第百四十三話 千年魔力vs超広域絶対殲滅破壊兵器・中
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ボゴォン!
と、直径百メートルもの巨大な鋼鉄の槌が、ウラノスの皮膚を激しく打ち叩いた。
まるで巨大なアメーバか粘土の塊を叩いたような、柔らかくて手応えの無い感触がABCスーツ越しに伝わって来る。
「もう一丁っ!」
肉塊の中へめり込んでいる戦槌を強引に引っこ抜くと、俺は再度上段の構えから思いきり振り下ろした。
ボゴォン!
渾身の一撃。
今度はウラノスの肉体を突き抜けて、地面に深々と突き刺さる。
しかし戦槌が穿った穴は、まるで映像が逆再生されるみたいに瞬時に塞がっていくではないか。
それどころか肉体の一部が大蛇の様に伸びて、うねうねと柄を這い上がって来る。
どうやら戦槌を飲み込む魂胆らしい。
「――そうはさせるかっての!」
俺は強引に戦槌を引っこ抜いた。
そしてグランドジャスティスを、戦槌の攻撃間合いギリギリまで後退させて一旦様子を伺う。
正直に言って、グランドジャスティスでウラノスを海に引き摺り込むという、作戦の大まかなヴィジョンだけを思い付いていただけで、その実際の手段までは思い描いていなかった。
というか、言い訳ではないがそこまでの詳細を思い描く時間は無かった。
ぶっつけ本番で何とかする――と、勢いのまま飛び出したまでは良かったが、変幻自在に変化するウラノスの肉体を前にして、俺は非常に重大な危機に気付いてしまっていた。
――もしもグランドジャスティスがウラノスに飲み込まれてしまったらどうする……!? 艦内にはライラを始めヨーグル陛下やマシューやステラヘイムの兵士たちが大勢乗っているんだぞ……。どうやってウラノスを海に引き摺り込めばいい……!?
作戦を思い付いた当初は、ウラノスを抱きかかえて強引に海へ投げ飛ばしてやろうと思っていたが、たった今戦槌が飲み込まれそうになった光景を目の当たりにして、その危機に今更ながらに気が付いてしまった。
「――タイガ! 何をボーッとしているの!? 攻撃の手を止めたら駄目でしょうが!?」
ミナセの激しい叱咤が無線で飛んで来る。
気が付けば、ミナセはいつの間にかグランドジャスティスの周りを、あの鋼鉄のケンタウロスの姿のまま飛び回っているではないか。
「はあっ!? なんでお前は空を飛んでるんだよ!?」
「だって私は精霊だもん――!」
と、何の説明にもなっていない意味不明なパワーワードを叫ぶミナセは、空中を自在に翔け回りながら銃火器と魔法攻撃のミックス技をウラノスに浴びせ続けている。
確かにその自由で力強い姿は、精霊に見えなくもない。
「そう言えば、ここへ参上した時も飛んで来たような……」
どちらにせよ、このタイミングでミナセが空を飛べるとわかった事は大きい。
この有益な情報は貴重なパズルのピースの一つだ。
グランドジャスティス、戦槌、ウラノスの千年分の魔力、肉体変化、背後の王都、
中央の迷宮へ避難しているハティや八号達と大勢の市民たち、黄金聖竜とエマリィ、妖精族、エルフ族、そしてザ・ハンドレッド……
全てのピースを頭に叩き込め!
ピースを嵌め込んでいく順番を知恵を絞って考えろ!
ウラノス殲滅と言う完成形を詳細に思い描け!
俺は背後を振り返った。
今居る王都西側の地点から、東の海岸まではおよそ三キロ前後。
この連合王国王都は楕円形の城壁に囲まれていて、海岸線と平行になる南北方向が楕円の長軸となる。
つまり今居る西側の地点から海へ出るには、このまま東へ向かって一直線に短軸を駆け抜けるのが一番早く近道になるということだ。
街の中心部を縦断しなければならないが、生存者の大半は中央の迷宮へ避難しているので、そこを迂回すれば被害は建物の破壊だけで済む。
そして一番肝心なのが、ウラノスをどうやって海へ引き摺り込むかだ。
このまま間合いを取りながら誘導するのか、一気に組み伏せて強引に海まで引っ張って行くのか……
前者の場合はウラノスの気を引きながら街の中を縦断しなければならず、しかも中央の迷宮を避けたルートを取るとなると、かなりの長期戦を覚悟しなければならない。
そして後者は近接戦闘を仕掛けた瞬間に、あのアメーバのように自在に変化する肉体に、グランドジャスティスが飲み込まれてしまう危険性がある。
もしそうなってしまった場合は人質を取られたようなものなので、ザ・ハンドレッドを使うどころではなくなってしまうかもしれない……
――どうする……!? どうやってウラノスを海に叩き込めばいい……!? くそっ、せめてグランドジャスティスが戦槌以外にも武器を装備してくれていれば、もっと戦い方の選択肢が増えるのに……! こんな超ド級のスーパーロボットなのに、装備品が戦槌一つしかないって、ゲーム開発陣は頭がおかしいだろ……!
焦る気持ちからつい愚痴混じりの怨嗟の声を上げそうになったが、同時に脳みその一番深い所で映像が湧き上がった。
「戦槌――!? そうだよ、グランドジャスティスには戦槌があるだけで十分だった……!」
俺は一歩踏み込むと、渾身の力で戦槌を振り下ろした。
槌がウラノスの胴体を激しく打擲する。
更に連撃を叩き込む。
ボゴォン! ボゴォン! ボゴォン!
戦槌がウラノスの巨体のあちこちを打ち抜いて巨大な穴を穿つ。
しかし全長が優に五百メートルを超えるウラノスの前では、直径百メートルの戦槌でさえも子供のおもちゃに見えてしまう。
現にたった今与えたダメージも、神速治癒によって即座に回復される有様だ。
それでも質量とスピードのある重量級の連撃は、牽制打撃としての効果はそれなりにあったようで、ウラノスの全身の表面が繊毛のように毛羽立つと、戦槌の動きに合わせてウネウネと波打ち始めた。
「おら、これでも食らえっ!」
俺は更に一歩踏み込んで、巨体の中心点に近い場所へ戦槌を振り下ろした。
ボゴォン!
戦槌が肉塊を勢いよく貫くが、同時に周囲の繊毛が触手のように伸びて一斉に槌の頭部に絡みついた。
そしてそのままウラノスの体内へ飲み込まれてしまうと、更に触手はグランドジャスティスも飲み込もうと柄を伝って迫った。
「――タイガ、今助ける!」
周囲を飛び回っていたミナセが、戦槌が完全に飲み込まれてしまった事に気がついて、血相を変えてウラノスを攻撃しようとした。
しかし俺は大声で制した。
「いや、このままでいい! それよりも俺の隣に来て横で待機していてくれないか!?」
「待機って…どういう事!?」
「いいから早く! 手遅れになってしまう!」
ウラノスのアメーバのような肉体は、既にグランドジャスティスの両拳を飲み込んで着々と肘の辺りにまで迫っている。これ以上、好き勝手にさせておくにはあまりにも危険だった。
「わ、わかったよ……!」
ミナセは釈然としない声を上げつつも、操縦席の横まで戻って来る。
俺はそれを横目で確認すると、お立ち台の上で回り始めた。
スレーブアームを介して、俺の全身の動きがグランドジャスティスへ伝播して、全長三百メートルの巨人がその場で回り始めた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
一回転…二回転…三回転…と、俺が回り、グランドジャスティスも回った。
両手に握っている戦槌の質量の重さに比例して、遠心力も強まっていく。
スレーブアームとABCスーツを介して、遠心加速度の衝撃が俺の全身に再現される。
勿論それは疑似的な衝撃なのだが、それでも両肩がすっぽ抜けてしまいそうな圧力に、俺は堪らずに声を張り上げていた。
しかも両腕が引っ張られるような力は、少しでも気を抜いたら前のめりに倒れてしまいそうな程に強力だ。
しかし俺が倒れればグランドジャスティスも転倒してしまう。
それは即ちウラノスに飲み込まれることを意味する。
そうなったらライラ達はどうなる!?
俺やミナセは何とか脱出出来るだろうが、艦内に居るライラ達には脱出の術がない。全滅だ。
だから、俺は全身の筋肉をフル酷使して耐えた。
耐えて見せるのが、俺の役目であり、責任だった。
そして九回転…十回転…と、俺とグランドジャティスが独楽のように回り続けていると、遠心力に負けたウラノスの体が、グランドジャスティスの両腕から剥がれた瞬間を俺は見逃さなかった。
「待ってましたあっ! ぶっ飛んで行けや、海までえええええええええっ!!!」
俺は回転しながら両腕の角度を調整して、陸上競技のハンマー投の要領で戦槌を放り投げた。
投てき角度約三十度で放たれた戦槌は、纏わりついていたウラノスごと放たれた矢のように真っすぐに海に向かって直進していく。
「――ミナセ、俺を乗せてウラノスを追いかけてくれ! ライラ、操縦は任せた! 聖竜様、俺の頭の中を読み込んで攻撃のタイミングを計ってください!」
俺はケンタウロス型のミナセの背中に飛び乗ると、オープンチャンネルで更に指示を繰り出す。
「――八号! これからザ・ハンドレッドを使用する!中央の迷宮に居る魔法使いを総動員して、海側に防壁を構築して身を守ってくれ!」
そして叫んだ。
「VCO! 武器選択! ザ・ハンドレッド――ッ!」
アルティメットストライカーの両肩から背中にかけて光の粒子が集まる。
そして遂に超広域絶対殲滅破壊兵器ザ・ハンドレッドが、初めて現実世界に具現化したのだった。
次回更新は来週金曜日の夜から土曜日の朝までの間となります。
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