表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルトラガジェット・ファンタジア ~異世界空想科学兵器英雄譚~  作者: 王様もしくは仁家
第一章 異世界のマイケル・ベイ
24/151

第二十二話 魔族侵攻

 ユリアナは四人を引き連れては三角岩の上層階へ向かうと大部屋に陣取った。


 この部屋を選んだのは地上から離れているので叫ぶもの(スクリーマー)の叫び声の影響が少ないことと、そして一フロアに一部屋なので全員に目が届くためだった。


 部屋は円形に繰り抜かれた造りになっていてテルマとハイザ、カークは均等に散らばって壁に両手を這わせる。ユリアナとイーロンは手分けをして全員に状態強化魔法を掛けて精神錯乱に対処する。


 そしてしばらくするとテルマが訝しげな声を上げた。


「ユリアナ様、今まで壁を襲ってた大筒の炸裂魔法がいつの間にかチョー止んでるよ。だけど……」


「だけどなんなのだテルマ!?」


 イーロンが苛立ったように聞く。その隣ではユリアナが小首を傾げて耳を澄ましていて、ふと何かに気付いたように壁際へと歩み寄った。


 確かに砦を襲っていた爆音と衝撃は止んでいたが、爆音自体はまだどこか遠くの方から聞こえてくる。


「大筒は砦ではなくどこか別の場所を攻撃していると言うのか……? きっと応援部隊が到着したに違いない! テルマ、ここに見張り窓を設けてくれるか!?」


「アイアイサー!」


 テルマが土壁に作った直径二十センチほどの見張り窓を交互に覗き込むユリアナとイーロン。


 しかしその大きさではよく見えないらしく、二人はもどかしそうに《もっと大きく!》と身振り手振りで示す。


「うーん、このくらい?」


 と、テルマが作った見張り窓は一メートル四方の大きな物で、ユリアナとイーロンは最初こそ驚いて慌てて壁際に身を隠したが、いつしか無防備に窓の前に立ち尽くしていた。


「な、なんなのだこれは……!?」


 ユリアナの唇が驚愕でわなわなと震えている。


 何故ならば目の前の平原に広がっていたのは無数の黒だったからだ。


 西の方にある丘から黒い筋が何条にも平原に向かって伸びており、その黒い筋は平原に差し掛かると扇のように広がって叫ぶもの(スクリーマー)の軍勢を侵食していた。


 それは黒い鉄仮面の騎士たちだった。全身が黒光りしている刺々しく禍々しい姿のフルプレートアーマーを身に纏った騎士の軍勢が、これまた炎のような形をして禍々しく攻撃的な形をした黒い剣で叫ぶもの(スクリーマー)たちに襲い掛かっているのだ。


 数は五千人ほどで叫ぶもの(スクリーマー)たちよりも少なかったが、強さは圧倒的であり一方的だった。


 稀人(マレビト)が総力戦の指示を出しているらしく、砦の周辺に居た叫ぶもの(スクリーマー)たちも大挙して黒い騎士団に押しかけているが、近付いた瞬間に黒い剣によって文字通り千切られている。


「お、王国軍ではない……!? だとすると彼らは一体どこの騎士たちなのだ……!? 」


 ユリアナは黒騎士たちがやって来たらしい西の丘に目を向けた。


 その先に広がっているのは海だ。


 そしてこの海の向こうにあるのは、大陸メガラニカ……


「う、海を渡ってきたというのか……? ま、まさか魔族なのか!? なぜ魔族がこのようなタイミングで……!」


 ユリアナは血の気を失った顔で絞り出すような声で呟いた。


「ユリアナ様。しかしこれはむしろ我らに取っては願ってもないチャンスかもしれません。魔族軍と叫ぶもの(スクリーマー)が戦っている間にこの砦から脱出して応援部隊と合流すれば……!」


 しかしユリアナはそのイーロンの助言など耳に入っていなかった。いや、ユリアナだけではない。テルマもハイザもカークも呆気にとられたように窓の外に広がる光景のある一点を凝視している。        

 イーロンはその視線の先を追いかけて絶句した。


 そこに見えたのは通常の人間の数倍はありそうな黒い巨体が、黒騎士たちとは別に叫ぶもの(スクリーマー)たちを叩き潰し、投げ飛ばし、蹴散らしながら数万という軍勢の一角を一方的に切り裂きながら突き進んでいたからだ。


 まさに猛進。

 しかも明らかにこの砦を一直線に目指している。


「な、なんだというのだ……。こんなものとどうやって戦えというのだ……!」


 ユリアナは呆然とした顔でイーロンとテルマを振り返った。


 紅い双眸はこの二週間ほどの間ずっとギリギリの境界線上でなんとか堪えて灯し続けていた光色を失っていた。


 その不安と絶望に震える顔には姫様の優雅さも、王子様の勇猛さもなく、ただ未来の喪失に怯えている少女が立ち尽くしているだけだった。


「い、厭だ。私は……お前たちを失いたくはない。失うわけにはいかない……。逃げろ、ここから全力で……! 」


 ユリアナのか細く震えた呟きは、砦全体を揺るがし響き渡る衝撃音に掻き消されてしまう。


 それは何かが壁に爪を立てる音。


 圧倒的な暴力の塊が壁を駆け上がってくる音。


 ユリアナは背後に迫る激しい悪寒に目を見開いて絶叫していた。


「――イーロン! テルマ! 逃げてくれ!!!」


 その瞬間、ユリアナの背後の壁が一瞬にして消し飛んだ。


 いや、壁だけではなく天井も跡形もなく吹き飛んで、部屋はまるで屋上のように剥き出しになっていた。


 そしてユリアナは先ほどまで立っていた場所からいつの間にか移動していた。


 床に倒れたユリアナに覆いかぶさるようにテルマが、そしてイーロンはその二人を守るようにして剣を構えている。


 何かの急接近を察知したテルマが土魔法でユリアナを床ごと移動させると同時に、イーロンが疾風の如き素早さで二人の防御に回ったのだ。


 そのイーロンとテルマは激しい闘志を全身に漲らせて、舞い上がる土埃を睨みつけている。


 風に吹かれて土煙が消えると、そこに佇んでいたのは黒い大きな影だった。


 黒く、頭に二本の角が生えた巨大な獣のような二足立ちの生物。


 全身から凶暴な肉食獣のような空気を発しているが、体毛は一切なく黒く皺くちゃな皮膚が滑り気で鈍く光っている。


 体長は優に五メートルを超えるだろうか。


 臨戦態勢のイーロンとテルマが先手を仕掛けられなかったのは、その全身から発している突き刺さるような空気にも原因があったが、そいつの口と右手に見える人影にもあった。


 なんと稀人(マレビト)の大筒が牙を剥き出しにしている口に咥えられていて、小筒の一人が右手の鋭い爪に捕まえられていたのだ。


 二人とも糸の切れた人形のようにぐったりとしていることから既に絶命しているようだった。


 黒いそいつは二人の稀人(マレビト)を無造作に放り投げると、イーロンとテルマを睥睨した。


「ふむ。我が名は魔族のタリオン。ここに稀人(マレビト)はもう居らぬのか!? たく、つまらん! つまらんのお! せっかく海を渡ってやって来たと言うのに、こんな歯応えのない相手だったとは……! 稀人(マレビト)が聞いて呆れるわ!」


 タリオンと名乗った黒い魔族の男は吐き捨てるように言う。


 そしてふとイーロンとテルマの背後に居たユリアナに気がついた。


「その鎧の紋章は……!? 毎回この地を攻めれば聖龍の邪魔が入るのでな。どうせ今回もすぐに聖龍がやって来るのだろう。稀人(マレビト)は期待外れもいいところだし、ならばヒト族の姫を慰み者の手土産にさっさと帰るのも悪くはないか……」


 タリオンは牙を剥き出して唇を歪めて笑う。


 その卑しく厭らしい笑みにユリアナの全身を悪寒が走り抜けた。


 しかし目前のイーロンが突如弾かれたように飛び出したのを見て、別の意味で凍り付くユリアナ。


「イーロン!」


「テルマ! ユリアナ様を任せた!」


「自分チョー任せられた!」


 イーロンは疾風の如く一気に間合いを詰める。


 襲い掛かるタリオンの巨木のような右腕。


 それをひらりと交わして相手の懐へ飛び込む。


 そして弾みをつけて大きく跳躍。


 タリオンの股から頭へ、逆風の太刀で一気に切り上げる。


 そしてそのタイミングを見計らっていたようにテルマは両手を床に叩きつけた。


 その直後、タリオンの足元の床が一気にせり上がってその巨体を空中へ弾き飛ばした。


「イーロン、早く戻って!」


 テルマの呼びかけに逡巡したあとで駆け寄ってくるイーロン。


「俺のことは放っておいてくれてよかったのになぜ!?」


「それがユリアナ様の願いだから。自分チョー空気読むっス! ね!? ね!? ユリアナ様!?」


「そうだ。死ぬときは三人一緒。お前一人を残してはいけぬ!」


「ユリアナ様……!」


 イーロンは申し訳なさそうな、それでいて感激を隠しきれていない表情を浮かべたものの、すぐに真顔で頭上を見上げた。


 タリオンは空中高く放り上げられている。


「とにかく今は一刻も早くここを離れましょう。テルマ頼む!」


「あいよ!」


 テルマは再度床に魔力を流す。三人が立っている床が円形に切り取られて、そのまま下へ沈み込んでいく。


 そして無事に最上階から離脱できると思われた瞬間、円形の床に突き刺さる二本の黒い触手。


 それが空中に打ち上げられたタリオンの腕が伸びたものだと気がついた時には、タリオンの黒い巨体は伸ばした腕を頼りに円形の床に着地していた。


 着地の衝撃でテルマの魔法は解除されてしまい、ユリアナたちの体は最上階の床へと放り出されてしまう。


「ううっ……」


 ユリアナは体を強かに打ちつけた痛みに苦悶の表情を浮かべていると、すっと目の前に黒い影が立ちはだかった。逃げる間もなくタリオンのゴツゴツとした岩のような手に捕えられる。


「ふむ。ヒト族にしてはよく頑張った方である。もう少し遊んでも良いのだが聖龍が現れると面倒くさいのでな。どうする? お主がこのまま大人しくしていれば従者は見逃してやってもよいぞ? 我が本気を出せば貴様の従者を叩き潰すのに十秒とかからん。さあ、どうするか決めよ、か弱きヒト族の姫よ!」


 タリオンはユリアナを掴んだ右手を大きく掲げて不適な笑みを浮かべた。


 先ほどイーロンが斬りつけた筈の傷はどこにも見当たらない。


 ユリアナにとってその回復の早さも、間近で見る岩の塊のような筋骨も、不気味に光る獣のような金色の瞳も、額から生えている二本の角も、すべてが戦慄すべき対象だった。


 かってこの世界を二分する戦いを神族と繰り広げたのが魔族だ。


 対してヒト族はその神族の王と民の亡骸から派生した種族であり、同じく亡骸から派生した聖龍の後ろ盾があって始めてヒトは魔族に抗えるのかもしれない。


「わ、私は……」


 ユリアナは床に倒れたたまま気を失っているイーロンとテルマを見た。


 ヒト族とはなんとか弱き生き物なのかと、ユリアナは恨めしく思った。


 そして屈服するしかない自分自身の無力さを呪った。


「こ、この二人を見逃してくれるのならば……」


 ――私の命をくれてやる。


 そうユリアナは敗北を宣言したが、そのか弱き声はある音によって掻き消された。


 それは風を切る音だった。


 なにか硬質な物体が高速で風を切る、短くも力強い音。


 その音がユリアナの声を掻き消したと思った刹那、続けざまに新たな音が立ち上がる。


 それはユリアナの眼前。


 自分を掴んで掲げている魔族タリオンの顔面が爆ぜる音だった。


 ユリアナが事態を把握する間もなく、バヒュン、バヒュンと風切り音が数度鳴り響き、その度にタリオンの頭部と胸部が脆い粘土細工の人形のように爆ぜて、黒い肉と黒い血液を撒き散らしていく。


 そしていつの間にかユリアナを掴んでいた腕も風切り音とともに盛大に千切れており、ユリアナは床の上に転げ落ちていた。


 呆然と見上げると、そこには腰から上が綺麗に吹き飛んで両足しか残っていないタリオンの残骸があった。


「な、なんだというのだ……!?」


 そのユリアナの問いかけにまるで答えるかのように、遠くの方から叫び声が風に乗ってやってきた。

 それは男の雄叫びだ。


「まいけるべーい……?」


 ユリアナは弾かれたように声の聞こえた方へ走り寄る。


 タリオンによって壊された壁の向こうには平原が広がり、黒騎士の軍勢が叫ぶもの(スクリーマー)たちを狩っている光景が広がっている。


 そしてその上空から何やら轟音が聞こえてくる。


 見上げると空には五つの光点とそこから伸びる白煙の筋が見えて、それはこの大平原へと向かっているようだった。


「神の光……?」


 そうユリアナが思った次の瞬間、平原地帯に目が眩むほどの五つの巨大で強烈な閃光が炸裂したかと思うと、巨大な五つの炎の柱が爆音と共に立ち上がって、黒騎士と叫ぶもの(スクリーマー)の軍勢を炎の海に巻き込んでいた――


次回の話は今回ラストをタイガ視点で描いていて話が進んでないので同時に上げておきます

この気遣いにほっこりしたら評価してくださいw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ