第百十七話 復活の邪神魔導兵器・2
ビッグバンタンクに換装した俺は、森の中で息を潜めて邪神魔導兵器の動向を伺っていた。
邪神魔導兵器までの距離はおよそ五百メートル。
敵は完全に俺の姿を見失ったらしく、今は砲撃も止んでいる。
どうやらこちらが焦れて動き出すのを待っているらしい。
と、思ったのも束の間、進路を反転して動き出す邪神魔導兵器。
「――うん? 深追いはしてこないってか。余裕綽々で気に入らねえなあ……」
更に気に入らないことがもう一つ。
邪神魔導兵器が向かった先には王都があると言うことだ。
「まさか王都へ向かうつもりなのか……!? それはマズいだろ、流石に!」
衝動的にPAMAS-2 モンスタースパイクを装備した。
portable anti-monster assault systemと名付けられた携行式多目的ミサイル砲で、ゲーム内では最難関のヘルモード序盤で入手可能であり、ビッグバンタンクの「ミサイル/ロケット砲」の中で上から三番目の威力を持つ武器だ。
三種のABCスーツ全てで、ヘルモードを完全クリアできていなかった俺にとっては、ビッグバンタンクで使用できる最強火力の一つでもある。
装弾数は二発しかなくリロードタイムも長めだが、その分一発当たりの火力は五千HPと強力だ。
そして特筆すべき特徴は、多彩な弾道モードと発射システムにある。
まず弾道モードは、上空から敵に襲い掛かるトップアタック、次に直線的に直撃させるダイレクトアタック、最後がビルの間などの遮蔽物に隠れながら突き進むシークレットアタックの三つだ。
それを可能にしているのが、ミサイル先端の全天球カメラによる画像赤外線シーカーと、内臓AIによる自律誘導システムだ。
俺はモンスタースパイクから伸びるケーブルを、ビッグバンタンクのスロットへ突き刺す。
するとバイザーモニターには、モンスタースパイクのスコープが捉えている映像が別ウインドウで映し出された。
約五百メートル先の邪神魔導兵器は、相変わらず王都がある方角へ突き進んでいて、無防備な背中が丸見えだった。
モニター上のターゲットカーソルが、巨大化ロウマの背中をロックオン。
俺は砲身のダイアルでシークレットアタックを選択すると、引き金を引いた。
カチッカチッと小気味良い音が連続で鳴り響く。
そして、
シュポン! シュポン!
と、全長一メートル五十あるモンスタースパイク弾と名付けられたミサイルが、射出用モーターによって発射筒から押し出された。
そしてそのまま数メートルほど突き進んだところで、ミサイル後部でシャキンと四枚の安定翼が展開。
直後、最後部の推力偏向装置が点火。
ズバババババババババ!!!
と、盛大に後方爆炎を噴き出しながら、水平飛行のまま森の木々の間を駆け抜けていく。
この射手から離れたところで、ミサイルの飛行装置に点火する特徴的な発射システムのおかげで、敵に発射地点がばれるのを防いでくれる。
それに加えてシークレットアタックモードで、二発のモンスタースパイクは現在森の中を潜伏しながら駆け巡っている最中なので、尚更こちらの位置が露見しにくいという訳だ。
そして俺は引き金を引いた直後に、ビッグバンタンクからフラッシュジャンパーへ換装。
傍らで背負い子に跨ったまま待機していてもらったエマリィを回収するとともに、ミサイルとは逆方向へ猛ダッシュ。
フラッシュジャンパーの機動力を最大限に生かして、山肌を駆け上がっていく。
予め目星を付けていた地点までやって来ると、エマリィを背負い子ごと下ろしながらボイスコマンドを詠唱する。
「――VCO! 換装! アルティメットストライカー! 武器選択! アマテラスF-99!」
素早くスコープを覗けば、山の斜面を二百メートルほど駆け上がってきた甲斐あって、邪神魔導兵器の姿がはっきりと見える。
しかも周囲には適度に木が生い茂っているので、向こうからこちらは発見しにくい筈だ。
そしてモニターの端に見える森の中から、二つのモンスタースパイクが白煙の筋を引きながら勢いよく立ち上がった。
「くうーっ、タイミングドンピシャ!」
パズルの最後のピースが埋まったような快感に、思わず脳内でドーパミンとエンドルフィンが大量に溢れ出す。
森を抜けた二発のモンスタースパイクが、一直線に邪神魔導兵器の背中に鎮座している巨大化ロウマ目掛けて突き進んで行く。
一方バイザーモニターに映し出されているアマテラスのスコープ映像の中では、風向き、風速、気圧、温度を示す三角形のアイコンが浮かんでいて、銃口の動きに合わせて四つのアイコンが弾道予測サークルの中へ集まって来る。
そして四つのアイコン全てがサークル内に収まった瞬間、俺は引き金を絞った。
ズバァン!!!
と、強烈で乾いた射撃音が周囲の空気を震わせた。
すかさずボルトハンドルを引いて薬室開放と排莢。
続いてボルトハンドルを押し込み、次弾装填と薬室閉鎖。
もう一度、人差し指に力を込める。
ズバァン!!!
二発目のナノマテリアル弾が秒速950メートルで銃口を飛び出すと、約五百メートルの距離を一気に駆け抜けて、初弾から少し遅れてロウマの後頭部を撃ち抜いた。
直後、今度は二発のモンスタースパイクがロウマの背中で炸裂する。
しかし攻撃はそれでは終わらない。
俺は爆炎を纏うロウマの巨体を目掛けて、アマテラスの引き金を粛々と引き続けた。
三発目、四発目、五発目と、神に祈る儀式のように一心不乱にボルトアクションを操作して、近未来科学が生み出した鋼鉄の破魔矢を放ち続けた。
そして全弾十二発、ヒットポイント換算で八万四千の破壊力を撃ち尽くしたところで、俺は確かな手応えを感じつつモニターを注視した。
だが、
「やはり、そうなるってか……」
と、強がりを口にしたものの、やはりアマテラスの破壊力が無効化されている事実を知って、いささかのショックを受けていた。
モニターに映る巨大化ロウマの上半身のあちこちには、一メートル大の射撃痕が穿たれていたが、それは現在絶賛修復中だったのだ。
エマリィからロウマが使う上位魔法と神速治癒について、ある程度のことを聞いていたとは言え、やはり実際に目にすると衝撃は大きい。
しかもこちらは、三兵科の中で最強の狙撃銃アマテラスを使用しているのだ。
アマテラスはその破壊力ゆえゲーム内では制限をかけるために、連射が出来ないボルトアクション方式を敢えて採用してある。
それでもゲーム内では遠方からアマテラスで敵の体力を削るという戦法が出来たが、今目にした感じでは神速治癒の治癒力の速さと、アマテラスが全弾を撃ち尽くす速さはほぼイーブン。
それでは対邪神魔導兵器には遠距離攻撃は、ただ時間を浪費するだけの愚策になってしまうと言う事。
そうなると、残るは――
「高レベル武器による飽和攻撃のアクセルタイムか――」
アクセルタイムとは、異世界転移によりゲームの武器所持数制約から解放された高レベル武器群を、敵がぶっ倒れるまで延々と行使し続ける時間を指す。
無限ループを表すコンピューター用語をもじって、オルダーソン・コンボ・ストーム・エターナル・ループ-Alderson COMBO STORM Eternal Loop-と、俺が名付けたのだ。
DPL-Damage Per Loop-(ループ一巡当たりの攻撃力)は、なんと約二十五万を誇る。
しかもこの数字は攻撃力が公開されていないボーナスウェポン「ザ・ハンドレッド」を除外し、使用武器も片手持ち限定と言う、最低限の条件でさえこの攻撃力なのだ。
アクセルタイムなら奴の神速治癒を上回り、空想科学兵器の咢で喉笛を噛み千切ることも容易い。
しかし、その為には――
「エマリィ、さっき邪神魔導兵器が撃った大砲の威力を覚えている?」
「え!? うん、覚えているけど……」
俺のすぐ横で背負い子に跨ったまま待機すると言う、よく見たらすごいシュールな姿で待っていたエマリィは、突然話を振られて戸惑っていたが、すぐにこちらの考えを察してくれたようで顔が引き締まっていく。
やはりこういうツーと言えばカーみたいな意思疎通ができると、理解が深まりあっていることを実感できて何気に嬉しい。
ああ、ステラヘイムに戻ったら結婚したい。
「つまりあの大砲を防げばいいのね? タイガ、任せて。ボクには秘策があるから絶対に止めてみせるっ!」
「おおっ……!」
躊躇することなく言い切った!
やっぱり神様仏様エマリィ様や!
やだ、どんどんこの娘に夢中になっていくあたいが居る。ウフッ。
なんだかエマリィの全身から溢れる闘志に中てられて、俺の体のど真ん中もカーッと熱を帯びてくる。
「――エマリィの事は絶対に守って見せるから! だから俺の背中は預けた……!」
「はい!」
俺は背負い子ごとエマリィを背負うと、早速斜面を駆け下りていく。
すると頭の中で声がした。
――少年よ。
男か女か、若人か老人か、一人か大勢なのかよくわからない声――
見上げれば、黄金聖竜が頭上の雲の上を雄大に、そして神々しく旋回している姿が見えた。
次回更新は来週金曜日の夜となります。
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