を和らげようとしていたが、地面が間近に見えた瞬間に、このままでは思惑通りに衝撃を相殺できないと悟り、急遽機転を利かして方法を変更したのだ。


 それは垂直に積み重ねていた魔法防壁を一枚ずつ位置をずらした上に、更に斜めに角度を変えることによって、地面への直撃を避けたのだった。


 俺が振り返ると、五百メートルくらい上空の地点から地面に向かって、黄金色の魔法防壁で出来たスロープが緩やかに延びていて、今二人が滑っている螺旋状のハーフパイプと繋がっている。


 その長さはざっと見ても、全長で三キロくらいの長さはあるだろうか。

 落下スピードを殺すには、それくらいの距離が必要だったということだろう。

 まるでジェットコースターみたいだ。

 いや、ジェットコースターそのものだ。


「うおおおおおおおおおおお!!! これぞ恋のジェットコースタァァァァァァァァァッ!!!」


 俺は興奮と感動の余りに、エマリィを力一杯抱きしめていた。


「ちょ――!? タ、タイガ、どうしたのいきなり――!?」


「これが興奮せずにいられるでありましょうか!? 全世界の皆様! 青山大河は幸せであります! モーレツに幸せであります! 異世界にやってきて本当に本当に幸せであります! こんなミラクルエンジェルに出会えて本当に本当に幸せでありまーーーーーーーーーーす!!!」


 俺に抱きつかれたエマリィは動揺したのか、魔法防壁で出来たレールは霧散してしまい、二人の体は地面の上へと転がり落ちた。

 と言っても、一メートルくらいしか高さがなかったので、全然平気だったけれど。


「もう! タイガがいきなり抱き着いてくるから……! それより体は大丈夫? ボク今ので杖の予備魔力も使い果たしちゃったから、ちょっと待ってね。すぐに魔法石を取り変えるから」


 そう言って自分の妖精袋(フェアリーパウチ)から魔法石を取り出すと、慣れた手付きで杖の先端のそれと取り替える。

 考えてみれば、約三千メートルの高さから落下して、それを体内の魔力と予備の魔法石の魔力を使いきることで防げたのだ。

 この代償(コスト)を高いと見るか低いと見るかは、人によって見解が分かれるだろうが、俺のHPバーは四割程度削られただけで済んでいるので感謝の言葉しかない。

 俺はエマリィに治癒魔法を受けながら、言葉では言い表せないほどに彼女という存在の大切さを噛み締めていた。

 そして、改めて遥か頭上に小さく見える入り口の光を見上げた。


「さて、何とか無事に着地は出来たものの、問題はここからどうやって出るかだな……。それにまずはピノたちを探さなければ……」


 穴が深すぎて無線は届かないので、スマグラー・アルカトラズでの迎えは期待できそうにない。

 そうなると、フラッシュジャンパーでエマリィを背負って壁を登っていくしかないか。

 カレトヴルッフを壁に突き刺して足場を確保しつつ、垂直ジャンプを繰り返していけば何とかなりそうだ。

 その間敵が何も仕掛けてこないことを祈るばかりだが……


「――タイガ見て!」


 そんなエマリィの驚きの声に、俺は我に返った。

 すると、いつの間にか地面全体に淡く輝く光の筋が浮かび上がっていて、異様な空気を発していた――

次回更新は明日の早朝六時ごろとなります。

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