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ウルトラガジェット・ファンタジア ~異世界空想科学兵器英雄譚~  作者: 王様もしくは仁家
第二章 奮迅の重鉄魔法 ‐ストライク・オブ・ヘヴィメタル‐
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第四十三話 謎のゴーレム軍団・3

 俺はトーチカを飛び出すと、ジグザグに蛇行して星球(モーニングスター)から逃げ回った。

 そうやって森の中を縦横無尽に駆け回りながら、音声コマンドで右手にカレトヴルッフを装備。

 アーサー王のエクスカリバーの別名でもあるカレトヴルッフは、フラッシュジャンパー最大の特徴でもある一撃離脱戦法を体現する武器だ。

 

 「近接系武器」の(ソード)系武器では最高ランクに位置し、その攻撃力はなんと一撃千五百ヒットポイントから無限大。

 ただ無限大と言うのはあくまでも理論上の話で、ゲームバランスを崩壊させかねない数値だが、敵に貼りついて邪魔されなければリロードタイムもなく、延々と攻撃を繰り出すことが出来るということだ。

 もっともそんなタイミングは、天文学的なめぐり合わせを必要とするのだが。


 そしてゲーム内では装備できる武器の数に制限があったために、いくら攻撃力が高くても攻撃の間合いが極端に短い近接系武器は、装備選択の際に悩みの種となりやすい武器だった。

 しかし異世界転移して具現化されると同時に、その制限とジレンマからは解放されている。

 つまりカレトヴルッフは、この世界で真の聖剣として生まれ変わったのだ。


 俺は三メートル近いナノマテリアル合金製の刀身を引きずりながら、「ショルダーミサイルオープン」と音声コマンドを詠唱した。

 早速シールドモニターに表示されたターゲットサイトが、ピピピピッと心地良い音を立てて、物陰に潜む敵を自動で検知してロックオンしてくれる。


 そして、一番近い敵を目掛けてダッシュ。

 草むらから飛んでくる数発の星球(モーニングスター)をジャンプで交わすと、そのまま草むらに向かってカレトヴルッフを一突き。

 ABCアーマードバトルコンバットスーツ越しに伝わってくる、何か硬いモノを貫いた確かな手応え。


 着地と同時に切っ先を見ると、そこに突き刺さっていたのは鉄色をした四本足の生物――いや、小型のゴーレムだった。

 大きさは柴犬くらいだろうか。

 樽を横にしたような胴体からは、四本の足と首の変わりに砲身が伸びていて、尻の部分にも砲身とほぼ同じサイズをした、パイプ状の尻尾のようなものが見える。


「――なんだこりゃ!? また随分とヘンテコで不恰好なゴーレムだな」


 周囲にはまだこれと同じゴーレムが多数居るようで、シールドモニターのターゲットカーソルは、既に十体の位置を探り当てていた。

 木陰や草むらは隠れやすいので肉眼では確認しにくいが、一体周囲には何体が潜んでいるのやら。


シュパパパパパパパパパパン!!!


 とりあえずドラゴンショットをばら撒きながら、一旦トーチカへと戻ることにする。


「――こ、これは……!? タイガ殿、チョー凄いっす! チョー凄い! 自分こんなゴーレム初めて見たっす!」


 と、テルマは持ち帰ったゴーレムを見た瞬間に目の色を変えた。

 そして俺からゴーレムを奪い取ると、ひっくり返したり触ってみたりして興味深そうに調べ始めるが、腹部に描かれていた魔法陣に気がつくと、神妙な顔でこちらを見上げた。


「タイガ殿、このゴーレムは歩く移動砲台になっているっす。この尻尾の部分が地面の土を掬って体内へ送り、体内で鉄を練成して砲弾を作り、頭部の砲身から発射するという仕組み。これだけの複雑な行程に加えて、標的の索敵と認識まで全てをこの小さな魔法陣に組み込んでいる。このゴーレムはそんな素晴らしい技術の結晶。ただ残念なのが……」


 テルマはゴーレムの腹部に描かれていた魔法陣を俺に見せた。

 直径十五センチほどの複雑な文字が幾重にも円を構成しているが、その一部分が穴で欠けている。

 カレトヴルッフが突き刺さった場所だ。

 その刀傷を見て、テルマが何を言いたいのか察した。


「つまり、このゴーレムを無傷で生け捕りにしたいのか……?」


「チョーその通り! 巨大ゴーレムと言い、この小型ゴーレムと言い、こんな事が出来る魔法使いは自分の知る限りでは、ステラヘイム王国には存在しない。これは由々しき事態。敵の標的は恐らくタイガ殿で間違いないけど、ステラヘイム王国内で好き勝手に暴れまわったことを、チョー後悔させてやりたいっす。このゴーレムは敵の正体を知るための大事な手掛かりになると同時に、この技術を盗んで自分が成長するための絶好のチャンス。だから、どうしても魔方陣が無傷な状態のヤツを確保したいっす。タイガ殿、チョー協力して!」


 と、青髪のボブカットヘアをした年下の魔法使いは、イタズラっ子が悪巧みの協力者を募っているような顔で俺を見上げた。

 俺としても敵の素性の手掛かりは欲しいし、テルマが成長するきっかけになるのなら断る理由などあるはずがない。


「ああ、わかった。で、どうすればいい? 魔法陣を傷つけないとなると、ゴーレムはいつまでも活動し続けるんじゃないのか?」


「足の四本は要らないので切っちゃってもいい。後はこちらで何とかするっす。ただ梃子摺るようなら最悪全て切り落として胴体だけでもいいっすよ!」


 そうテルマは淡々と答えるが、言葉だけを見ると随分怖い会話をしていて思わず苦笑する。


「よし。それくらい朝飯前だ。じゃあ一匹残してあとは全滅させるからな!? テルマはここに残って俺が合図を出したら治癒魔法をかけてくれ!」


 そう言い残して、俺はトーチカを飛び出していく。

 が、またしても――


ガンガンッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガン!!!


「ちょ――知らない間に、敵が増えてんじゃねえのか、これ!?」


 シールドモニターのHPメーターが急速に減っていく。

 尋常ではない速さでメーターが半分を切ったのを見て、顔が恐怖で引きつった。

 しかも弾丸の圧力でフラッシュジャンパーが圧し帰されて、前に一歩も進めない。

 一体どれだけの敵が居るっていうんだ!?


「こ、これはさすがにまずい! テルマ頼むっ……!」


 俺は後方のテルマに呼びかけつつ、苦し紛れにプラズマガンZZを乱射した。

 更に同時にドラゴンショットもばら撒く。


ドウルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!

シュパパパパパパパパパパン!!!


 敵がどれくらい居るのかわからないが、もう少し片付けないとゴーレムの確保どころではない。

 それに新たな問題が一つ。

 どうやら俺とテルマの治癒魔法の相性は悪いらしい。

 回復の度合いが、エマリィと比べると半分程度しかない。

 そうなるとあまり余裕をぶっこいている暇もなさそうなので、ここはさっさとゴーレムを一体確保して、一気に片付けた方が良さそうだ。


 俺はフラッシュジャンパーの機動力を生かして左右に大きくジャンプをして、星球(モーニングスター)の嵐を翻弄した。

 ゴーレム軍団の目的はやはり俺のようで、森のあちこちから飛んでくる一斉射撃の波は、執拗に俺だけを追いかけてくる。


 ならばこちらは、フラッシュジャンパーの機動力を極限まで高めるだけだ。

 俺は高速ダッシュとジャンプ回避を繰り返しつつ、隙をついてプラズマガンとドラゴンショットを叩き込み、捕獲するゴーレムの当たりを絞り込んでいく。


 そして左手の巨大樹の根元辺りに陣取っているゴーレムに照準を絞ると、一気に加速して間合いを詰めた。

 草むらの陰に隠れていたゴーレムの姿を捉えると同時に、カレトヴルッフで砲台と尻尾を斬り落とす。

 そしてそのままゴーレムを小脇に抱えると、高速ダッシュでトーチカへ。

 しかしその途中で、テルマがトーチカから顔を出して、何かを叫んだと思った瞬間――


「ぐほっ!」


 腹部に衝撃が走り、全身が突き上げられる感覚に襲われたかと思うと、一気に視界の天地が逆転した。

 そして一瞬の無重力感のあとに、今度は一転して落下する感覚ともに、全身が激しく大地に打ち付けられた。


「な、なんだ……!?」


 立ち上がろうにも、間断なく俺の体は宙に突き上げられては、地面に激しく叩きつけられる。

 そんなことが五、六回程続いて、更に俺の体が一際宙高く舞い上げられたかと思うと、巨大樹の幹へとぶつかった。

 しかし咄嗟の判断で、カレトヴルッフを幹に突き刺して、何とかぶら下がることに成功した。


「――タイガ殿、大丈夫っすか!?」


 声がする方へ視線を向けると、少し離れた場所にある木の枝の上に、テルマとライラ、そして八号の姿が見えた。


「魔力が地中を走ってくるのに気付くのが遅れたっす! 完全に隙をつかれた! チョーごめんなさい!」


 テルマの言葉に地上を見下ろすと、先ほどまで俺が居た場所とトーチカには、鉄色の禍々しい巨大な棘が生えていて、ちょうど崩れて土へと還るところだった。

 なるほど。最初と同じ奇襲を、このタイミングでまた仕掛けてきたということか……


 そしてテルマが先ほどと同じように、土魔法のカタパルトで敵の攻撃の隙をついて、俺を助けてくれたという訳だ。

 またしてもHPは半分以上も削られてしまったが、こればかりは仕方がない。

 それよりも、なかなか厭らしい攻撃を仕掛けてくる、まだ見ぬ敵に無性に腹が立っていた。

 この敵には銃口を口に突っ込んで、思い切りナノマテリアル弾を食らわせないと気がすまない。


「テルマ! 敵の位置はわからないのか!?」


「出来るかどうかわからないけど、一つだけ方法がないこともないっす!」


「それはどうすればいい!?」


「とりあえず一旦ここから離れて――!?」


 テルマがそう言いかけた時、ゴゴゴゴッと轟音とともに地面が激しく揺れたかと思うと、辺り一体の地面が突然隆起し始めた。

 そして俺は見た。

 巨大樹の幹にしがみ付いている俺の足元で、隆起した土の山がゴーレムの頭部へ姿を変えていくのを――


 その巨大ゴーレムは一体だけだったが、明らかに先ほどよりもサイズが十倍は大きく、さしずめ超巨大ゴーレムと言った感じか。

 森の巨大樹はどれも高さが百メートル以上はあるほどに大きいが、目の前でぐんぐんと成長する超巨大ゴーレムはそれよりも大きい。

 遥か頭上にある頭部は、枝の影に隠れてしまって見えないくらいだ。


「くそっ、まだこんなデカいのが残ってたのか!? 次から次へといったいどれだけ湧いてくるんだっての! いいか、一旦退避するぞ! ライラはテルマを! 八号はその援護に回れ! 俺が最後に続く!」


 俺たちは一斉に巨大樹から飛び降りると、森の中を一列になって駆け出した。

 そしてしばらく森を突き進むと、渓谷にぶち当たった。

 深さは百メートルほどで谷底には川が流れていて、無数の巨大な岩が転がる川岸も見える。


「――タ、タイガさん、行き止まりですぅ! 一体どうするんですか!?」


 と、少しパニっくているライラ。

 すると、テルマが何か閃いたように口を開いた。


「タイガ殿、この谷底に洞窟を作くってそこに身を潜めるっす! 三分ほど時間をチョー稼いで!」


「三分でいいんだな!? お安い御用だ! ライラ! 八号! 二人でテルマを抱えて崖を駆け下りろ! 多腕支援射撃(アラクネ)システムならそんなの楽勝だ! さあ行けっ!」


「ラ、ライラちゃん、いきまーす!」


「自分も!」


 と、テルマを挟んで両脇を抱えるようにして谷底へとジャンプするライラと八号。

 多腕支援射撃(アラクネ)システムのフレキシブルアームが足代わりとなれば二、三回のジャンプで無事に谷底へ到着するはずだ。

 三人の姿が谷底へ消えるのとほぼ同時に、フラッシュジャンパーからビッグバンタンクへと換装する。


「ボイスコマンドオーター! 武器選択! グレネードランチャーMA-70! 続いて武器選択! ベルセルク・スクリーム!」


 音声コマンドに反応して右手にMA-70が、左手にはベルセルク・スクリームが装備される。

 俺はMA-70の引き金を引くと、同時に銃身を右から左へ一定のスピードで一振り。

 そうすることで十連発の砲弾は、綺麗に扇状にバラけてくれる。


ズドドドドドドドドドドドーーーーーーン!!!

バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッッッ!!!


 約百六十度の範囲に散らばった二種類のクラスター弾は炸裂弾から爆発が始まり、ワンテンポ遅れてプラズマ弾が青白い稲光を走らせた。

 森を焼き尽くすような勢いで広がる爆発と電撃の海に向かって、今度はベルセルク・スクリームの砲身を向ける。


 ベルセルク・スクリーム――ビッグバンタンクの「カノン/迫撃砲」の中で、ヘル・モード序盤で入手可能なカノン砲だ。

 約三メートル近い砲身からは、対巨大生物用ナノマテリアル特殊キャニスター弾を発射する。

 要は巨大生物相手の巨大なショットガンだ。装弾数は二十発。

 そして名前の由来は、その独特な発射音から。

 俺は早速爆炎と電撃の壁に向かって、無差別に引き金を引き続けた。


ウウウワギャン! ウウウワギャン! ウウウワギャン! 


 と、まるで巨大で獰猛な肉食獣の咆哮のような発射音が、燃える森にこだまする。

 特殊キャニスター弾は空中で無数に分裂すると、まるで巨大な顎のように、巨大樹や大地に噛み付いて抉り取っていく。

 一体小型ゴーレムが何体潜伏しているのかわからないが、この連続攻撃で相当数は減らせたはずだ。


 さすがに超巨大ゴーレムを倒すまでには至っていないが、こいつは大きすぎる分動きが鈍いので、俺との間合いはまだかなり開いている。

 俺は超巨大ゴーレムとの距離に注意を払いつつ、ベルセルク・スクリームを全弾無差別に乱射した後で崖を滑り降りた――


次回更新は明日の早朝六時ごろとなります。

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