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ウルトラガジェット・ファンタジア ~異世界空想科学兵器英雄譚~  作者: 王様もしくは仁家
第二章 奮迅の重鉄魔法 ‐ストライク・オブ・ヘヴィメタル‐
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幕間 対決

 王様一行をグランドホーネットへ招待した時のこと。


 俺と王様とオクセンシェルナとの会談は明け方まで続いた。

 夜が白み始めた頃に、オクセンシェルナより「この話は一度城に持ち帰って王様と詰めさせていただきたい」との申し出があったので、俺はオクセンシェルナに通信機を手渡して、会談は一旦終了となった。


 そして王様の見送りに甲板へ出て行くと、長兄とユリアナの二人が近付いてきた。


「タイガ殿、是非お願い申し上げたいことが――」


「兄様、それは今申し上げるようなことでは! タイガ殿もお疲れなのですから!」


「え? なんですか一体!?」


「実は本日護衛として連れてきたあの二人は、私と弟の騎士団の中でも一、二位を争うほどの手練れ。その二人がどうしてもタイガ殿と手合わせしていただきたいと所望しております。この国の防衛を担う私としても、あの二人とタイガ殿の間にどれだけ力量の差があるのか、非常に興味がございます。いかがでしょうか、是非この申し出をお受け入れしていただきたいのですが……」


「ああ、そういうことですか……」


 俺は困ったように鼻をかく。別に手合わせくらいはしてもいいのだが、エマリィとの時に厭というほど身に染みたのは、空想科学兵器群(ウルトラガジェット)は生身の人間に対して手を抜く作業は、非常に気を使い難しいということだ。


 攻撃と防御を順番に繰り返す力比べのようなスタイルならまだしも、実戦に近いスタイルだと一つ間違えれば致命傷を与えかねない。


 そんな風に葛藤していると、目の前に見慣れた褐色の背中が。


「なにもカピタンが出る幕でもなかろう。その勝負、妾が引き受けようぞ!」


 ハティは血族旗(ユニオントライヴ)を両肩に担いだまま、護衛の二人を睨みつける。


 どうやら当初から彼らが発していた敵意と殺意に一番中てられていたのはハティのようで、内に眠る闘争心が激しく駆り立てられていたようだ。


「なんじゃ? 妾では不服そうな顔をしておる。妾が女だからか? それとも風狼族だからか? この国を代表する手練れと聞いたが、どうやら空耳じゃったのかのお。どちらにせよ、相手を選んでおるようでは大して期待も出来ぬか! はっ!」


 予想外の展開に言葉を失っていた長兄と護衛の二人に、ハティが容赦のない追い討ちをかける。

 すると巨体の護衛が、今にも戦斧を振り回しそうな勢いで前へ出てきた。


「そこまで言わては相手をせぬ訳にはいかん! 手合わせ願おう!」


「いや、ゴルザ殿! それならばここは私が――!」


 もう一人の細身の護衛が巨体のゴルザを制するが、ハティの挑発するような声が一閃。


「時間が勿体ない。王を城まで送り届ける時間が迫っておるのじゃ。二人同時に相手をしてやるわい!」


 この言葉に二人の護衛どころか、二人の兄までもが顔色を変えた。怒りを押し殺した強張った顔で護衛に合図を出す長兄。


「タイガ、止めなくていいのかな……」


 エマリィが不安げな顔で俺の横に並んだ。


「いや、少し様子を見よう。ハティだってそこまで無茶はしない――筈……」


 それにハティが散々煽ったおかげで、二人の王子と二人の護衛の顔は真っ赤だ。下手に遺恨を残すよりも、ここで綺麗にガス抜きをしておいた方が今後も付き合い易いだろう。


「我が名はステラヘイム王国第一騎士団戦士長のゴルザ・ダンジュー!」


 と、巨体の戦斧使い。


「続いてステラヘイム王国第二騎士団団長補佐のアヴィス・ロゼット!」


 こちらが鞭使いだ。


 そしてハティは「カピタンの立場は弁えておる。殺してしまう訳にもいかんからの」と俺にだけ聞こえるよう小声で呟くと、血族旗(ユニオントライヴ)を足元に置いて仁王立ちした。


「妾は風狼族のハティ・フローズ! 塵旋風のハティじゃ! かかって来い(わっぱ)ども!」


 一見すると、二人の厳つい中年男性と妙齢の色気溢れるお姉さんが対峙している構図なのだが、ハティはああ見えて二百歳とこの中で一番の最年長になるのが面白い。


 そして、その声を合図にいち早く飛び出したのはアヴィスだった。走りながら右手を一閃。丸まっていた鞭が解き放たれて大蛇のようにハティに襲い掛かる。


 しかし鞭が甲板を激しく打った時には、すでにハティの体は空中へ。


 だがまるでそれを待ち構えていたかのように、ゴルザの巨大な戦斧が薙ぎ払われる。


 ハティは空中で身を捻り難なく戦斧をやり過ごす。そして通り過ぎていく戦斧に手を掛けてると、そのまま遠心力を利用して大きくジャンプ。


 ゴルザとアヴィスは少し離れた場所に着地したハティを見て歯軋りをする。


 そして互いに目配せをすると、左右に分かれて同時に挟撃を仕掛けた。


 しかも二人の武器はどうやら魔法具(ワイズマテリア)だったようで、アヴィスの鞭は炎に包まれ、ゴルザの戦斧は刃から細氷(ダイヤモンドダスト)を撒き散らしながら、ハティに襲い掛かった。


 その刹那――

 俺は思わず自分の目を疑った。


 ハティの体が態勢を微動だにしないにも関わらず、まるで甲板の上を滑るようにして二人の攻撃範囲から逃れたからだ。


「――凄い! あんな魔法の使い方、ボク始めて見た!」


 隣で息を呑んで戦いを見守っていたエマリィが驚いている。


「どういうこと? 今の魔法なの!?」


「そう風魔法! それも恐らく上位の魔法じゃなくて、初級程度の攻撃魔法のはず。それを攻撃じゃなく移動で使ったんだと思う。風の力で自分の体を浮かすと同時に横へ移動させたと思うんだけど、あの短時間で呪文を詠唱せずに魔法を発動させた上、更にあの正確なコントロール! ああっハティってやっぱり凄いよタイガ!」


 と、エマリィが興奮した口調で解説していると、いつの間にか王様やオクセンシェルナ、ユリアナ姫王子一行に二人の兄までもが集まってきていて、エマリィの解説に耳を傾けていた。感心している者、冷静に聞いている者、動揺している者とリアクションは様々だ。


「お嬢ちゃんや、それはそんなに凄いことなのか?」


 と、王様。


「凄いですよぉ! とかく魔法使いは魔力の増強に力を入れがちなんです。でも上級魔法はただでさえ魔力を消費するから、その考えは決して間違いじゃないんです。だけど魔力増強はその人の潜在能力や体質が大きく関わってくるから、望んだからと言ってすぐ増強できるわけでもなくて、とにかく一日一日の修行が大切なんです。でもそれを一年二年と続けたからと言って、自分が望むほどの魔力が増強できるとは限りません。その壁にぶち当たった時に、魔法使いはよくモチベーションを失くしてしまって、自ら成長の道を歩むことをやめてしまう事が多いんです。でもハティは身をもって示してくれた。魔法は知恵と工夫だということを。攻撃魔法は攻撃だけにあらずということを。低級の魔法でも創意工夫でいろんな使い道があるということを。これが凄いと言わずして何が凄いんですか!?」


 エマリィは勢い余って説明を終えた後も、しばらくあひる口で両手を振り回しながら、言葉にならない興奮をうーうーと表現していた。そんなエマリィを見て王様は相好を崩している。


「ほっほっ、お嬢ちゃんの魔法に対する情熱は人一倍のようじゃ。その熱意を大事になされ。これからも修行と鍛錬に励むが良い」


「あ、ありがとうございます! そう言えば王様、ボクのお爺ちゃんはヘルマー・ロロ・レミングスと言って以前王室に仕えていました。覚えていらっしゃいますか?」


「なぬ!? あのヘルマーさんか!? お嬢ちゃんは、あのヘルマーさんの孫娘なのか!? おい、聞いたかオクセンシェルナ!?」


「はい。まだ私も陛下も駆け出しの頃でしたな。確か一度ヘルマーさんに頼み込んで、陛下と私を東の渓谷にある迷宮(ダンジョン)まで連れて行ってもらった事もありましたな」


「おお、そうじゃったそうじゃった! わしは始めての迷宮(ダンジョン)で物凄く興奮と感動したのじゃった! そうか、あれからもう四十年以上も経つのか。ヘルマーさんはまだお元気か?」


「はい。田舎でのんびりと農作業をして暮らしています」


「しかし陛下、不思議なものですな。あのヘルマーさんの孫娘が、今はタイガ殿と行動を共にしていて私たちの前にこうして現れるとは……」


「ふむ、これも何かの縁かのお……」


 と、エマリィと王様とオクセンシェルナが予想外の昔話で盛り上がっているうちに、ハティたちの戦いは決着を迎えようとしていた。


 風魔法を巧みに駆使して、甲板上をホバークラフトのように縦横無尽に逃げ回るハティに翻弄されて、ゴルザとアヴィスの二人は相当体力を消耗したらしく、すでに両足が覚束無いようだった。


 そうして二人の動きが鈍ってきたところを見計らったように、ハティは両方の親指をパチンと鳴らす。


 ハティの目の前に出現した小さな二つのつむじ風はそのままゴルザとアヴィスに向かっていき、二人の顔を覆いつくした。


 そして、いくらもがいても離れないつむじ風はしばらく二人の顔を覆っていて、ようやくつむじ風が消滅した頃には二人は崩れるように膝をついていた。


「み、見事なり……」

「私の完敗です……」


 二人はつむじ風が巻き上げた塵によって両目が利かなくなっているようで、目を閉じたままハティの方向に向かって無念そうに頭を垂れていた。


「ふむ。この国はしばらく大きな戦がなかったからのお。こんなもんじゃろうて。もしもっと強くなりたかったら、いつでもカピタンの元を訪れるがよい。どうせこれからしばらくは、この地でカピタン共々世話になる予定じゃ。力を貸すことはやぶさかではないぞ」


 そのハティの言葉をうな垂れたまま黙って聞いている二人。その二人を心配して駆け寄る兄たちと入れ替わるようにして、ハティが俺の元へやって来る。


「どうじゃ、カピタンが出る幕でもなかったじゃろ?」


「まあ、そうなんだけど。いや、とにかく手を抜いてくれて助かったよ。ありがとう」


「ふん。相手との力量の差も量れずに、きゃんきゃんと吠える弱い犬が嫌いでのう。それは時に命取りになると教えてやったまでじゃ……」


 朝陽を浴びながらそう偉ぶってみせるハティはどこか寂しげにも見え、その横顔に彼女の過去の影を見たような気がして、俺は思わず言葉を飲み込んでいた――

次回更新も朝六時ごろとなります。

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