第四十二話 謎のゴーレム軍団・2
「鉄の巨大ゴーレム……! そんなのチョー反則!」
テルマがそう呟いた刹那、一番手前に居た巨大ゴーレムの右アッパーが繰り出された。
俺は咄嗟にテルマを抱えて空中へと避難。
その直後、巨大樹の枝が木っ端微塵に粉砕された。
地面へ着地すると、同じようにジャンプ回避してきた八号とライラが時間差で着地した。
そのジャンプ力は生身の人造人間を遥かに凌駕していたので、二人とも多腕支援射撃システムを上手く活用できているようで頼もしい。
「みんな無事だな!? ここは俺に任せて、八号とライラはテルマを連れて先に逃げてくれ!」
俺はそう叫ぶと、迫り来る三体の巨大ゴーレムと対峙した。
「――VCO! 換装! フラッシュジャンパー! 武器選択! プラズマランチャー・シグマ! 続いて武器選択! ショルダーミサイルユニット・ドラゴンショット!」
音声コマンドに反応して、筐体がフラッシュジャンパーへ換装。
そして右手にはプラズマランチャー・シグマが、続いて両肩にショルダーミサイルユニットが装着される。
鉄色をした三体の巨大ゴーレムたちは、一列に並んで目前に迫りつつあった。
そのうちの真ん中のゴーレムが、両手を合わせて大きく振りかぶる。
咄嗟にフラッシュジャンパーの脚力を活かして、後方へ最大限のジャンプ回避。
直後、ゴーレムの拳が大地に突き刺さり、まるで噴火でもしたみたいに、大量の土砂を周囲に撒き散らした。
俺は落ち着いてジャンプ後退を繰り返して、十分な間合いを稼ぐ。
そして、プラズマランチャーの照準を、真ん中のゴーレムに合わせて引き金を引いた。
プラズマランチャー・シグマは、ゲーム内ではヘルモード序盤で入手可能な武器で、「プラズマ兵器」の中では上から二番目の火力を誇る。
残念ながらシグマよりもう一つ上に位置するオメガは未入手だったが、シグマの火力と射程が巨大な相手と戦うときに、効果的な威力を発することはゲーム内で実証済みだ。
一発辺り二千のヒットポイントのプラズマ弾が五発、連続して真ん中のゴーレムに直撃する。
鉛色の胴体にクレーターのような穴を五つ穿つ。まるでチーズのように脆い。
いや、プラズマランチャーの火力が強すぎると言うべきか。
しかし巨大ゴーレムの胴体は巨大な樽のように厚みがあるため、完全に貫通はしていない。
表面から中心にかけて、幾分か削り取っただけだ。
だが俺は、今の五発で巨大ゴーレムの「硬さ」を看破できていた。
ジャンプでの後退から摺り足での後退へ。
そしてリロードの終わったプラズマランチャーで、腰を据えての追撃に切り替えた。
真ん中のゴーレムは、先ほどの被弾の影響で一歩遅れているので、左のヤツに二発、右のヤツへ一発と牽制射撃。
残りの二発は、俺の左右の森に撃ち込んで、視界を遮る巨大樹の一部を吹き飛ばしてやる。
そして視界が一気に広がると――
「ショルダーミサイルオープン!」
と、音声コマンドに反応して、バイザーモニターに十個の三角形のターゲット・カーソルが出現。
俺はそれを視線で誘導して、真ん中のゴーレムに六発、左右のゴーレムに二発ずつ振り分けた。
「ドラゴンショットファイア!」
シュババババババババババッ!!!
低音の射出音が連続して鳴り響いて、両肩のミサイルユニットから飛び出していく十発のマイクロミサイル群。
上空に放物線を描くグループと、左右にカーブを描くグループに分かれて森の中を驀進していく。
俺は後退を止めてミサイル群の軌道を目で追いかけながら、止めと言わんばかりにプラズマランチャーの引き金を引いた。
まずは真ん中のヤツに集中して五発をぶち込んでやると、そこにタイミングどんぴしゃりで、マイクロミサイル群の追撃が一斉に炸裂した。
ズドドドドドーーーーーーーン!!!
と、爆炎の中で崩れ落ちていく真ん中のゴーレムの姿を確認しつつ、俺は後方へジャンプ回避。
そうやって残った二体と十分すぎる距離を取りながら、プラズマランチャーとドラゴンショットのリロードタイムを稼ぐ。
そしてリロードが終了すると同時に、少し先行している右側のヤツから、集中砲火を浴びせて片付けていく。
右側のゴーレムが二度目の集中砲火の途中で崩れると、俺は後退することも止めて、残りの一体をその場で仕留めにかかった。
間合いを空けないのは、別に奢っているわけでも、調子に乗っているわけでもない。
既に倒した二体から、ゴーレムの耐久度はほぼ把握できている。
現在の間合いとリロードタイムから逆算して、もうこれ以上動く必要がないというだけだ。
それにここまで来ると下手に距離を開けるよりも、少しでも近場で攻撃した方が、威力も増して時間の節約になる。
と、もっともな理由を並べて見ても、本当は巨大な敵が目の前で倒れるのを見るのが好きなだけだったりするが。
ゲーム内ではこれをよくやって、クリア寸前にも関わらず自分の攻撃の巻き添えを食らってゲームオーバーしてしまったりしたもんだが、止められないものは仕方がない。
いや、今の俺にはエマリィとラブラブになるという崇高な目的があるので、危険なことは自制しなければ。
ましてや今は守護神エマリィも居ないのだ。
もしものことがあったら、死んでも死にきれない。
だから、この危険な趣味は今回で封印しよう。
そして三体目のゴーレムが、俺の十メートルほど前で巨大な鉄のガラクタと化して崩れ落ちていくのを見届けると、満足感とともに恒例の雄叫びを上げようと両手を突き上げた。
「マイ――!?」
しかし背後から鳴り響く銃声に、弾かれたようにふり返った。
銃声はライラ達が逃げた先の、森の中からだった。
しかも一発二発ではない。絶え間なく鳴り響いている。
すぐさま俺はその音に向かって走った。
そして、ライラたちの姿は一分もしないうちに見つけられた。
何故なら、ライラたちが逆走してきたからだ。
背後に向かって、銃弾の雨を撒き散らしながら――
「一体どうした!? 何が起きたんだ!?」
ライラと八号は、ともに多腕支射撃援システムの下部の二本の腕を「足」代わりにして、森の中を飛ぶように駆けていた。
テルマはライラの多腕支援射撃システムの二つの上腕に抱きかかえられていて、八号はその少し後ろを走りながら、多腕射撃支援システムにアサルトライフル二丁、グレネードランチャー二丁のフル装備プラスベビーギャングの二丁持ちで、
ズダダダダダダダダッ!!!
シュポン!!! シュポン!!! シュポン!!!
バァン!!! バァン!!! バァン!!! バァン!!!
ズダダダダダダダダッ!!!
と、背後に向かって、盛大に制圧射撃を繰り返している。
そして八号の先に広がる森からは、あちこちからヒュンヒュンと何かが風を切って飛んできていた。
それらは、周囲の巨大樹の幹にバシバシッと鈍い音を立ててふつかっていて、その数は半端ない。
「――なんだ!?」
俺は傍らの大木の幹に開いた穴をほじくって見る。
すると、出てきたのは直径十センチほどの大きさをした、突起が幾つも突き出している星のような形をした鉄球だった。
いわゆる星球と言うやつだ。
見るからに只事ではない事態だったが、肝心の敵の姿がまったく視認できない。
そして珍しく強張った表情をしていたライラが、俺の姿を見つけて相好を崩した。
「――タ、タイガさん! 大変です! こっちにも敵です! 敵が現われました!」
「いや、見ればわかるけど、一体どうなってるんだ……!?」
「タイガ殿、戦う!? チョー戦う!?」
と、テルマはライラから無理やり飛び降りると、俺を見上げて舌なめずり。
いろいろと溜まっている鬱憤を、一刻も晴らしたいような挑戦的な顔だ。
そんな顔をされては、また逃げろと言うわけにもいかない。
それに、テルマの実力にも興味がある。
「どこの誰か知らないけど、ここまで大っぴらにケンカを売られたらチョー買うしかないっしょ! テルマ、無理しない程度に協力してくれ!」
「そうこなくっちゃ! ね! ね! それじゃあ、まずはこんなのでどう――!?」
と、テルマは嬉しそうに地面に両手をついた。
すると、突然俺たちの目の前に出現した土の壁。
それは俺たちを中心に半円型になっていて、長さは五メートル高さは一メートル半ほどで厚さは一メートルくらいあり、即席のトーチカとして十分すぎる強度を持ち合わせていそうだった。
「――八号、ライラ、大楯を装着しろ! 星球には十分注意してくれ! この塹壕からは一歩も出ずに制圧射撃を頼む!」
「「了解!」」
と、ライラと八号。
二人はそれぞれ大楯にグレネードランチャー一丁、アサルトライフルを二丁を装備すると、塹壕の両端に別れて森に向かって制圧射撃を展開する。
「確かテルマは治癒魔法も使えたよな!? ここで皆の支援を頼む!」
と、俺が土壁を飛び越えていこうとすると、慌てて呼び止められた。
「タイガ殿チョー待って! 一つだけ気になることがあるっす!」
「気になること? なんなんだ!?」
「さっきの巨大ゴーレムもそうだけど、ゴーレムが出現する前に攻撃を受けたでしょ!?」
「ああ、あの地面から鉄の棘が飛び出してきたやつのことか!?」
「そう。あれと同じことは土魔法でもできるけど、敵は鉄を練成していたっす……」
「つまり敵は土魔法の相当の使い手ってことか?」
「ううん。それに敵は鉄でできた巨大ゴーレムを、三体も作ってみせた。こんなことが出来る魔法使いなんて、チョー聞いたことがないっす……。信じたくないけど、敵は土魔法の上位魔法である、鉄魔法の使い手かもしれない。けど鉄魔法は失われた技術で、ヒトや亜人が使えるはずが……」
そう呟いたテルマの声は、微かに震えていた。
それは恐怖からなのか、武者震いなのか。
泣いているような笑っているような顔は唇を噛み締めていたが、双眸の奥で輝いている光を見て、俺は理解した。
テルマは敵の未知の実力に嫉妬しつつも、そこに自分の壁を乗り越えるための希望の道標を見つけたのだと。
テルマもやはりエマリィと同じ魔法使いなのだ。
「わかった。とにかく敵はすげえ魔法使いってことだな!? 忠告は胸に刻んでおく。しかしテルマ一つ言わせてくれ」
「……?」
「俺も案外すげえ冒険者なんだぜ? そこで皆の支援をしながら待っててくれ!」
そう言って、俺はトーチカを飛び越えた。
さて。少しキザに振る舞ってしまった分、張り切って行かせてもらいますか。
しかし、敵の集中砲火が一気に俺に集中する。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッガンガンガンッッッ!!!
ただでさえ装甲の弱いフラッシュジャンパーのHPなのに、一気に半分近く削られたのを見て、堪らずにトーチカへと舞い戻った。
「な、なんじゃこりゃ!? 半端ねえーっ!」
カッコつけて飛び出していったのに、三秒足らずで戻ってきた俺を見て、ライラと八号が苦笑い。
しかもテルマまで冷めた笑みを浮かべているではないか。
「治癒魔法使うっすか……?」
「いえ、今はお忙しいでしょうから、ポティオンで済ませます……」
「削られたトーチカの修復があるんで、そうしてもらえるとチョー助かるっす……」
「すみません。ほんとにすみませんっ……!」
俺はフェイスガードを全開にして、屈辱と恥ずかしさに耐えながらポティオンを三本一気飲み。
「それじゃあ、仕切りなおしと言うことでっ――!!!」
と、大声で気合いを入れて、今の醜態を無理やりなかったことにする。
そして最初からそうすれば良かったのだが、トーチカの内側で「ショルダーミサイルオープン」と詠唱。
俺の視線がシールドモニターの端っこに表示されている{AUTO}の文字を二秒間凝視すると、自動ロックオンへと切り替わる。
ピピピピピピピピッ!
と、小気味よい電子音とともにターゲットカーソルが、次々と森の中に潜伏している敵をロックオンしていく。
いくら敵が肉眼で確認できなくとも、こうして機械が自動で敵を感知してくれるのだ。
ふひひ、これぞまさに誘導兵器の醍醐味だぜ!
「俺に恥をかかせたらどうなるか思い知らせてやるからな――ドラゴンショットファィア!」
シュパパパパパパパパパパン!!!
トーチカから垂直に十発のミサイルが勢いよく打ち上げられていく。
マイクロミサイル群は上空で旋回すると、それぞれのターゲットを目掛けて木々の間を駆け抜ける。
そして次々と物陰に潜む敵が撃破されていくなか、リロードが終わってそのまま第二波となるドラゴンショットを発射。
「よしっ、敵がどんな奴らか正体を拝んでるからな! 今度は期待しててくれ!」
弾幕が弱まったのを確認して、俺はトーチカを飛び出した――
次回更新は本日の真夜中深夜一時ごろとなります。←訂正です。本日の夕方16時ごろです。
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