第百三十九話 怒涛のファイトバック
BREWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW!!!
BREWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW!!!
ミナセが装備したハイパーコンバットチェインガンが、野太い咆哮を二重奏で奏でた。
本来ならもっと軽い射撃音の筈だが、ミナセの強化魔法の影響下なので威力は高レベル武器クラスにまで嵩上げされているらしい。
そして怒涛の勢いでばら撒かれたナノマテリアル製弾丸は、ミナセが目の前に作り上げた四つの魔方陣にランダムに吸い込まれていくと、続々と四つの弾幕となって反対側から飛び出した。
その四つの弾幕は風魔法が付与されているらしく、弾丸一発一発が風の推進力を利用して弾速を二倍にも三倍にも引き上げて、
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
と、目にも止まらぬ速さでウラノスの体を撃ち抜いていく。
更に着弾した弾丸は体内で竜巻やかまいたちを発生させているらしく、ウラノスの巨体のあちこちで風きり音が鳴り響いてどす黒い鮮血が噴き出した。
「――風属性か! ならば俺は――」
今目の前に浮かんでいるミナセと一緒に作った魔方陣は赤色をしていて、恐らく火魔法の魔方陣で間違いなかった。
火属性の攻撃は既に一度体験しているので、出来るならもう少し違う攻撃を試してみたいと言う衝動に襲われていた。
本来は中レベル武器の筈なのに、あれだけの破壊力を見せつけられたら当然だ。
それは純粋にミナセへの対抗心と言うのもある。
別の意味で闘争心に火が付いてしまったのだ。
俺は先程の感覚を思い出しながら、右手を突き出して見た。
体中を巡っている筈の魔力を感知しようと、心を澄まして髪の毛から足の指先まで意識を巡らせてみる。
すると拍子抜けする程いとも簡単に、全身を流れている温かい芯のようなものがはっきりと認識できるではないか。
「おお……っ」
思わず声が漏れ出してしまう。
こうも簡単に魔方陣が作れてしまったのも、ミナセが感触と感覚を植え付けてくれたからに違いない。
もしかしたら強化魔法の影響で能力の全般が底上げされていることも関係あるのかもしれない。
とにかくそれは全てが片付いてから検証することにしよう。
今は集中だ。
頭に描いたイメージを温かい奔流に乗せる。
脳内映像は脳髄を飛び出し、魔力の奔流に運ばれて全身を駆け巡る。
そしてそのまま右の掌から押し出すように、全身の筋肉を、意識を、意思を仕向けた。
温かい奔流が掌に差し掛かると、それは波動となって体の中から飛び出して行くと、赤い魔方陣と重なる様にして新たな魔方陣が空中に出現した。
「やった!? 俺にも作れた――!」
「――銀色の魔方陣!? そんなの私も作ったことないよ!? タイガ、一体どんな魔法を思い描いたの!?」
ミナセは思わず攻撃を中断して、俺の作った魔方陣を呆然と見つめていた。
その驚いた顔を見るのが心地良い。
「それは見てのお楽しみってことで! 行くぜ! ヘカントケイルファイアバンチバージョン!」
BOOOOWWWWWRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!
BOOOOWWWWWRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!
約十五秒で発射された計千発の弾丸は、まず最初の銀色の魔方陣に吸い込まれていく。
そして二つ目の赤い魔方陣の反対側から飛び出した時には、全ての弾丸は直径が握り拳サイズにまで巨大化していて、更に一発一発が紅蓮の炎を纏っていた。
「はあっ!? 弾丸を巨大化させたの!?」
ミナセの素っ頓狂な声を尻目に、火炎巨大弾幕と化した千発のナノマテリアル弾は、ウラノスに容赦なしに襲い掛かった。
ただでさえ破壊力抜群だったヘカントンケイルの弾丸が、握り拳大に巨大化した威力は凄まじく、
一発辺りの弾痕は軽く二メートル以上もあった。
それが千発分だ。
燃え盛る弾幕は巨大な炎の刃となって、ウラノスの前面中央からそのまま後方へと一瞬にして駆け抜けて行く。
腐った肉団子のような全長約三百メートルあまりの巨体は、一瞬にして真ん中から二つに引き裂かれた。
しかも切断面には広範囲に渡って炎が広がっていて、神速治癒による結合再生をまんまと阻止していた。
「くうーっ、やっぱり高レベル武器の破壊力は見ていても惚れ惚れするわね……! でも魔法ミックスの攻撃はまだまだ私の方が上手なんだから!」
どうやらミナセにも火がついてしまったらしく、ハイパーコンバットチェインガンを投げ捨てると、両手に爆炎放射器を装備した。
一丁当たり五つの爆炎が噴射されると、前方の空中に出現した二つの魔方陣にそれぞれ吸い込まれていく。
そして二つの魔方陣の反対側からは、二匹の巨大な炎の龍が飛び出した。
古代遺跡の地下で見せた荒ぶる鬼火と言う、ミナセの魔法攻撃だ。
しかし今回違うのは、火炎龍の一つは紅蓮に燃え盛る炎の体に青白い雷を纏い、もう一つは無数の岩石を纏っていたことだった。
しかもミナセは標的を絞っているらしく、二つの火炎龍は左の分裂体だけに纏わりつくように攻撃をしていた。
巨大で長い爆炎の帯は、ウラノスの肉体の上を滑るように移動しながら皮膚と筋肉を焼き尽くし、更に雷が肉体の芯まで焦がした。
そしてぐつぐつと煮え滾って真っ赤になっている岩石が絶えず投下されていて、ウラノスの肉体を溶かしながら沈み込んでいた。
「――タイガ! まずは左から片付けよう! このまま畳みかけるわよ! いい!?」
「任せとけ! 総当たり攻撃モードで行く! お前が名付けてくれた空想科学兵器群の神髄を見せてやるっ!」
俺はビッグバンタンクからアルティメットストライカーへ換装する。
「VCO! 武器選択! ストライクバーストドリフター、ダブル! 武器選択! キュベレーオメガ! 武器選択! 七つの大罪! 武器選択! 多腕支援射撃システム!」
右手にミサイルランチャー、キュベレーオメガが。
左手にグレネードランチャー、七つの大罪が。
背中には多腕支援射撃システム、六本の火炎砲が。
そして両肩には必殺の対巨大構造物破壊兵器、ストライクバーストドリフターが装備される。
「ここで決めてやる……!」
俺はもう一度魔方陣を構築するために集中した。
一度作った魔方陣は、ある程度の時間が経過すると消滅してしまうらしい。
しかし先ほど自力で作った感触と感覚はしっかりと俺の中に残っているので、難なく魔方陣を作ることが出来た。
イメージしたのは先ほど同じ巨大化だ。
この着想は、エマリィから聞いた地下遺跡での死闘のあらましと、実際にこの目で見た巨大化したロウマが元になっている。
肉体強化、肉体変質…呼び方はどうであれ、実際に魔法で巨大化が可能ならば試してみない手はない。
そして音楽用語におけるファンタジアとは、形式にとらわれず自由な発想で作れた楽曲を指す。
ミナセの口から飛び出したこの言葉がトリガーとなって、俺の中の先入観や固定観念が破壊されたように思う。
そもそも元はと言えば、ゲームの中のアイテムに過ぎない近未来兵器が、実際にこうして具現化していること自体がぶっ飛んでいてナンセンスなのだが、更に魔法で強化できるとしたならそれはもうナンセンスではなく、ただ痛快と言うしかない。
だから俺は引き金を引く。
この大いなる力を手にした責任と自覚を胸に刻む前に、引き金を引く。
責任や自覚なんてものは、まずは目の前に立ち塞がる強敵をぶっ叩いてから考えればいい。
誰に何を言われようと、どんな非難を受けようと、それが俺の特権なのだから。
この大いなる力を手にした者の特権を余すことなく享受してやろう。
己の道徳観を信じて、一片の迷いもなく引き金を引く。
だって、それが俺の正義だから――
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパン!!!
キュベレーオメガから発射された五十発のマイクロミサイル群は、魔方陣を通り抜けると野球のボールサイズからバレーボールサイズへ巨大化すると、左側の分裂体へ猛然と襲い掛かった。
更にすかさず、
ジュッポポポポポポポッシュ!!!
と、独特の射出音とともに七つの大罪が、七点バーストでグレネード弾を撃ち出した。
七発のグレネード弾も魔方陣をすり抜けると、全長が一メートル近い砲弾へと変化していて、七連発同時着弾で分裂体の三分の一を跡形もなく吹き飛ばした。
続いて背中の多腕支援射撃システムの六本のアームから噴き出した火焔が、魔方陣を通り抜けて大河のように成長すると、分裂体を紅蓮の奔流に飲み込んだ。
そこへキュベレーオメガの巨大化マイクロミサイル群が一斉着弾。
更にそこへ既に何度目かとなるミナセの荒ぶる鬼火も加わったので、ウラノスの分裂体の全身は真っ黒に炭化していて、瀕死状態になっているのは明白だった。
しかしだからと言って追撃の手を緩める筈もなく――
炭化した分裂体の胴体に二発のストライクバーストドリフターが突き刺さった。
しかも全長が十メートル近くも巨大化したサイズだ。
先端のドリルが唸る。
高周波を轟かせて、ドリルミサイルが分裂体の中心を目掛けて体内へ潜り込んでいく。
刹那。
ダン!
ダン!
と、大地が激しく突き上げられたような衝撃が二回連続で鳴り響くと、分裂体が一気に五倍近くまで膨張した。
ギリリッ…と皮膚と筋肉が引き裂かれる音が鳴り響くが、分裂体はギリギリのところで踏ん張っていた。
しかし体内で生じた爆発の圧力には逆らえず、体はますます膨張していく。
そして分裂体の体が十倍近くまで膨張した時に、ついに根負けしたかのように体が盛大な破裂音と共に弾け飛んだ。
「やった! タイガ、あの化け物を倒したわよ!」
ミナセがフェイスガードを上げて満面の笑みで振り返った。
その顔には死にたいと嘆いていた影は微塵もなく、その事が本当に嬉しかった。
ついでにトリプルケトイエピデンドラム保持者の鼻をあかせた事も嬉しかったが、ここでマウント発言をすると己の小ささを露呈してしまうことになるので、ガッツポーズは心の中でひっそりとする事にした。
「わかってるって。でもまだ一体残ってる。このまま押し切ろう!」
と、残りの分裂体目掛けて攻撃を再開しようとするが、思わず体が硬直してしまう。
何故なら北西の空に、いつの間にか巨大な何かが浮かんでいたからだ。
「な、なんだあれ……!? いつの間にあそこに……?」
距離にして約五百メートル離れた空に浮かぶのは、いろんなパターンの幾何学模様が重なり合って出来ているような奇妙な形をした構造物だった。
船とも飛行機とも違うそれの大きさは一キロ近くもあって、とにかくデカいと言う印象だ。デカくて奇妙で、どこか神々しい。
すると黄金聖竜の声が頭の中で鳴り響いた。
――どうやら間に合ってくれたようだ。古の盟約により援軍に駆け付けてくれたのは、盟友妖精族の王とその一族だ。少年よ、あの浮かぶ城こそ彼らの旗艦だ。心配はいらぬ。名は飛空城アルノルディィ。
「飛空城アルノルディィ……」
そのどこか心揺さぶられるネーミングと、音もなく近付いてくる偉容に、俺は期待と不安が入り混じる胸で空を見上げていた。
次回更新は来週の金曜日の夜となります。
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