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ウルトラガジェット・ファンタジア ~異世界空想科学兵器英雄譚~  作者: 王様もしくは仁家
地下迷宮の死霊と復活の古代魔法兵器・3
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第百二十三話 パンデミック オブ ホーンズ

 イーロンとテルマの二人は屋根伝いに、北の貴族街を目指していた。

 通りではリザードマンの軍勢が、逃げ惑う人々に襲い掛かっている。

 その様子を横目で伺っていたテルマが、何かに気付いて足を止めた。


「イーロン、チョー待って!」


「どうしたテルマ?」


 イーロンが足を止めて、通りの様子を真剣な顔で伺っているテルマの横に並んだ。


「てっきりリザードマン達は略奪目的で街の人を襲っているのかと思ったけど、チョー違うみたいっす。確かに抵抗する人間は容赦なく殺しているっすけど、大体は生け捕りにしているみたい。そしてどこかへ連行しているっす。ほら、ちょうどあそこで――」


 と、テルマが指差した先では、丁度ヒト族や獣人族の市民をリザードマンが数人掛かりで取り囲んで、どこかへと誘導しているところだった。

 それを見たイーロンも怪訝な顔になり、二人は屋根伝いにその一団の後を追いかけた。


 そしてしばらく進んだ先で二人が見た光景は、広場に鎮座する円筒形をした鋼鉄製の巨大ゴーレムと、リザードマンが連行してきた市民が、次々と巨大ゴーレムに呑まれるという悍ましい光景だった。

 更にゴーレムに呑み込まれた市民は、しばらくするとゴーレムの下部からぼとぼとと吐き出されているではないか。

 しかもリザードマンたちと同じような、二本の角を頭から生やして――


「――やはりここでも叫ぶもの(スクリーマー)を生み出していたか……! いや、彼らは生きたまま改造されているから、さしずめ有角人(ホーンズ)と呼んだ方が相応しいのかもしれない……。とにかくこの国でリザードマンが迫害されていた事は、少なからず耳にしていた。それなのに何故か、迫害していた筈のヒト族のヴォルティス家と結託して、今は市民に無差別に襲い掛かっているからおかしいとは思っていた。そして、サウザンドロル領大騒動の発端となったのと同じ、異世界の稀物(マレモノ)であるゴーレム……。この連合王国で今、一体なにが起きていると言うのだ……」


「サウザンドロルでの大騒動は、タイガ殿と一緒に異世界転移してきた、プラントと呼ばれる稀物(マレモノ)が勝手に引き起こしたと言うのが、タイガ殿の見解っす。でも、リザードマンとヴォルティス軍の共闘や、プラントに手を貸しているリザードマン達、それに何よりもあのプラントどもは、連合王国の城の地下から出てきたっす。この騒動は決してプラントが勝手に引き起こしているとは思えないっす。連合王国王室がプラントを利用しているか、背後にはタイガ殿のような稀人(マレビト)が居て、裏で全てを操っているとしか……」


「つまりユリアナ様はその何者かの陰謀に巻き込まれたか、もしくは利用されようとしているという訳だな……」


「たぶん」


 と、テルマが呟いた刹那、二人は背後に漂う殺気に気付いて弾かれたように振り向いた。

 そして絶句。

 いつの間にか大勢のリザードマンやヒト族や獣人族の市民が、屋根の上によじ登っていたからだ。

 年齢や性別は老若男女様々だったが、全員の共通点は頭に水牛のような角が生えていて、青白い顔に曇ったガラス玉のような瞳をしていることだった。

 屋根に上りきっているのはざっと十人程度だったが、今も続々と壁をよじ登って来ているので、みるみるうちに数が増えていくではないか。


「――有角人(ホーンズ)!」


「チョー見つかったっす。イーロンどうするっす!?」


「我らが優先すべきは、あくまでもユリアナ様の救出だ。このまま北の貴族街を目指してハティと合流しよう……」


「チョーわかったっす……!」


 イーロンとテルマはじりじりと後退した。

 数十人の有角人(ホーンズ)たちも、二人を取り囲むようにじわじわと左右に広がりつつ包囲網を狭めた。

 そして――

 イーロンとテルマが屋根の端まで追いつめられると、一斉に有角人(ホーンズ)たちが飛び掛かった。


「飛ぶぞ、テルマッ!」


 イーロンの掛け声で、二人は通りを飛び越えて反対側の家の屋根へ着地した。

 勿論二十メルテ(メートル)近い距離を軽々と飛び越えられたのは、RPGロイヤルプロテクションガードスーツに装着されているフレキシブルアームのお陰だ。

 そして二人は着地と同時に、北の方角へ駆けだした。


 しかし背後でドスッドスッと鈍い音が立て続けに沸き起こったので、二人は走りながら振り返った。

 すると、あろうことか有角人(ホーンズ)たちは生身の肉体にも関わらず、二人と同じ距離を飛び越えて追走してくるではないか。

 しかもその中には体が大きくて重たそうなリザードマンや、年老いたヒト族の老人に年端のいかない獣人族の少女までもが含まれているのだ。

 その事実はイーロンとテルマを震撼させるには、十分すぎる程のインパクトがあった。


「ちょちょちょちょちょっとどういう事すっかーっ!? 叫ぶもの(スクリーマー)だってあんな動きはチョー出来なかったっすよ!?」


叫ぶもの(スクリーマー)の上位種みたいなものなのだろ! しかし、これは厄介だぞ――」


 イーロンは走りながら、並走している通りを横目で捉えていた。

 今、通りでは大勢の有角人(ホーンズ)がひしめき合っていて、イーロンたちの動きに合わせて移動していた。

 数は見える範囲だけでも、ざっと千人近い。

 しかもその人波のあちこちが突然こんもりと膨らみ始めたかと思えば、巨大な柱のように一気に屋根の高さまで伸び始めたではないか。

 それはよく見れば、群集が支え合って出来ている人の柱で、それを他の有角人(ホーンズ)たちがわらわらとよじ登っては、次々と屋根に飛び移って来るのを見て、普段は沈着冷静なイーロンもさすがに取り乱した。


「そんな無茶苦茶な! テルマ、頼む!」


「イーロン、ここは屋根の上っす! 土魔法はチョー使えないっす!」


「ああ、そうか……! ならば私を背負って走れ。タイガ殿とエマリィのように! このままでは奴らに呑み込まれるぞっ!」


「チョー了解したっす! イーロン、来て――!」


 と、テルマが叫んだ。

 その声に合わせてイーロンは走りながらジャンプ。

 空中で体を捻って背中合わせの状態になると、イーロンのRPGロイヤルプロテクションガードスーツのフレキシブルアームが、テルマの体に絡みついた。

 一気にイーロンの全体重が、小柄なテルマの体に圧し掛かる。


 RPGロイヤルプロテクションガードスーツは、ABCアーマードバトルコンバットスーツと違って、装着者の体力や筋力を増強する機能は付いていないので、テルマの体はそのまま重みに負けて転びそうになった。

 が、寸でのところでテルマは、RPGロイヤルプロテクションガードスーツのフレキシブルアームを脚代わりに切り替えた。


「「合体できた!」」


 二人が同時に叫ぶ。

 そして、押し寄せる有角人(ホーンズ)の波に呑み込まれそうだった二人の体は、ギリギリのところで加速を始めて追手をぐんぐん引き離していく。


「テルマは走る事だけに集中しろ!」


「あいよ! 追手はチョー任せたっす!」


 テルマに背中合わせで背負われているイーロンは、剣を抜くと同時に、目の前に複数枚の魔法防壁を展開した。

 そしてそれを次々と剣で弾き飛ばして、迫り来る有角人(ホーンズ)たちを弾き飛ばした。

 しかし多勢に無勢。

 イーロンのその攻撃では、圧倒的な数を誇る有角人(ホーンズ)に対して、火力が絶対的に不足していた。


 ただイーロン本人も、その事は十分にわかっていた。

 だから彼は目の前に、三十センチ四方の防壁を半円球状に配置して、テルマの背後をほぼ全面に渡ってカバーすると、最も接近した個体だけを狙い撃ちした。


――しかし、これだけの集団に驚異的な運動能力と尋常では無い速さで攻められたら、どんな騎士団も一溜まりもないな。自分たちが辛うじて逃げ切れているのは、屋根の上だからだ。平原のような平坦で開けた場所だったらとても……


 イーロンは防壁の隙間から、有角人たちを改めて観察して生唾を飲み込んだ。

 個体にして群体とでも言うべきか。

 特に互いに意思の疎通をしたり、誰かが指揮をしている風には見えないのに、その動きはまるで意思統一されたように統制が取れている。

 まるで獲物を磁石とするならば、さしずめ有角人は砂鉄と言ったところか。

 しかも今や見渡す限りの屋根の上と通りには、溢れんばかりの有角人の姿で埋め尽くされていて、イーロンとテルマと言う磁石に吸い寄せられていた。

 テルマは走る。

 屋根の上を走って飛んで飛び越えて、また走る。

 イーロンは突いた。

 とにかく近付く有角人を目掛けて、防壁を突いて飛ばしまくった。

 そして――

 

「なんかチョー見えて来たっす……!」


 テルマの声に、イーロンが前方に目を向けた。


「なんだ……? 街の一画に魔法防壁が張り巡らされているのか? という事は、あそこがルード家の貴族街!?」


「とにかく飛び越えるっすよ! チョーつかまって!」


 テルマはこれまでで最大限のジャンプを繰り出すと、通りを、そして聳え立つ魔法防壁を飛び越えていく。

 二人の合体が空中で解ける。

 そして二人はほぼ同時に着地するが、体は勢い余って地面を転がっていく。


「一体ここで何が起きたんだ……?」


 と、立ち上がったイーロンは、周囲の景色を見て呆然とした。

 周囲の建物は跡形もなく吹き飛ばされていて、所々に瓦礫の山があり、その間を縫うようにして転がっているのは、武装したリザードマンの死体だ。

 まさに嵐が過ぎ去ったばかりのような凄惨な光景が広がっていた。

 すると、背後で声がした。


「――お主らか、どうしたのじゃ……!?」


 その聞き覚えのある声に、イーロンとテルマが振り向く。

 ハティは大破したゴーレムの上で胡坐を掻いて座っていたが、その姿はボロボロに傷付いていて、今にも倒れてしまいそうな程に憔悴していた。


「ま、まさか、これは全部ハティがやったのか……?」


「傷だらけじゃないっすか! 今治癒魔法をチョーかけるっす!」


「すまぬのう。ポティオンは全て使い切ってしまったのじゃ。しかし、魔力(スタミナ)には自信があったのに、魔力切れまで追い込まれたのは、いつ以来だったか……」


 と、今にも電池が切れそうな感じで話していたハティが、突然犬歯を剥き出した。


「くく、お主ら、随分と奇妙な連中を連れて来てくれたではないか……」


 血族旗(ユニオントライブ)を杖代わりにして、よろよろと立ち上がるハティ。

 イーロンとテルマたちを追いかけてきた有角人(ホーンズ)たちは、二人の様に魔法防壁を飛び越えようとしたが叶わずに、ぼたぼたと通りの上に落ちたかと思えば、その人の山が積み重なった挙句に巨大な橋と化していた。

 その人肉橋を通って、ぞくぞくと後続の有角人(ホーンズ)たちが防壁のこちら側へとなだれ込んでいた。


「地上の上ならチョーこっちのもんすっよ!」


 テルマが地面を叩いた。

 巨大な土の壁が出現して、有角人(ホーンズ)の進撃を食い止めた。

 有角人(ホーンズ)の軍勢は左右に分かれて壁を迂回するが、迂回した群れの前に、更に新しい壁が出現して――


「テルマ、キリがないぞっ。ここは一旦引くのじゃ。妾の魔力が回復したらドカンっと一発で仕留めてやるわ。だから、それまでは――!」


 その時、遥か頭上で火花が炸裂した。

 それは大小様々な無数の爆発で、耳を劈き、腹に響く重低音の音を伴っていた。

 そして一際大きな二つの爆発が起きたかと思えば、都市を覆う魔法防壁が盛大な音とともに砕け散った――

次回更新は来週金曜日の夜となります。

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